【32話】瞑想
ルナが泣き止み落ち着くと、ラークはルナに訓練の指示を出す。
「これからお前はまず、この恨を感じる事から始める。
その恨をコントロールして、次は外部の杖の色を透明にさせる。
最終的には内側の水晶の色も透明にする。」
「その場で座れ。
目を閉じて感じてみろ。
水晶を黒く変えた源はお前の奥に存在する。
お前ならすぐに見つけられるはずだ。」
ルナは体育座りをして、ゆっくりと目を閉じる。
そして感じようとする。
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ルナの意識は深くまで潜る。
そして自分を苦しめたものを探す。
もっと集中する。
周りの音や感覚全てを遮断する。
息をする。
──スー....ハー...
吸ったり吐いたりする。
その音が聞こえる。
さらに探る。
──ドクン...ドクン...
心臓の音だ。
自分の体に必死に血液を運ぶ。
その血液の流れを感じながらさらに深く潜った。
──見つけた。
波動が出るのを感じる。
そこまで意識を持っていく。
ルナの下腹部、丹田というところにあった。
丹田とは、生き物の源があるところだ。
正式な内臓ではない。実物の機関もない。
ただ、魔力の流れなどを研究をする医療魔導を扱う研究者たちが明かしたものだ。
心臓の動きから始め、呼吸や内臓の活動、あらゆる生命の活動の源となっているらしい。
最も生命活動が活発な位置だ。
また、魔力の根源でもある。全ての魔力はここから始まる。
その魔力は脈という、血が流れる血管のような道から流れ、最終的に放出される。
下腹部を深く怪我すると魔力が落ちる事例もあった。
女性が子を孕んだ時に子の住み床、すなわち子宮が下腹部にある理由もこういった理由らしい。
ルナは見つけたものはいいものの、どう抑えればいいのかわからない。
ただ、心臓の鼓動に連動して波紋を作っているのは確かだった。
確実に止める為には死ぬしかないだろう。
しかしルナは死にたくないと強く思う。
意図的に波紋を作っている丹田をより確実に感じようとする。
感覚を丹田に集中する。
──ドクン...ドクン...
丹田のさらに奥に濃い紫黒色の玉のようなものを感じた。
心臓の鼓動に合わせて波動を送っている。
引き続き集中する。
──捉えた。
紫黒の玉の存在が、確かにあったのだ。
意識を向ける前まではわからなかった。
しかし一度意識内に捉えたこの玉は、気を抜いても感じることができるくらいはっきりとその存在感を現していた。
また、それに加え、制御ができそうな気がした。
例えるなら、負傷してしばらく麻痺した手足の状態のようだ。
その手足の感覚を戻すように、少しずつ制御を試みる。
波紋が弱くなるように抑えてみる。
しかし上手くはいかない。
ラークの声がする。
「時間切れだ。」
目を開けると入り口の柱が見えた。
黄金の色がさっきより弱っている気がする。
二時間くらい経ったのだろうか。
ルナは周りを見渡した。
内外部の水晶の色はそのままだった。
だが、落胆はしなかった。
「見つけたみたいだな。」
その様子を見たラークはこう言いながらルナにアンクレットをつける。
周りの黒い水晶は透明になった。
「アンクレットをつけていても訓練はできる。四六時中...常に意識していろ。」
とラークは言った。
その後、容赦ないラークはルナといつも通りにボール避けをさせ、組手をし、素振りをさせた。
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ラークは思案する。
ルナは今、恨の源を探す為の瞑想をしていた。
初めて恨の根幹に触れようとしているのだ。
源を探すにも随分と時間がかかっちゃうだろう。
下手したら探せないかもしれない。
実は源があるというのは俗説であり仮説であった。
恨が変質・成長する事も過去の記録で推測したに過ぎない。
恨持ちが多くない故に、あまり知らされてない故に、その記録は全くないと言ってもいい程だった。
ラークも以前、とある機会で大昔の古き記録でたった一行だけ記録に残されてあったのを読んだだけだ。
また、何よりもルナと似たような者にも会ったことがある。
だが、似ているということだけであって、中身は全く違うかもしれない。
果たして、源はあるのだろうか?
あったとしても制御はできるのだろうか?
推測しかない記録と記憶だけを頼りにルナに指示をした。
自分の考えが正しい事を願った。
そのまま時間がただ過ぎていく。
スクロールの威力がそろそろ切れそうという時だった。
ラークはルナに終わりを告げようとした。
その時だった。
水晶の紫黒が僅かに揺らいだのだ。
それはルナが何らかの方法により源と接触したという事だろう。
しかしそれ以降は何も起きなかった。
これ以上長引くとローバに影響を与えてしまう。
もしかしたら既に少しずつ影響があるのかもしれない。
スクロールの再発動にはクールタイムが存在し、時間がかかる。
ラークはルナに告げた。
「時間切れだ。」
瞑っていた目を開けたルナの表情は悪くはなかった。
それを見たラークは確信した。
「見つけたみたいだな。」
内心この愛弟子を誇らしいと思いながら。
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