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忌子物語  作者: あむ
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【31話】信頼と配慮

ブロンは一晩泊まり、翌朝、別れの挨拶もそこそこに森へと帰っていった。

その後も、彼女は定期的に物資を運んできた。


そんな平穏な日々が続き──

ルナの訓練を始めて季節が2回変わり半年経った頃である。


ラークはルナとの午後の訓練を終えて、夕食を用意しているローバがいる食堂に訪れた。


「明日から午後にはルナが付けているアンクレットを取り外す。」

ラークは明日からのルナの訓練内容に変更があることを告げる。


「わかりました。しかし何故そのような事を?」

ローバはついそう遠くない以前に経験した恨の影響を思い出してしまい、声が震えた。


「以前にも話した事があるが、恨という体質は、本人であるルナにとっては危険だ。

それと...それを抑えているアンクレットだが、前にも言ったようにかなり脆い。

しかもルナのあれは俺が見てもかなり強い方だ。

ルナが成長するにつれて恨の力が増す可能性も高い。

つまり、今はどうにか堪えているが、あれがいつ割れるかわからないということだ。

だが、幸いなことに、これは抑えることができる。

あのアンクレットが割れる前に──」

ラークは語尾を濁す。

その横顔は、若干照れているようにも見える。


「──将来的には少なくともアンクレットなしで街中を歩けるようにしたい。

ローバ、君にこれを話す理由はこの洞窟の中で唯一恨の影響を受ける人だからだ。

いくら君が大丈夫だと言っても、その影響を抑えきれないかもしれない。

当然、訓練中は恨のオーラをこの部屋から出さない様に防ぐが...そう、万一のためだ。」

ラークはぶっきらぼうな態度だったが、優しかった。

この訓練によりローバがルナの事を忌み嫌ってしまうのではないかと心配しているのだ。

また、いずれ近いルナの将来も案じている。


「そんな心配しないでください。ルナの為ですもの。また恨が発動してもルナはルナです。あの時とは違いますから。」

その意味を汲み取ったローバは優しく笑いながら言った。


────────


次の日、ルナはいつも通り午前中の訓練を終え、昼食を取り昼寝まで終わらせた。

そして訓練場に向かう。


訓練場には既にラークが恨の訓練の準備を終えていた。

まず、入って来たドアの前に大きな木でできた柱がある。

ただの木の柱だ。

素材が特別な訳でもなく、模様を入れて何らかの魔法の発動の為のものでもない。

その柱の真ん中あたりに大きな窪みがあり、その中にはルナの頭二つくらいの大きな水晶が入っていた。

その窪みの上には、まだ発動されてないスクロールが張り付いている。

そして訓練場の内側の端にも柱が東西南北になるように四つ立ててあった。

入り口にある柱と同じものらしく、その窪みにはルナの頭くらいの水晶が一つずつ入っている。


違う点と言えば柱に各々違う紋様が彫ってあった。

それぞれ東には蛇のようなドラゴン、西には縞模様が入っている猛獣、南には炎を纏った鳥、北には尻尾が蛇で成られている亀の模様が彫られてある。


ラークが言うには特に意味はなく、遥か東の国には四神の伝説があり、その神々はそれぞれ四方を護るとの事だ。

暇つぶしにその模様を真似して彫ってみたらしい。

その四つの柱にはスクロールは張り付いていなかった。

そしてその四つを基準に外側に囲むように一定の距離で八つの杖が刺さっていた。

その杖の上には内側の水晶よりやや小さい水晶が一つずつ乗せてある。


今後、この柱と杖を外す事はないらしい。

走りと筋トレは外側、柔軟体操と組手は内側でするとの事だ。

いつも通りだったので、ルナはそのまま頷く。

訓練を始める前にラークはルナの親指を短剣で少し切る。

血が滲み出る。

その親指をスクロールのある部分に圧した。

これでスクロールは発動された時にルナの特異体質のみに反応するだろう。


一通り柔軟体操をさせて走らせる。

その間にラークは入り口のスクロールを発動させた。

水晶粉で回路を描き、動力源の魔力結晶を組み込んだ特注品だ。

使われている水晶の純度も悪くないため、魔力結晶さえ交換すれば数回以上は問題なく再使用できる代物である。

当然、とても高価だ。


このスクロールはこれからの訓練において最も重要な物であった。

何故なら一定範囲の呪いの効果を特定した対象へ移すスクロールだったのだ。

その対象は入り口の水晶である。

つまり、これから起きるであろう恨の効果を洞窟内にまで及ばせない様に発動させたのだ。

一定範囲を全てカバーする為に一番大きな陣を設置したのだ。

これはローバそしてローバとルナの関係を配慮した装置である。


────────


そしてラークはルナを真ん中に立たせて言う。


「これから恨の訓練を開始する。アンクレットを取り除く。

まずは柱や杖に付いている水晶の変化を見ろ。」

そう言ってルナのアンクレットを取り除く。

付けていたアンクレットの宝石は紫から透明に変わる。

それと同時にラークが付けていたブレスレットの宝石を含め、周りの全ての水晶が黒色に変わる。

影響を及ぼす範囲はずっと広いだろう。


「ふむ...これほどとはな...」

ラークは思うところがあるらしく、ボソッと呟く。

設置した水晶はラークがここに来る時に持ってきた物である。

周りに影響を与えると思われる何らかの測定の為に市販でも売られている水晶の一種である。

色の違いでそれが何なのか推測できる。

また色が濃い程、影響が強く受けているって事になる。


基本的に呪いとも呼んでいい良くないものには紫系統の色が出る。

ルナの恨は想定した通りずっと強いものだった。

紫という事は確実に呪い系だ。

しかし紫が濃すぎて黒く見える。

紫だと判断できる唯一の理由は入り口の一番大きい水晶は黒に近いが確かに濃い紫に見えるのだ。

そして柱のスクロールを扇の芯として黄金の光が入り口の方へ展開していた。

まるで守っているようだ。

ルナの恨の影響で反応をしているのだろう。

スクロールはどうやら正常に動作しているらしい。


一方、ルナはそれを見て少し不機嫌になる。

自分の特異体質について前々からラークから聞いていた。

ローバとの教育により、自分の幼かった時にあった村人たちとのことは全て良くない事だと知った。

しかし聞くと見るでは実感の大きさは断然違う。

ルナは周りの黒く変わった水晶を見る。

これこそが、自分を虐げさせ、忌子と呼ばせた原因なのだと知り、訳もなく落ち込んだ。


ラークはそんなルナに近づいて膝を付け、ルナと目線を合わせた。

だが、ルナは珍しくも目を逸らそうとする。


そんなルナの両頬を両手で包み込み、自分の目を見させた。


「あれを見て苦しむな。受け止めろ。

あれはお前の一部だ。認めて初めて成り立つものだ。」


そして力強く抱きしめながら頭を撫でた。


「それにしても今まで一人で本当に頑張ったな。

あんな奴に好き勝手振り回されて。

助ける奴は誰一人いなくて。

本当に頑張ったよ。よく生きた。」


ルナの目からボロボロと涙が流れた。

────────

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