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忌子物語  作者: あむ
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【3話】虐待

少年はいつも受け身だった。

母からは見限られ、父に拳や蹴りを入れられた。

村の若者達からは石をぶつけられた。

村の老人達や婦女子からは汚物を被せられた。

出会う全ての人は罵倒を放ち、揶揄をする。

大人でも耐え難い酷い暴力で皮膚は裂け血を流し酷い傷跡を作った。

被せられた汚物で汚いとさらに忌み嫌われた。

骨を痛めた事もあった。

しかし少年はそんな大人達や集団の卑怯な暴力をただ耐えるだけであった。

抵抗や反抗は一度もした事がなかった。


そう遠くない昔には泣き喚いたり苦しんだりもした記憶もある。

やめてほしいと...苦しいと...痛いんだと必死に表現をしてみたものだ。

しかし無駄だった。

寧ろそれを見た人々が、特に父はある種の快楽を感じて更なる暴力を振るった。

苦しむ姿を見せると彼らは狂った様にもっと喜び、もっと酷く当てた。

いつの間にか少年は無駄だと悟った。

結局、少年は感情を閉ざし何も表現をしなくなっていた。


実は先ほど若者達が話していた少年の回復の事には父親のおかげもあった。

毎晩の様に無惨な暴力を振るった後は村特製の薬の瓶を倒れている少年に投げた。

この村の特製薬は世界中では、あまり知られてはいないが、効力のいい薬の一種だった。

主材料であるティアレン薬草はこの深い森の恩恵をたっぷりと含んだ森特産の最上級の薬草である。

そしてこの薬草はこの村ではとても安く手に入れやすいものだった。

故に村では割と作りやすい安薬でもあった。

酷い傷には効果が薄れるが、骨にひびが入ったり、投石による裂け傷程度は完全にではないが十分に治した。

回復力とは別にその即効性は名のある聖堂や教会で売る高級聖水や一流の薬師が作る上級ポーションと比べても劣らなかった。

父に与えられた薬で少年は一人で傷に薬を塗ったり飲んだりして治していたのだ。

もちろん父は知った事ではないとの態度を一貫していたが、一応は「少年は殺してはいけない」という村の掟があったからの行動だった。


その事に気づいた少年は殺される事はないと悟った。

恐怖すら感じなくなった。

当然痛みはあったものの、ある意味では安心しながら投げられる石にぶつけられていた。


恐怖を感じないその慣れてしまった暴力に余裕もできた。

少年は頭が悪い方ではなかった。

むしろ賢い方だった。

忌子という肩書きさえなければ、聡い子だと村ではたくさん可愛がられていたであろう。


また数千...あるいは数万とも投げられた石や汚物で、

不本意ではあるが彼の動体視力と反射神経は鍛え抜かれていた。


虐げられる日々が重なり、いつの間にかは避けようと思えばいつでも避けられたであろう。

しかし少年はあえて避けようとはしなかった。

避けた場合、もっとひどい仕打ちになると思った。


よって少年は避けずにあまり痛くない方法で当たる事を考えた。

高速で飛んでくる硬い石はどこに当たっても痛かった。

木こりの父の鍛えられた太い腕で振り回す拳は毎回息ができない程だった。


しかし比較的に痛くない場所もあった。

背中や胸板、上腕、太もも、お尻など。


特に首を含めた頭部とお腹、股、そして骨にはできるだけ当たらないようにした。

頭に当たりそうになったら絶妙に腕で当たる場所を庇い、頭に当たったと思い込ませた。

お腹に当たりそうになると怯えたふりをしてお尻に当てた。


そう、少年は意図的に致命傷になる場所を避けながら石を当てていた。

父の暴力は直接過ぎて急所だけを避ける事ができない時も多かったが、

それでも骨だけは痛めないように気を付けた。

あれは酷く痛いから。


そして全ての日課が終わり、最後に寝付ける前にこう思ったのだ。

やっと一日が終わったんだと。


────────

少年は意識の再構築を果たそうとしていた。


今までとは違い、

若者達は殺意を露にしていて、

使われる暴力も石ではなく刃物だ。


今までとは違うと直感が告げていた。

ただの暴力や虐待ではなく、殺害だと。


少年は必死に思案した。

殺されないようにするにはどうすればいいんだろうか。


そして一つの疑問が生まれた。

何で殺されなきゃならないのかと。


今までの暴力や虐待では満足できなかったのか?

もしくはもう満足したから用済みなのか?


今夜、毎日のように暴力を振るってきた父は来なかった。

傷を治す水も与えてくれなかった。


そして結論が出た。

つまり自分はもうここで殺されるのだと。

そのために村の若者達が来て、そのために父も来なかったのだと。

そう理解した。


しかし少年は簡単に諦めなかった。

思ったよりもずっと命に執着深かった。


彼らも昔の自分と同じ目が出来る事に気づいた。

そして彼らにも自分の苦しみを与える事ができると気づいた。

そこで自分に向ける畏怖の目を少しだけ気持ちよく見つめた。


だから死ねない。


思案した。

どうやれば確実に生き残れるのだろう。


そしてその思案はすぐさま再構築された。

どうやれば確実に殺せるのだろう。


と。


────────


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