【16話】メイド____
ティアラを育ててくれたメイドの名前は「ローバ」。
歳はまだ20代後半である。
随分と幼い13歳になった次の日から王宮で給仕の教育を受け、今や一通りの教養と教育、そして簡単な医療行為までできる者であった。
それは他の同年代のメイドと比べると優秀だった。
常にテキパキと働き、正確且つ迅速に仕事をそつなくこなす。
ちなみに王宮のメイドだけではないが、メイドは夜伽もする。
己の身分上昇が目的でメイドになった者は多い。
そして、その目的のために王族や貴族に身を呈するメイドはそれなりにいたのだ。
また基本的に若い王宮のメイドには美人が多い。
その理由は色々とあるが、主には貴族達への威厳といった見せしめや他国への礼儀の為という建前である。
故に若き貴族達は美人のメイドに色目を使い口説き夜伽まで持ち込もうとする。
野望はなくても、男とはほぼ無縁のこの職場にて性欲を持て余してしまい、その解消の為に夜伽をする者もいた。
王族や上級貴族達は基本的には結構ハードな性生活を送るらしい。
そしてその相手として最も多いのがメイドである。
しかしローバは夜伽をした事はない。
外見や性格に何らかの瑕疵がある訳でもなかった。
むしろ逆だ。
美人の多い王宮の中でもかなり男受けするメイドだった。
ローバはとても色っぽい顔や体をしていた。
ローバの目元はどこか優しげだったが、常に冷たい表情をしていた。
仕事の邪魔にならない様にシニヨンに纏めた緑がかった茶色い髪は、彼女の綺麗なうなじを一層惹き立てる。
プルンと太めの唇の横にあるホクロは彼女の色っぽさをさらに引き立てていた。
胸も豊満で厳格な王宮メイドの制服でも目立っていた。
ヒップも魅力的な形をしていてスカート越しでも見入っちゃうくらいだ。
それでいてエプロンで服を引き締め露になった腰のラインはとても細い。
スカートの端から覗かれる足首はとても細くて、真っ白なストッキング越しに色っぽさを見せていた。
その反面、少し話してみると冷たい表情とは裏腹にとても綺麗な声で優しく接してくれる。
そのギャップに惚れた男が多々あったのだ。
故に王宮に訪ねて来る男達に噂され毎日の様にしつこく話しかけられナンパされる。
王宮の訪問者は基本的には貴族達である。
王宮で給仕の者以外で最も地位の低い王宮内の一般騎士も貴族の子息なのだ。
故に田舎の一般庶民の出であり、メイドであるローバは丁重にもてなさなければならない。
ローバは優秀だ。
故にローバは任された役も多く、仕事もかなり多い方であった。
若いメイドの仕事が多いって事は上層部に認められている事であり、将来的には重鎮にもなれる者という事でもある。
しかしローバに色目を使って来る男達は仕事の邪魔になる。
故にメイド長は彼女の優秀さと将来性を見込み、また彼女の意思を尊重して徹底的に女として保護した。
王宮に居続けていたのなら今はそれなりに中間管理職に就きメイド長の側近になってメイド達を管理・教育をしているか、王妃の専属メイドになっていたのかもしれない。
しかし18歳になったローバはメイド長の期待とは反しようとしていた。
心優しき人であったローバは王宮内のいざこざや先輩メイド達の嫉妬による牽制、己の時間もないくらい多忙である事などでメイド職に倦怠感や疲労を感じたのだ。
また王宮内で幼いメイドや若いメイドを見る薄汚い視線を送る男達にも嫌悪感が湧いた。
だから自分に期待してくださるメイド長には申し訳ないと思いつつも、メイドを辞めようとした。
そんな中、特別な赤子が王国に預けられ、教育・育成を任せられる者を探しているとの情報が入った。
王宮内で出会った貴族の男しか知らないローバにとって、世の中の男とはみな下種な者ばかりだと思った。
故に結婚はあまりしたくはなかった。
しかし可愛い子供は欲しかった。
ローバはついメイド長にその役を任されたいと話す。
メイド長はローバの将来が大変惜しかったが、彼女以上の適任がないと判断する。
それによりローバはティアラに関するほぼ全権を任され、保護者として抜擢された。
密かに人を集めた。
その中で戦える者を選別して、秘匿義務の報酬として10年間、毎年年金を払う契約をして雇う。
もし秘匿義務が破られた場合を懸念して、成約魔法までかける。
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特別な赤子の護衛の件はとても重要であり、特別な魔法を使う。
沈黙の契と主従の契を混合させた魔法であり、最上級の成約魔法である。
沈黙の契は契約の中に含まれている内容を発してはいけないという誓いの魔法だ。
特別な赤子の情報や位置は決して漏洩されてはならない。
主従の契も結ぶ理由は護衛中にローバや特別な赤子に何らかの害を成す事を禁じたからである。
また違反による見返りは「死」に設定した。
ちなみにローバは何の成約も結んでない。
これは成約魔法のせいで色んな制約がかかってしまう場合を懸念した上部の判断である。
そして何よりも十年以上王宮に献身的に貢献してくれたローバに対する王宮の信頼の証だった。
護衛と共に密かに馬車に乗り特別な赤子とティアレン森の洞窟に移動した。
以前から特に強力な力を持つ勇者候補が暮らす場所だと王族とごく一部のみが知る場所である。
王宮がある首都からは馬を走らせても最低三ヶ月はかかる距離であり、最も近くにある町は少なくとも三日はかかる位置にあった。
道中の山の上で初めて見た地平線まで広がった果てない壮大な森には深く感動した。
その森はティアレン森と呼ばれているそうだ。
そしてそこはこれから長らく暮らすであろう目的地でもあった。
洞窟に到着して護衛団は解散した。
彼らは首都に戻って報酬をもらうだろう。
そして何もなかったかのように過ごすのだ。
赤子に森の名前から取ってティアラと名付けた。
そして、母性愛を惜しみなく注ぐのであった。
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