【18話】狡猾狼____、そして計画
ラークはA級冒険者であり、とても優秀な戦士だ。
巨剣─ヴォルグ─を愛用し、その巨剣を巧みに扱い前衛で活躍する戦士である。
ラークの実力は同級の戦士と比べて明らかに超えている部分がある。
戦士は数万以上の冒険者の中で半分以上占めている最も多い職の一つだ。
その中で、戦士としては上位百人の中に入るくらいの実力を持っている。
だが、彼は同級の冒険者に比べ、名が通っていない。
実績は彼の等級に相応しいだけのものはある。
強力な魔物の討伐は数多くある。
ややこしい依頼の成功率も他の──他職も含めて──冒険者よりも高い。
しかしある時期から自分の等級以上の強敵との戦闘もしくは対峙した記録が全くない。
ラークほどの戦士と彼が属するパーティーならいくつもの難敵との戦闘か少なくとも対峙したという記録があって当然である。
しかし彼にはそういった記録自体がなかった。
予め、そういった依頼を遂行しない。
指名の依頼は基本的には断る。
突発的にそういう強敵に出会っても、彼が報告の際にわざと省いたりしたのだと推測できるが、証拠がない。
だが、そもそもそうする理由が不明なのだ。
冒険者の昇級にはギルドの内部評価が必ず入る。
そしてその評価に、──定かではないが──影響を与えているのが名声らしい。
名声は数字ではない。
認識だ。
当然ではあるが、一般人にとって危険な何かを駆除すること、迷宮の攻略、依頼の成功などにより、自然と上がるものである。
名声は昇級に影響を与えるといわれる。
昇級すると、より高収入の依頼を受けることができる。
冒険者にとってはこれ以上ない栄誉と財貨を手に入れることができるのだ。
だが、ラークはそれを意図的に隠している。
それに一定の間、冒険者としての経歴には空白の部分も所々ある。
その間に何をしたのかもまた不明だ。
つまり、証拠はないが何かをしているのは確かではあった。
これを怪訝に思うギルドの人もいたが、たかが冒険者というと、その通りである。
冒険者ギルドは、比喩すると依頼に関するプロセスが組まれた広場であり、冒険者全てを属させる組織ではない。
登録も依頼受諾や管理の利便性のためである。
大抵の冒険者は個人であり、自由人なのだ。
ギルドは依頼に関するものと一部ケースを除いては、徹底的に不関与の立場を取っている。
ギルドに正式に雇われているなどの一部の冒険者を除いては、他の冒険者が依頼以外に何をしようが、ギルドは関係ないのだ。
またラークは人望も厚く、能力的にも優れている。
依頼成功率も高い。
ラークのその動きに、社会に害があるわけではない。
彼の意図はどうあれ、遂行した依頼とその事後に懸念されることは今まで一度もなかった。
結局は不明な部分は個人の問題だとして調査すらされていない。
名が通ってないもう一つの理由には、ラークの戦闘スタイルがある。
冒険者の戦士と言えば、一般的に知らされているのは男らしい豪快で派手な戦いっぷりが最も特徴的である。
猛々しい雄叫びと共に突進してバッタバタと敵をなぎ倒し、敵の血しぶきを思いっきり被り、そのまま他の敵に突進する。
その姿は敵の視点から見るととても禍々しいものなんだろう。
猪突猛進という言葉がよく似合う最前線の戦士は敵の脅威であり畏怖の対象であった。
或いは最前線で厚い防具と盾だけを頼りにして一人で獅子奮迅する。
後には通さんぞという気迫と共に仲間の前でどっしりと揺るぎなく耐える。
仲間のどデカい火力を待つ。
そして仲間の火力が自分をも巻き込みながら敵を一掃する。
そんな中、仲間の火力さえも凌ぎ、その場で立っているのは戦士のみである。
どちらのスタイルにしろ己の命を賭けて戦いをする。
こういった戦士に、多くの少年達は憧れ、冒険者になったばかりのひよっこ戦士は羨望する。
しかしラークは違う。
常に冷静に立ち回り、消極的な戦いをする。
無理をしない。
相打ちになりそうなら攻撃を止め、防御に徹する。
ラークという者は同級の戦士ほどではないが、一応それなりに名は通っている。
故に臆病者と言われる時もある。
だからこそなのか、彼のパーティーは絶対に死なない事で名を通していた。
実際に長きに渡るラークの冒険者人生の中で死んだ者はたった二人しかいない。
その二人もラークが冒険者になって間もない時に死んだ者だ。
死者が出ない理由の中で決定的な理由はラークの類まれなる防御センスと戦闘習慣だ。
ラークは常に優先順位を定め続ける。
そして彼の最優先事項は依頼の完遂ではない。
自分やパーティーの無事帰還である。
依頼受諾の段階から慎重に検討する。
受諾した後も準備段階から依頼内容・やること・数などを頭の中でリストアップし、その難易度とリスクを天秤で測る。
優先順位を定め、それを基に頭の中でフローチャートを作成する。
遂行中には常に再計算をし、フローチャートを更新して、それを徹底的に沿っていく。
安全かつ確実に処理していく。
ラークは個々の戦士としては、とても優秀だ。
だが、彼の能力はリーダーを任されると真の本領を発揮する。
冒険者の戦士の中で百の数に入ると言われているラークだが、
もし騎士団や軍に所属していたら間違いなくその頂点に立ち名を轟かしたのだろう。
それくらい指揮に関しての能力は圧倒的に群を抜いていた。
魔物討伐や迷宮攻略等ではその磨き上げられた観察眼で的確な指示を出す。
敵を倒せなくても確実に仲間を護り、負傷者が出ても死者は出さない。
正々堂々よりも狡猾に全員が生き残る可能性の高い方を選ぶ。
しかし実力がある故にこれが卑怯ではない。
オオカミは無謀で豪快な攻撃はしない。
常に狡猾に隙を狙い、集団で挑むのだ。
故に「狡猾狼」という別名で呼ばれていた。
────────
倒れたルナを見つめるラーク。
彼はとても驚いていた。
そして気に食わなかった。
いや、ある意味では気に入っていた。
ラークはルナと呼ばれる少女を本気で殺す気はなかった。
彼ほどの戦士だ。
本気で殺そうが殺さないだろうが殺気をある程度扱えた。
わざと殺気を出してみた。
手練れた戦士のちょっとした威圧だ。
それを必死に抗う少女。
その目には錯乱も恐怖もなかった。
ひたすら敵意のみを見せていた。
ひたすら自分を観察していた。
驚くことに自分と同じ思考をしている事もわかった。
この少女も頭の中でフローチャートを作っていたのだ。
その最優先事項は自分と同じく生存。
もし敵対しなくてもいいのならば、少女は敵対を止めたのだろう。
しかしそれは今の少女では不可能であった。
故に必然と敵対した。
少し期待していた。
だから大剣を抜く態勢を取った。
背負っている大剣の柄に右手を添えた。
「死にたくないのならば、必死に足掻いて見せろ。」
何が楽しいんだろう。
口の端が吊り上がりそうだ。
こんな少女につい挑発に似た期待感を乗せてしまった。
そして戦士らしく突進した。
手加減をして速度や威力は抑えたものの、それでも的を一つに絞った十分に洗練された突進だった。
自分の突進とほぼ同時に少女も飛び出した。
別に期待するものなんて何もないじゃないか。
少女はまだ幼く、丸腰であり戦いに関する嗜みもないと見受けられる。
しかし期待してしまったのだ。
もうすぐ少女と激突するだろう。
その時に巨剣─ヴォルグ─を抜いて面でぶっ叩いてやろうと思った。
そして剣を抜こうとした瞬間、少女が急に右手の方に飛び掛かって来た。
油断さえしなければ剣を抜き振るう事が出来ただろう。
だが、そうすると面で叩くのではなく斬ってしまう。
自分以下の戦士なら絶対抜く事すらできないだろう。
それくらい絶妙のタイミングであった。
そしてその僅かな隙は剣を抜くタイミングも逃し、自分の背丈よりも大きい巨剣を振るう間隙もなくしてしまった。
殺す気は毛頭ない。
故に右手を封じられた。
反射的に空いた左手で少女の横っ腹を殴る。
もちろん手加減はしたつもりだ。
でも肋骨の一本や二本くらいは持って行ってやろうと思ったのだ。
これなら持っている薬ですぐ治せる。
しかしそれもままならなかった。
少女は空中で絶妙に体を回転させて力いっぱい入れたであろうお腹に自ら直撃させたのだ。
しかも飛び込む時に左手の拳も意識したように衝撃が減る方向へと飛びやがった。
おかげでおそらく体内のダメージもほぼないだろう。
しかし大男の力までは計算できなかったのか、衝撃を完全に耐えきれず、そのまま気絶した。
ラークが微妙な表情を浮かべている理由であった。
「ルナ!」
少女の名を呼ぶ声がドアの方から聞こえた。
そして同時に数多くの魔法の弾丸がラークを襲う。




