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忌子物語  作者: あむ
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【19話】説得

───少し前のこと。


しばらく唖然とラークを見ていたティアラはハッと我に返り追いかけようとする。


「行っては駄目!」

普段より不快感が増していたローバは、いつもより鋭い口調で引き止めながら、ティアラの腕を取り力強く掴む。

ティアラは苦痛に顔をしかめつつ、必死に説得をしようと口を開いた。


「イタッ…!違う!ルナはそんな子じゃない!知りもしないくせに、勝手に言うなっ!」

しかしティアラはイライラとした焦燥感を感じてしまい、つい普段と違う口調でローバに鋭く返事をしてしまう。


その時、ティアラの部屋からものすごい殺気が出て来る。


「何よ?!この感じ…もしかしてルナを殺そうとしているの?ルナはいい子なの!何で?どうしてよ?どうして殺そうとするの?」

殺気を感じたティアラは更に不快感が増してローバに必死に絶叫のように鋭く声を上げた。

パニックになったティアラはすでにあの大男がルナを殺そうとしていると、半ば錯乱状態にまで陥っている。


「あんたこそ何よ!この嫌な不快感を与えるのは絶対よくないに決まっているから!得体も知れないのにそう簡単に誑かされるなんて馬鹿じゃないの?いいからあんたは私の言う事だけ聞きなさい!」

ローバが叫ぶ。

いや、正確には怒鳴る。


「ったく……誰のせいでこんなところに閉じ籠もっていると思うのよ?」

とボソッと独り言を言うローバ。


「……っ!」

ローバはハッと我に返った。

普段決して思ったことのない衝撃的な言葉を発したからである。

断じて一欠片も思ってないことが、自分の口から出た。

そのことに驚く。


恐る恐るティアラを見る。

願わくば今の独り言を聞かなかったことを切に思う。


だが、そんな希望は粉々に散った。

ティアラの表情は今まで見たことのない、崩れそうな表情をしていたからだ。

その大きな瞳から一粒の大きな涙が流れる。


それを見たローバは更に衝撃を受けた。


一方のティアラも言葉も出ないほどの衝撃を受ける。

普段は優しく、時折厳しく呼ぶ彼女の名前である「ティアラ」の代わりに「あんた」と呼ぶ。

絶対使わない命令口調で、「馬鹿」呼ばわりしながら貶す。


そして何よりも、ローバは自分といる事が枷になっていること。

自分との生活は、義務だったということを告げていると理解した。

偽善で成り立った生活だと、とてつもなく衝撃を受ける。


だが、本心だろうかという疑問も生まれた。

普段のローバと確実に何かが違う。

いきなり自分を貶め、攻撃している。


このことに気付いたティアラは衝撃を受けつつも、そして今まで見せてくれなかったローバの表情と言動に怯えて俯く。

そして、これは逆に半ば錯乱まで陥って興奮していたティアラをある意味落ち着かせた。


「ティアラ、違うの…私の言った意味は…」

慌てて取り繕おうとするローバ。


「そっか……」

増していく不安感をなんとか抑えながら、ティアラは自由な片手で涙を拭いつつ、思った事を再度整理して言った。


「あのっ、ローバにそんな思いをさせてごめん。

当たり前よね?本人である私ですら一人ぼっちで、こんなところにいるの辛いんだもの。

でも、関係ないローバは、たぶん私よりつらいよね……。」


「違う…っ!」

ローバは拒もうとするが、聞く耳を持たないティアラ。

そのまま話を続ける。

ティアラはローバの顔を見ることができなかった。


「私はね?本当のことを言うと、ローバのことお母さんと思った。

だから、私も本を読んでしかわからないけど、書かれているじゃない?お母さんは強いって。

だから、ローバも強いって勝手に思っちゃった。

ごめんなさい。」

悲しい顔で謝るティアラ。


「そうじゃないの、ティアラ……っ!」

慌てながら、話そうとするローバ。

そんなローバの言葉を遮りながら、ティアラは話を続ける。


「でも…私もね、すごく寂しかった。

ローバが外に行く度に、ずっと一人ぼっちで。何もやることもなくて。

一人でのお食事はとても不味くて。

寝る時にも一人で寝て、それがとても怖くて。

だから、ローバが外に行く日はとても大嫌いなの。


だからルナが来た時はすごく嬉しかった。

本で読んだ、『友達』が私にも出来たと思った。


自分の名前もわからなくって、私が名前を付けて、私と仲良くしてくれて、楽しかった。

それにローバのいない間、ずっと一緒にいたけど悪い事は何もしてないの。

言う事もちゃんと聞いて、お風呂もちゃんと入って、ダメって言ったらしなくなって。

たった数日しかいなかったけど、ルナはとてもいい子だとわかって、大好きになったの。


ローバにそんな思いをさせて、今もまたワガママを言ってごめん、ローバ。」

淡々と話すティアラ。


「……でも……本当に、今まで私ってローバを除いたら一人ぼっちだったのは本当にもう嫌だ……。」

──ふと本当にローバがいたときは一人ぼっちじゃなかったのかという疑問が頭の中で浮かんだティアラだが、すぐその考えは伏せて拒んだ。


「ううん、とにかく、あの子も今までずっと一人ぼっちだったの。

お互い本で読んだような友達が誰一人いなかった。

初めてできた友達なの。」

ティアラの切実な声をローバは黙り込んで聞いていた。


王宮では、薄汚い不快な経験をしても、本音を隠し常に心を穏やかにさせなければならない。

それが今になって急に本領を発揮する。


落ち着いた心優しいローバは再度考え直した。

ティアラはルナの登場により願望を抑える事ができなくなっていた。

ローバもまたティアラのそんな願望をもう無視する事もできなかった。

ローバはティアラに大きな間違いを犯してしまった。


ティアラは続けて言う。


「あのね?

ルナともうずっと一緒にいたけど、ローバが心配するようなこと、何もしなかったよ。

本当に優しくていい子なの。

なのにずっと一人ぼっちだったの。

そして何も知らない子なのよ。

何もかも知らなくて、言葉もちゃんとしゃべれない子なのよ。


そんな子が殺されるなんて…

もしルナが友達じゃなくたって、私は見殺しになんてできないわ。

だって私は勇者候補だもの。


ローバも言っていたでしょう?

私は今までの勇者の中で一番強い勇者になるんだって。

だから私はそんな勇者候補としてルナみたいないい子を見捨てたりできない。


それに私だもの。

もしあの子が悪い事でもしようとしたのなら当然阻止するわ。」

続けて言うティアラ。


「お願い。多分私がここにいるのってそんなに長くないんだよ?


これから、その残り間は大人しくするから。

サボっていた礼儀作法の授業とかもちゃんと受けるから!


ルナの面倒もちゃんと私がみる。

本当に最後だから…


だから私のワガママ聞いてください!」

10歳らしい幼稚な理由ではあったが、今のティアラにはそれが全部であった。

いくら賢くても、天才の類で勇者候補で、最強候補でもまだ子供なのだ。

また、ローバは自分の犯した過ちにより、ティアラを大きく傷つけてしまった。


ローバのティアラを止めていた手の力がつい緩んでしまう。


「さっき言ったこと…本当にごめんなさい。

絶対に私の本心じゃないの。

なんでそんなことを言ったのかもわからないの。

一度もそんなこと思ったこともないわ……。

本当にごめんなさい。ティアラ。」

そしてローバは涙を流しながら謝る。


「うん、大丈夫だよ!ありがとう、ローバ!

大丈夫、私も本心じゃないと思うから。だって今までのローバの犠牲、ちゃんとわかっているもの。」

わざと明るく言うティアラ。


「じゃあ、ルナを連れてきてちゃんと紹介するからね!すっごくいい子なんだから!」

と笑みを見せながら自分の部屋に走って行くティアラ。

彼女の左腕にはくっきりと痣ができていた。


「ごめんなさい、ティアラ…。それと、ください…だなんて…敬語なんて一度も使った事のない子が…」

部屋に駆け込むティアラの痣を見ながら、罪悪感を感じる。

ローバはボソッと独り言を言う。


だが、ローバは気付いていない。

ティアラが初めて「犠牲」と表現をし、自分に配慮した──距離を取った──ことを。


──さっきまで溢れ出ていた殺気は跡形もなく消えていた。


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