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忌子物語  作者: あむ
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【36話】ローバの外出

ルナが隠居地に来て一年と二ヶ月が過ぎた。


全身の数多の傷は温泉の効果により癒えて、すべすべの肌になっていた。

荒れて乱れきっていた長くて黒い髪は、今は艶を帯びている。

その髪はポニーテールにまとめられていて、本来の綺麗な顔立ちを見せていた。

随分と成長し、身長も伸びた。


──餓鬼みたいだった少年は今や、すっかり綺麗になった。


そんなルナは今も毎日のようにラークとの訓練に励んでいる。

だが一年前とは違う。

誰かが虐待と言っても過言ではない厳しい訓練を、今では難なくこなせるようになった。

ボール避け訓練では、まだ完全回避とは程遠いが、回避する回数が増えていた。

ラークとの組手のみ難易度がやや上がったが、ルナは気付いていない。

訓練の強度をこれ以上上げると、単なる虐待もしくはルナの負傷につながるからだろう。

次第に減るようになったプランク姿勢での休憩、熊歩き、そして全力疾走は最後のクールダウンの時に組み込まれた。


恨の訓練は難航していた。

それでも進捗はある。

アンクレットの宝石は、黒色から濃い紫色へと変わっていた。

よく見ると、心臓の鼓動に合わせて色の濃さが揺らぐ。


ティアラとローバにより女装される日々は続いていたが、ルナは観念して受け入れていた。


また一つ、ルナが日課として組み入れたのがある。

それは料理だ。

その理由としては、飢えて不味いパンしか食べたことのなかったルナにとって美味しいものはある意味神聖なものであった。

そしてローバは厨房で何かをして、美味しいものを出してくれていた。


ルナは、その美味しいものを作る行為を「料理」というのだと知る。

つまり、もし自分で「料理」ができるようになると、その美味しいものを自ら作り食べることができるということだ。

故にローバにお願いをして、料理を習うことにした。


パン作りから始め、簡単な朝食程度は作れるようになり、訓練の休みの日にはルナが料理をする。

今は簡単な料理しかできない。

でもレシピ通りに着実に味付けや手順を追って作ったルナの料理を食べては、美味しいと、味見担当が笑いながら高評価した。


当然、味見担当はティアラだ。

──


そんな充実した日々を送っていたルナは、みんなと食堂のテーブルを囲み、夕食を食べていた。


食べ終える頃にローバはふと話を持ち出した。


「明日、ブロンが来たら、一緒に町に行ってこようと思うんです。

王国への定期連絡を忘れていました。」

ブロンが物資を配達する際には王国にその旨を込めた報告を送ってくれてはいる。

だが、それとは別にティアラの成長に関する報告はローバが直接送らなければならない。

ブロンに頼んでもいいが、律儀なローバはそこに妥協はしなかった。


今回の配送にラークは行っていない。

ラークが出発の用意をしようとした時に、伝書鴉がメモを届けた。

遠くて隠されている隠居地のためだけに、ブロンが仕入れて訓練させた特別な伝書鳥だ。


そのメモには、物量がそんなに多くないからブロン一人でも十分だという旨が綴られていた。

そして今回はラークも町に特に用がなかった。

故にラークは隠居地に残った。


ちなみにローバはティアラと二人で暮らしていたときには一人で町に行き来していた。

それはローバに護身術の嗜みがあるからこそ、できる行動であった。


──────────

一応、王宮メイドにも基本的な武芸を教える。

それはもし王宮で何らかの不祥事が起きた時の保険──それだけの理由ではないが──である。

メイドは王族を保護しなければならない。

故に殆どのメイドは騎士や上級冒険者程ではないが、少なくとも一般兵士や中級冒険者くらいの実力はあるのだ。

──────────


「じゃあ、一週間も帰ってこないの?」

ティアラが聞く。

何といってもまだまだ子供なのだ。

育て親が離れる事に不安を感じる。


「うーん、今回はもっとかかるかな?でも大丈夫よ。今は一人ではないし、ルナちゃんも、ラーク様もいるでしょう?」

安心させるように優しい声で答えるローバ。

そしてラークに言う。


「私がいない間に何卒よろしくお願いします。」

「ああ。」

適当に答えるラーク。


「ルナちゃんも、ティアラとこの家の事よろしくね?

ルナちゃんって家事も上手にできるようになったんだから、十分任せられるわ。」

ニッコリと笑いながら言うローバ。


「はい。わかりました。」

随分と饒舌になったルナ。

そして自然と『ちゃん』付けを受け入れている。


次の日の朝、ローバは町に行く用意をする。

ルナとラークに色々と必要な物を聞いて書き込んだメモも大事に持っていく。

ルナはよくわからないと言い、ラークはあれこれと言い、代金の入った袋と手紙のような物を渡す。


「では、行ってくるね。」

ニッコリ優しく笑い、町に出発した。


────────


ローバがいなくなり、ルナの日程が大きく変わった。


まず、午前中のローバの教育の全ての時間を恨の訓練に代える。

そして午前中には常にアンクレットを外した。

進捗は見えるが、恨のコントロールはやはり難航していた。


昼食後、昼寝をさせて準備運動が終わったらひたすらボール避けと組手と基本姿勢四つの転換をした。

一番目立つ訓練内容の変化は、ラークの組手の次にティアラと制限付きで組手の相手をさせたことである。


ティアラには魔法の駆使を禁じた。

ルナの攻撃禁止の旨はそのままだ。

しかし相手のティアラから何かが見えたら、それに手を出す事は許した。

ちなみにラークとの組手の際にもやれるもんならやってみろとニヤリと笑われながら言われていたことだ。


ルナは組手の前にこなした基礎訓練により、体力を大分消耗している。

そしてルナも成長はしたが、ティアラも成長をしたのだ。

結局、ティアラの方が体格もリーチも未だに勝っていて、それに加え、王宮武芸をローバから習っている。

その実力は一般兵士としても十分だった。


最初はティアラは手を抜いた。

しかしラークにすぐさま気付かれ、大きく叱られる。

ルナがいつか死んでもいいというのなら、そのまま手加減し続けてもいいぞと皮肉も言われる。

ティアラは全力でルナと組手をした。

そして毎回、ティアラにルナは敗れる。


最初はティアラは喜ばなかったものの、ルナの訓練に慣れるにつれドンドンとドヤ顔をするようになった。


──ちなみにいつぞやティアラはルナとラークの訓練を覗き見したことがあった。


そして衝撃を受けた。

見るだけでも残酷で厳しい、単なる虐待に映ったからである。

わざとボールを当て、自分が当てたボールを咥えさせて四つん這いで走らせ、ボールを拾わすために全速力で走らせる。

まるで犬だ。


ルナが果てたらプランク姿勢で頭に水をぶっかけるのだ。

休みもなく体を酷使させる。


その後のラークの組手ではルナは攻撃を禁じられる。

端から見たらどう見ても巨漢が小さな子供を圧倒的な力で虐めているようにしか見えない。

しかも倒れている事を許さず、厳しく立たせる。

そして続けられる。


当時初めて見たこの訓練にティアラは激怒し、自分が覗き見したことも忘れ、ラークに猛抗議をしたのだ。


しかしラークは一言でそれを一蹴する。


「こいつには汗を流させる。血の代わりにな。」

──


ちなみに家の家事はなんとラークが全部担っていた。

料理もローバ程ではないが美味しく、洗濯や掃除もそつなくこなしていた。

それを面白不思議そうに見るルナとティアラ。

ルナは最初は手伝おうとしたがラークに止められる。


「ほう、手伝う余裕があるのか。」

と皮肉を言われる。


そして日課の最後にはいつもルナとティアラが同じベッドで寝た。

────────

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