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忌子物語  作者: あむ
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【26話】トラウマと癖

ラークはボールをルナに投げる。


まるで村で村人が投げた石の様に。

ラーク曰く、これは反射神経や動体視力、瞬間記憶等の色んな訓練になるとの事だ。


そしてルナだけの特別な二つの重要な理由があった。


一つはルナのトラウマの治療だ。

ラークは自分の部屋にルナを呼び出した日に、ルナの過去を全て聞いた。

ティアラが聞いた事と同じではあるが、もっと詳しく聞き出した。

特に石をぶつけられた時と、逃げ出す直前の殺人について。


案の定、最初はそのボールの山を見ただけでもルナの体は固まり表情は非常に険しかった。

村でもこうして石の山を積んで投げて来たのだ。

その事を思い出したのだろう。


ラークは何も言わずにルナにボールを投げる。

ルナの優れた動体視力はボールを一瞬捉えた。

反射神経も同年代の子にしては非常に優れてはいる。

しかしラークの投擲したボールはとても速く捌く事はできなかった。


ルナは死を直感した。

頭に直撃する。

パーンと音がする。

当然、何も起きなかった。

頭に強い張り手を食らわせたツーンとした痛みはあったものの、それが全部だった。

当たった側頭部をさすりながら混乱するルナを見てラークはそれを見てニヤリと笑いながら短く言う。


「訓練だ。」


二つ目はルナの悪い癖を直す為であった。

ラークは最初にルナと対峙した時に納得できない部分があった。


命の危機に対する訓練がされてない人間は何らかの恐ろしい事や対象と鉢合わせした時、まず後ろに退くものだ。

その対象からなるべく離れようとする為である。

それは恐怖であったり、本能によったり色々理由はある。


しかしルナは前に出た。

それは決して自信過剰な勇敢さや、捨て身ではない。


ルナは生きようとしていただけなのだ。

その為にルナなりに作戦を練り実行した。

故に前に出たのだろう。

そしてルナが思うには最小限の被害であろう、腹部にラークの拳を当てに来たのだ。

しかしそれは身を護る為にする素人のする事ではなかったのだ。

素人なら逃げる事を最優先とする。

逆に距離を詰めたり、迫ったりなんか決してしない。


予め、素人には最小限のダメージという選択肢はないのだ。


確かにそれはラークにとっては興味深く、愉快なものではあった。

しかし何故ルナがそうしたのか納得ができない部分が確かに存在していたのだ。


そして村での出来事を聞いて一部分納得する。

ルナにとっては「逃げる」という選択肢はなかったのだ。

そして「避ける」という選択肢もなかった。

もっと大きな苦痛を与えられる。

微力だった故に、常に逃げずに最小限のダメージで過ごす事しかできなかった。

これは下手したらルナにとって大きな問題となる。

これからも避けるという選択肢を取らないだろうという事だ。


長らくぶつけられた石により、精神も身体の記憶も「避ける」という選択肢より、「あまり被害が少ない所にぶつける」という事を覚えている。

実際に最初の対峙の際にラークの仮定が正しいとある程度証明された。


そしてこの訓練でそれは確実に証明されていた。

ルナは一瞬だが避けるよりも当てる為に動こうとしたからだ。

もちろん最小限の負傷や被害で場を凌ぐ事は大切である。

しかしそれは「避けられない」、「防げない」等の相手の攻撃を凌ぎきれない時だけだ。

「避ける」という選択肢のないルナの行為は違う。

これではいつか満身創痍になり朽ち果てるだろう。


それを治そうとする。

それを直そうとする。


故にラークはルナに避けろとの指示と共にボールを投げた。

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