【30話】夜明け前の相談
──深い夜、隠居地の食堂。
ラーク、ローバ、ブロンは食卓を囲み、酒を酌み交わしながら話し合っていた。
食卓にはつまみとして、ブロンが先日捕らえた兎の肉と、果物、チーズが置かれている。
ルナとティアラは部屋で寝ている。
午前中には運ばれた物資を運び、午後中にはずっとヨヨと精一杯遊んだのだ。
疲れて眠りに落ちたのは仕方ないことだろう。
ヨヨはその二人に寄り添う形で二人が眠る前まで付き添ってくれた。
二人が眠ったことを確認したヨヨは食堂に戻り、隅っこでうつ伏せでウトウトと居眠りしている。
居候が増える前の、この時間帯はローバ、ブロンの女子会といった形の時間だった。
他愛もない楽しい雑談や、世間離れしているローバにブロンは世間の情勢などを話し合う。
だが、この日はそういう訳にはいかなかった。
理由としては、居候が二人も増えたことにより、ブロンが運ぶ物資に変化が必要であったからだ。
大人の女性と子供一人から、大人の男性と子供が一人ずつ増えたのだ。
少なくとも今運び込まれる物資の二倍以上は必要になる。
ラークがこの話し合いに加わり、三人はその話し合いの真っ最中であった。
「ヨヨなら今の四倍は運べる。」
ブロンが話す。
「いや、駄目だ。四倍ではなく二倍でも、運搬のリスクが高すぎる。
あの猿が力持ちなのはわかるが、今の迅速さ、隠密さを失うことになる。
ティアレン森だ。荷物を増やすと、今まで通り素通りなどできない、だろう?
最悪、物資を全て捨てて逃げるしかないぞ。」
ラークは否定する。
ブロンは物資の運びの際には物資の無事搬送を目的としている。
実際に強力な魔物と遭遇する場合も多く、その場合は潔く撤退もしくは迂回して凌いできた。
これはブロンが狩人としての優れた偵察力とヨヨの索敵能力によるものである。
その判断と行動の素早さが今まで比較的に安全な物資搬送を成していたのだ。
だが、物資の量を増やすことによると、行動の素早さが劣ることになる。
リスクが上がるのだ。
ラークは、このことを察して、拒否する。
「そもそもルナと俺は、この隠居地では、国では許可されてない、招かざる者たちだ。
物資の変化も別の意味でリスクが高いと判断されるが?」
この隠居地と勇者候補の存在は極秘である。
物資の変化は、隠居地で何らかの変化があった証拠になる。
最悪、国から監査団が押し寄せてくる可能性も否めない。
「いえ、そこは大丈夫だと思います。
物資の内容は大きく国から来る物と、そしてティアレン町で現地調達する物と二つあります。
国から来る物は特産物や、手に入れづらい物、ティアラの魔法に関する物、教育のための書籍などになります。
現地調達の物は、主に食料や衣類、消耗品などになりますが、冒険者ギルドに王国から先に予算を預かり、私とティアラが望むものを用意するという形です。
ブロンの話によると、今のところは…というか普段、予算がかなり余りまして、国に返却しようとも、国は応じてくれないということらしいです。
つまり、国は一度授けた予算に関して、また内容に関しては気にしていないことだと思われます。
つまり、物資が増えたところ、問題はないかと。」
ローバはラークの推測を否定する。
実際に冒険者ギルドは、この予算で頭を抱えていた。
予算の残高は増えるばかりで、毎年とんでもない金額が送られるのである。
もちろんその金の使い所を知る者はごく一部である。
国から来るお金ということもあり、下手に横領などもできない上、無くさないように徹底して管理しなければならないのだ。
実質的な所有者であるローバはあえて、国が気にしていないと話してない。
理由はブロンの意見に同意したためである。
ブロンの意見はこうであった。
「国が気にしていない」と知られれば、横領や管理の不備が必ず生まれる。
いくら冒険者ギルドが信用できる組織でも、属している個々は人間だ。
どうなるかわからない。
だから、あえて真実は言わず、ローバは国と今も密接に連絡を取り合っていて、国が監視しているという表向きの形を徹底的に作った。
それが今の現状である。
「ほう…。そういうことか。なら、ありがたく居候させてもらおう。では残りの問題は物資の搬送か。」
ラークは納得する。
「じゃあ、定期搬送の周期を短くするのはどうだ?別に私は構わないぞ。お得意様だしな。料金はそのままで。」
ブロンが改めて提案する。
実際にこの依頼の報酬は普段の依頼の数倍は高く策定されている。
ブロンにとっても、冒険者ギルドにとっても依頼が倍になっても余る依頼であった。
「いいや、却下する。お前は冒険者だ。そしてこれは依頼だ。慈善活動ではない。ちゃんと弁えろ。」
ローバではなく、ラークが拒む。
冒険者としての暗黙の掟を誰よりも理解しているラークだ。
報酬がない依頼の行方は決まっている。
「そうよ。もしそうなるのなら、依頼内容を変更して、正式に依頼し直すわ。」
と同意するローバ。
「ったく。二人とも律儀すぎだって…別にどうってことないし。」
冒険者として半端な態度により怒られ、また配慮したつもりが逆に配慮されたことに、若干照れつつ、話すブロン。
「俺が定期的に町に出よう。
さすがにあの猿並みには持てないが、それなりに運べるだろう。
それに俺も定期的に冒険者ギルドに顔を出さなきゃならないし、一応やることもある。
あ、この隠居地に関しては心配するな。漏らしたりしねえよ。成約の契りを結んでもいい。」
ラークが結論を出そうとする。
「いいえ、ラーク様とここしばらく一緒に過ごしましたが、契りは大丈夫かと。しかし、ラーク様は大丈夫で──」
「おっ、ならこうしたらどうだ?
ラークが町に来る度に、一緒に物資の搬送をするというのはどうよ?
安定感も増すし、ヨヨも単純な物資の運びのみをすればいいから、より多い量を運べる。
追加の依頼とかもなくそのままでも大丈夫だ。」
ブロンはローバの言葉を遮る。
「ほお、なるほど。俺もここに無闇にずっと引きこもっているわけにはいかないからな。
ローバが案じる心配もそれなりに減るだろうし。」
ラークが同意する。
ブロンにより遮られたローバの憂慮もちゃんと汲み取ってフォローする。
「なるほどです。それは、いい考えかと。
あと、恐縮ですが、ラーク様、こうなると、一つお願いがあります。
その時にはラーク様に私の用事も一緒に頼んでもよろしいでしょうか?
いつもティアラを一人ぼっちにさせて、出かけていたのですが、もしラーク様がよろしければ、ティアラとルナちゃん子供二人に留守番をさせなくても良くなりますわ。」
「ああ、大丈夫だ。
というか、武芸の嗜みもなさそうなのに、この危なっかしい森を行き来していた君もすごいがな。」
初めてローバと出会った時を思い出しながら、改めて褒めるラーク。
「ふふっ、コツがありますので。」
笑いながら誤魔化すローバ。
察することがあるラークはそれ以上何も言わない。
しばらく、次の物資の定期日や、詳細内容などを話し合う。
──1時間ほど過ぎただろうか。
「よーしっ!では、堅苦しい話はここまでにして、もう飲もうぜ!乾杯!」
若干酔っているっぽいブロンは、こう話して飲んでた酒の盃を高く上げ、乾杯を促す。
それに応じたローバとラークもまた、盃を上げて乾杯する。
──こうして、夜は更けていった。




