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忌子物語  作者: あむ
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【23話】問答

「昨日の俺との戦闘で何を考えた?」


ラークはベッドの端に座って、愛剣の手入れをしていた。

そして誰が入って来たのか確認もせず話をかける。


「...死にたくない…、あと...」

ルナは相変わらず足りない言葉で話す。

心境や自分なりに切り抜ける方法を考えて実行した事まで。

たどたどしく表現力も足りない為、話は長引く。

自分の中で思案してた事を話す。

結果は大失敗で終わったことも。


「それで?今朝、俺を見て何を思った?」

ラークはルナのたどたどしい長話を全部聞いてくれた。

その上また質問をする。


ルナはたどたどしく答える。

最初はまた殺しに来たと思った。

でも考えてみれば、昨日気を失っていた際にいつでも自分を殺せたと思う。

殺せたのに殺さなかった。

そして殺せなかったのではないと判断した。

その理由は自分の前に堂々と現れたからだ。

何らかにより殺せなかった場合、ラークは朝までここにいる事はできないと思った。

また食堂でラークが言っていた様に自分はラークより弱い。

自分の命の保障はラークが握っていて、彼が敵対しないというのなら今はそれに従うのが賢明だと判断した。

故に警戒はしても敵対はやめた。


ルナの話を纏めると大体こんな感じだろう。

ラークは内心驚く。

何せ十歳そこらの子供が考える事ではないからである。

普通の子供ならラークを忌み嫌ったり恐れたり、或いは力の過信で再び挑んだりするだろう。

しかしルナはたった一度の戦いで、いや、その戦いの前から既にそれを悟っていたのだ。

それを聞いたラークは更に目を鋭くする。


「もし、俺がお前を再び殺そうとしたのならどうするつもりだったんだ?

例えば...そうだな...今朝は気まぐれであって、今この場でお前を殺そうとするとか?

また俺の利き手の方に飛び込んでまた拳を食らうか?

悪いがその手はもう通用しないぞ?」

そう言いながら手入れしていたヴォルグを軽々と持ち上げルナの首元でピタッと止める。


その動きはとても速く、ルナは遅れて認知する。

しかし自分を斬る気はないと判断して再びルナは言う。

いや、聞いた。


「...どう...すれば...いい?」

その目ははっきりと強い意志が込められている。

生きたい、という。


それを聞いたラークは逆に面喰いキョトンとした。


「な、何だって?ワハハハハハ!」

そして構えていたヴォルグを解き大爆笑をする。


「お前ってつくづく面白い奴だな!

よし、よく言ったぞ。それが正解だ。しかも大正解だ!ワハハ!」

初めて見せる豪快なラークの笑いに今度はルナが面喰う。


────────


ラークは愉快で仕方なかった。

ヴォルグを突き付けられても一瞬目つきを変えるだけで決して怯える様子を見せないルナだ。


しかし愉快なのはそれだけではなかった。

常識的な者なら「強くなる」だの「再度話を試みる」、「媚びる」だのその線の非現実的な事を言っただろう。

しかしどれも正解ではない。

「強くなる」は時間がかかる。その場で急に強くなれる訳がない。そもそも強くなる保証はない。傲慢な答えだ。

「再度話を試みる」はラークが話に応じない場合、無駄だ。

「媚びる」はそれなりに現実的かもしれないが、前の答と同じくこれもラークの依頼内容や気分次第だ。


実はその場で正解なんてなかった。


ルナは所謂「チェックメイト」状態であった。

ラークは狡猾狼と呼ばれる男だ。

名のある冒険者パーティーのリーダーで他人との商談や取引は得意な方だ。

クエストの時のみならず依頼の際の契約に関しても狡猾な男である。

そしてこれを成せる理由としては貴族の出というのもあった。

そこら辺の冒険者よりもずっと知識も話術も備えているのだ。

つまり、どの返事が返ってきても論破する自信はあったのだ。

……随分と大人げないが。


全く同じとは言えないが、似たようなことをルナも思う。

どれを選んでも道は違うとも結論は一つだけだった。

故にラークに聞いた。

昨日、自分を殺そうとした敵に、今日は敵意を見せない人にどうしたらいいのかと。

そしてそれは最も正解に近い返事だった。

少なくとも今のルナにとっては正解である。

ラークが聞いた話は仮定の話であって、現に今殺されていないのだ。

だから昨晩と今朝の事は既に過去の事だと勝手に割り切った。


自分の力と向き合う。

天秤に重りを載せて量る。

そして非力さを認める。

これはどれも案外難しい事である。

故に大抵の人ができない。


ちなみにさっきの誤答の中の「強くなる」に付け加えると、この発言は自分が弱いとは認めない発言だ。

確かに強くなることはできるだろう。

だが、脈絡も根拠もない自意識過剰による蛮勇に過ぎない。

また、先日にたった一撃で自分を制圧した者よりも、という前提だと話は違ってくる。

つまり「己の才能は強い」と過信した上での何の根拠もない発言であるのだ。


しかしルナは自分を客観視した。

簡単に自分の弱さを認めた。

そしてその弱さを克服する意志があった。

故に諦めなかった。

でも方法はわからない。

単に「強い」ということすらも理解し難いのだ。

故に敵だろうとも、その助言の答えを知っている人に助言を求めた。

ラークはルナにとって唯一知る強い人であり、答えを持っている人だ。


そこまでルナの意図を読んだラークは愉快でならなかった。

常に期待以上の言動をするルナに感心した。


────────


一通り笑い終えたラークは真剣な顔に戻りルナに言う。


「お前は自分の才能を過信しない。

そして弱さも認めている。

そしてその弱さを克服する為により強い人に、自分の命を握っている相手に教えを請いだ。

今はそれが正解だ。」

そしてルナを見つめるラーク。


「今のお前は実に弱い。

棒切れもまともに振れそうにない痩せ細った体で、頭の中で思った事を表現する表現力もない。

それにお前のその特大な特異体質と来た。

それじゃあ、武力でも話術でも何でも真面に生存する事すら困難だ。」

特異体質?と首を傾げるルナ。

ラークはそれを無視して言い続ける。


「今はそんな事はいい。

俺はお前を認めよう。

お前が俺の事を認めようがどうか知った事ではない。

あの時どうすればいいのかって?

それはこれからお前自身が自ら答えを出せ。

これから何から何でも全て学べ。習え。身に付けろ。

ここにいる三年間、俺とローバがお前にそれを教える。

お前に断る権利はない。

敗者は黙って勝者の言う事を聞け。」


ルナは強い意志を持った眼差しで応える。


────────


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