【21話】収拾
一応、状況が収拾した。
ティアラは周囲にまき散らした魔力結晶を器用に片付けた。
彼女が視線を送ると魔力結晶がパリンパリンと音を出しながら砕け散り消えた。
魔導学会の人が見たら、もったいないと嘆くだろう。
ラークはルナの容態を見ていた。
ティアラの放った結晶が掠めた腕の傷や、ラークが短剣を押し当ててできた首の傷にも薬を塗っていく。
ラークが殴った腹部を見て無傷を確認し、少し何かを思った後、口に少しずつ薬を流した。
治療を終えたラークはさっき付けたアンクレットを確認する。
元々は透き通るような透明の宝石が飾っている銀色のアンクレットだった。
しかしルナに付けた途端、宝石は黒色に変わっていた。
角度によっては濃い紫色だ。
そして付けた瞬間から、ルナの恨の気配が大分薄れていた。
その様子をティアラは見ていた。
その間、ローバは別の部屋でお茶の用意をしていた。
ティアラが入ったその瞬間から雰囲気が和らいでいくことを感じてはいた。
お茶の用意をして部屋に入りテーブルに次々とセットした。
そして三人はそのテーブルに備わっている椅子に座る。
ラークはまず、ティアラの気づかなかったルナの体質について語る。
ティアラが感じる事のなかった恨について。
そしてそれによりローバがとても不安がっていた事。
「やっぱり、俺の思った通りだ。あいつは『恨』持ちだ。」
ラークはルナの特別な体質について話す。
「恨?何それ?」
ティアラは首を傾げる。
「普通の人間なら自然属性群を基本的に一つは持っているのは知っているだろ?
だが、稀にそれがない人間が生まれる。要は、あいつには創造属性群しかないってことだ。」
「え?それって、つまり魔法が使えないってこと?」
ティアラは聞き返す。
魔法は自然属性群から成されるものだ。
ちなみに創造属性群で成される魔法は魔法という認識はほぼない。
理由としては、闇属性は悪と断定し排斥され、光属性は魔法ではなく「神の権能」だという認識であるからだ。
つまり、それがないルナは魔法の才能の有無以前に、全く使えないという意味になる。
「それだけではない。あいつの創造属性群は『コイン』でもねえ。つまり、闇属性しかないってことだ。これによって中和されるはずの闇属性の副産物がそのまま発散される。それが『恨』だ。」
続けていうラーク。
「俺の知っている知識では、恨の効果……いや、影響は周りへ負の感情を増幅させる。怒りや殺意、恐怖というそういうよくねえ感情をな。その影響をもろに受けたのがそこのメイドさんだったってわけだ。」
それを聞いたローバ。
黙り込んでさっきの二人の出来事を思い出す。
ティアラにひどいことを言った罪悪感が再び引き起こされる。
「まあ、でも普通なら、生まれてすぐに殺されるか、捨てられるか、どうせすぐ死ぬとこだがな。よくも生きているものだ。」
それをしばらく見ていたラークは話を続けて、お茶を啜る。
「でも…確かに妙なものっていうか、雰囲気は感じていたけど、私はそんなこと影響受けてな……あっ…!」
急に黙り込むティアラ。
彼女も先のローバとの言い争い、そしてラークに過度に攻撃したことを思い出す。
ローバに真っ向に反抗し、普段絶対言わない事を口にした。
敵であったラークのみならず、危うくルナも見境なく攻撃をした。
確かにそれはティアラらしくない、過激な言動だった。
「でも、私と二人でいた時は、そんなことなかったよ?それって…」
「そりゃあ、お嬢ちゃんが良い子だからだ。」
言葉を遮るラーク。
「負の感情を増幅させるんだ。名前がルナだったか?とにかく、あいつといた時は楽しいことばかりだったろうよ。それにこんな洞窟で何らかの悪い経験もあるはずがねえ。そっちの保護者に感謝するんだな。世間知らずに育ててくれてよ。」
若干の皮肉が込められているが、ローバを褒める。
「お褒めの言葉、ありがとうございます。ラーク様。そして…そういうことでしたか。
冒険者ギルドで仰られました貴方様しか解決できないということはこういうことでしたのね。」
純粋に褒め言葉として受け取るローバ。
皮肉が込められているのは知っていたが、無視することにしたらしい。
「まあ、俺もこれがなきゃ無理だったろうよ。」
ラークは袖を巻き上げ腕にあるブレスレットを見せる。
赤色の宝石が埋め込まれているこのブレスレットは他意による感情変化にはある程度、免疫・中和ができるマジックアイテムらしい。
もちろん市販では手に入れる事はできず、以前、迷宮で偶然手に入れたと言っていた。
またルナにつけたアンクレットはその逆に他人への感情変化を抑えるアイテムということだ。
ただ、ルナにつけたアンクレットの宝石の耐久性は脆いものらしくて、いつ割れるか分からないらしい。
「ですが、ラーク様は何でそれを知っているのですか?」
「まあ、伊達に冒険者様をやっているんじゃない、ということだ。詳しいことは面倒だから答えないぞ。」
どこか誤魔化そうとしているラーク。
それに気づいたローバだったが、敢えて聞こうとはしない。
いや、正確には深入りしてはいけないと勘が告げる。
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一方、ティアラは申し訳なさと、ルナについての思案により黙り込んでいた。
育て親の不安に気付く事が出来なかった事に罪意識を感じつつ、ルナの正体や以前彼から聞いた村での出来事を理解できたのだ。
ローバのあの本心じゃなかったということも理解できた。
そして憐れみながらベッドで静かに眠っているルナを見つめた。
ラークはこの戦いでルナに興味を抱く事になって、ルナを試してしまった事も言った。
殺気を出してみたこと。
初対面の時から通常の子らと違う反応をしていて、もし自分がこう行動したら、どう対応するか興味が湧いたこと。
結果、ルナを殺さないためについ力が入ってしまったこと。
そしてラークは驚く事を二人に話す。
要するにルナを自分に任せてほしいとの事だった。
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ラークの話を聞きながら、ローバはベッドで横になっているルナを見る。
改めて可愛らしい容姿に感嘆する。
そして罪悪感が生まれた。
ラークが言っている呪いさえなければ、ただのか弱い少女の姿をしていたからだ。
歳はティアラよりもやや下だろうか。
今は気を失っているが、ルナが誰かを害する事はないだろうと思う。
外見で判断してはいけないとわかりつつも、それくらいに可憐で愛おしい姿だった。
こんな少女…いや、少年の何が恐ろしいのか町まで駆けつけて助っ人をも呼ぼうとした。
ラークがルナを殺さなくてよかったと心底思う。
恨を体験する事によって、その恐ろしさを直接感じる。
不本意にも、ティアラの心にひどく傷つけてしまったのだ。
──また、感情を増幅するとラークは言った。
もしかしたらあれが自分の本心なのかと一瞬思う。
だが、そんなことはないと、断固拒んだ。
元々ローバは優しい心の持ち主である。
そして子供好きだ。
スヤスヤと眠っているルナの髪を優しく撫でる。
短い縁になるかもしれないけど、この不幸で可憐な子にその分たくさん愛を与えてやろうと決心した。
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ラークは続けて言う。
ルナを自分がある程度は鍛えたいと。
ラークは一応貴族の出である。
何らかの理由により冒険者になったものだ。
そしてラークはルナからその何かについての可能性を感じたんだろう。
ラークは元々拘束されたり制限がかかる事が大嫌いな人間である。
そしてティアラが王宮に向かう頃には彼なりに重要な仕事があった。
ルナの事を連れて行く事はできない。
しかしルナの才を見抜いて、基礎だけでも教えたいと思ったのだ。
その間、みっちり教える事で基礎の基礎くらいは身につける事ができると思った。
その為にちょっとくらい付き合ってやってもいいだろうと。
こうしてこの洞窟に新たな食客が二人も正式に増えたのである。
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