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忌子物語  作者: あむ
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【29話】緊張のち抱擁

「──何か、手伝うことはありますか?」


静かだが、澄んだ声がする。


声がする方向に反射的にブロンが矢を番え弓を構える。

ヨヨは咄嗟にじゃれ合っていたティアラを庇う。


この場に、ローバとティアラ、二人ともいる。

それ以外の人がいるはずがない、という判断を一瞬でブロンはする。


さすが、というべきだろうか。


だが、いくら安全地帯といえども、森の中だ。

ブロンは内心、油断したと己を叱責する。


矢の先端が向けられた先には、長い黒髪の華奢な少女がいた。


そう、声の主は門からヒョイっと出てきたルナだ。


「ブロン!ヨヨ!大丈夫!あとで紹介しようと思ったけど、今は一緒に住んでいる人だから!」

慌てて引き止めるローバ。


ローバの声でブロンはハッと我に返る。

だが、警戒は解かない。


「ご、ごめんなさい…。」

驚かせてしまったことに申し訳なくなり謝るルナ。


一方、申し訳なさそうにしているが、ルナもただ無防備ではなかった。

門から然程離れず、十数歩の距離を取りながらブロンらを観察している。


まるで野良猫のように、何らかのアクションがあれば逃げ出そうとする。

弓を構えられたのは咄嗟で反応はできなかったが、その向けられた矢を警戒する。


「──ということだ。どうやら俺らは『大丈夫』らしいぞ。」

また別の声がする。

今度は図太く荒い男の声だ。

それと同時にゆっくりした仕草でラークが姿を現す。

背中にはトレードマークの一つである巨剣ヴォルグを背負っているが、武器に手は触れていない。

完全に無防備…いや、無防備を「アピール」していた。


「久しぶりだな、ブロン。」


「……狡猾狼。」


二人は冒険者ギルドで一応会ったことがある。

だが、名が通っている有名な戦士と、町の代表冒険者としての挨拶程度であり、実際はお互いよく知らない間柄だ。


「おう、ラークって呼べ。」

ズカズカと近づき、適当にチェックが終わったと思われる荷物を軽々と持ちながら話すラーク。

まるで「とっとと仕事しろ」と言わんばかりだ。


ブロンはローバが引き止めていること、またラークのあの仕草を見て弓を降ろし警戒を解く。


「事情があってね、二人増えたのよ。詳しいことは後で話すことにして、まずは仕事からやっちゃいましょう!ルナちゃんも手伝って。」


ルナも警戒を解くが、ヨヨを見る。


警戒から興味に感情が切り替わる。

それとまた──


「あの…ティアラがおかしい…です。」


その場の全員の視線がヨヨとティアラに向かった。

頭部を含めた上半身がヨヨの太い腕と懐の毛で覆われていて、必死に両足をバタバタさせているティアラが見える。


ブロンとローバの瞳孔が大きくなる。


同時にヨヨは慌てて両手の力を抜いた。

ズルっとヨヨの懐から滑り落ちるように解放されるティアラ。


「ぷはっ!ヨヨったら、そんなに強く抱きしめないでよ!苦しかったんだから!」

庇いながら思わず口や鼻まで塞いでしまったらしい。

若干涙目で文句を言いながらヨヨをポカポカ叩くティアラ。

それに焦って申し訳なさそうに焦りながら、ティアラの打撃(?)を受け止めるヨヨ。

ちなみにヨヨは庇う場所が悪かったものの一応力加減はしていた。


「「ぷっ!──あははは!」」


ローバとブロンは笑い出した。

緊張した場の雰囲気が一気に和む。


そうしばらくポカポカした後、ティアラがルナに話す。


「あ、そうだ!ルナ!見て、この子はヨヨっていうの!かわいいでしょう?」

「…?あ、うん。そうだね。」

ヨヨは大猿だ。ラークよりも大きい。

可愛いよりもかっこいい、逞しいなどが似合うだろう。

ティアラの「可愛い」の基準がよくわからないルナ。

でも一応相槌を打っておいた。


ヨヨがルナに手招きする。

ティアラはヨヨの横でニッコリ笑っていた。


緊張しつつ、おそるおそる近づくルナ。


ヨヨの近くに寄った瞬間、ヨヨがルナの手を優しく引いてギュッと抱きしめる。

ボフッと柔らかい触り心地と、どこか香ばしく甘い匂いがして、ルナはつい緊張が和ぐ。


ヨヨがフゴフゴと言っているが、ルナには何を言っているのかわからない。

けど、一つ確かなことは理解できた。


──ヨヨは自分と仲良くなりたいと、会えて嬉しいと言っている。


ルナもまたヨヨを抱き締める。

ルナとヨヨの挨拶を見ているローバは何故か涙が出そうになる。


そう挨拶をしていると──


「よーしっ!そろそろ仕事やるか!」

と、ブロンが踵を返しながら戻る。


「そうね、ルナちゃんも、挨拶はそれくらいにして、ここにある物、中に入れてくれる?」

離れたところでローバの声が聞こえる。

ちなみにラークはすでに重くて大きな物から手に持ち、隠居地の中に入れていた。


「はい!」

ティアラとヨヨから離れ、荷物を運ぶ。


──作業は淡々と進んだ。


ローバとブロンは荷物のチェックをし、それ以外の人員は荷物を運ぶ。


ラークは重い荷や損傷しやすいものを、

ルナは指示されたものを黙々と、

ヨヨとティアラはじゃれ合いながら、


それぞれのペースで確実に作業を進めていく。


「やっぱり人数が多いと早いな。」

最後の荷物のチェックを終えたブロンが呟いた。

今は人数がある分、同時にやってのけているが、本来ならローバとブロンの荷物のチェックが終わって、その次に荷物を中に入れていた。


「そうね。」

ローバは微笑みながら頷く。


その視線の先には、ティアラに「こうやって持つんだよ」と教わりながら、不器用ではあるが一生懸命荷物を運ぶルナの姿があった。

ちなみに教えているティアラは教える時以外は魔法でいくつもの荷物を軽々と宙に浮かせている。


「てか、あの子…ルナと言ったっけ?誰だ?」

ブロンはルナを見て聞く。


「男の子よ。」

ローバは答える。


「……?」

聞きもしない性別から答えが返ってきた。

いや、男の子ということも驚きだが、なぜそんな答えだろう?


「男の子だからね?」

もう一度強調するローバ。


「…わ、わかった…。」

これ以上は何も聞けないブロンであった。

そしてブロンは小さく息をつく。


『……まあ、いいっか。』


しばらくして、ヨヨとティアラも真面目に加勢して、普段よりも随分早く仕事が終わったのであった。

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