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忌子物語  作者: あむ
18/46

【15話】少年____

ティアラは続けて言った。


「じゃあ、君の名前を新しく付けようよ!忌み嫌うから忌子だなんて...本当に酷いわね...」

そう言って悩み始めた。

少年にも聞いてみたけど、少年に名付けが出来るはずがなかった。

途中で少年は一つだけ、願望を言った。

少年の言葉では表現が難しく、随分と大層な説明になってしまったけど要約すると


「それでも忌子の名前の一部はほしい。もしくは関連のある名前がほしい。辛い記憶ではあるけど忘れたくない。それよりも理由は分からないけど忘れてはいけない気がする。」

との事だった。


ティアラは悩んだ。

そして少年の顔をジッと眺める。

昨日のまるで獣のような姿の中で、特に黒髪の合間に見えた金色に輝く瞳が思い浮かんだ。

今思い返せば、まるで漆黒の夜に浮かび上がる満月を連想させた。


ティアラはふと、思いついた。

そしてその名前しかないと心の中で断言する。


ティアラが最も印象的に思う、神話に出るある者の名だ。

大好きな者だったゆえに大事ではあったが、名残惜しいとは思わなかった。

むしろこの名前しかないと思った。


「じゃあ、君の事を今日からルナって呼ぶね。古代の女神達の中で、月の女神がいて、彼女の名前が『ルナ』なの。また忌子の『忌』という字は古代語の『ル』に似ているのよね。元々は女神の名前だし、だからか女の子っぽい名前だけど、まあ、君は容姿も女っぽいし...どう?」

少年はよくわからないように首を縦に振った。


「じゃあ、これからよろしくね!ルナ!」


少年が村から逃げ出した日は少年の誕生日だった。

その日の月は満月だったのは、誰も気づいていない。

少年本人にも。


────────


少年の名前を決めて、しばらくしてティアラは今後の自分の事を言った。


一度見つかった勇者候補は国に登録がされて己や周りの危険を憂慮して人気の少ない場所、或いは人がいない場所で幼少期を送る事になる。

理由としては様々だったが、主に暗殺などの勇者候補の身を案じての措置であった。


特にティアラの能力はとても特別であり、とある理由でごく僅かな人のみが知る場所でメイド一人でティアラの世話をすることが決まったらしい。


そして社会に出た時のために色々な護身術や基本的な知識、礼儀作法等を学ぶ。

13歳になり、自分の身が守れるようになったと思われる勇者候補は一度暮らしている国の王に謁見をしなければならない。


その際に勇者候補としての能力が優れているのならば、王に認められ正式に王宮で本格的な勇者修行や生活をする事ができるらしい。


そこで最も優秀だった者を選び、正式に勇者として任命し王国のために本格的な活動をするのである。


ティアラは13歳になる約3年後の誕生日を迎える頃に、この洞窟から出るらしい。


────────


ルナとティアラは子供同士らしくすぐにお互いに馴染み、遊んだり、話をしたりしていた。


主に文字を知らないルナにティアラが本を読んであげたり、隠れん坊などをする。

またティアラは王宮へのロマン、希望などを話した。

お腹が空くと予めメイドが用意していた保存食や果物などを取り出し、一緒に食べ、寝る時も一緒に寝た。


ほとんどは──いや、全てのことに──ティアラが引きずり回し、ルナがついていくような形ではあったがルナも満更ではなく、表情に変化がない顔にもどこか楽しそうだ。


出会って間もない少年少女だが、誰かが見たらまるで可愛い姉妹のようであろう。

それくらい二人は仲良く暮らしていた。


夕方になるとティアラは必ずルナをお風呂に放り込んだ。

風呂から出たルナの髪を乾かし、寝る用意が整うと、


ティアラは最近新しくできた楽しい趣味を嗜もうとする。

素直だったルナだが、それだけは嫌だと逃げ回る。

結局ティアラに捕まってしまう。

諦めて全てを受け入れるルナ。


挙げ句にはティアラが満足するか、ルナが疲れたら、そのままベッドで共に寝た。


ルナにとってもティアラにとっても幸せで充実していた。


────────


短い日々が過ぎ、メイドが帰って来る日が近づいてきた。

勇者候補として、なるべく人と会ってはいけないと十分に理解していた。


しかしティアラはルナの事を大した事ないと思っていた。

よってメイドには自慢げに友達が出来たと誇らしく言うつもりだった。

そしてメイドが帰って来た。


「ローバ!お帰り!あのね──」

喜びながらローバと呼ばれたメイドを迎え入れようとしたティアラだが、話を止め口を噤む。


メイドは一人ではなかった。


隣には大柄の男が一緒にいた。

硬い表情は彼の性格を表すようだった。

体は大きくローブで覆われているが一目見ても筋肉質の鍛えられた体である事が理解できた。

背中には大きな巨剣を背負っている。

その巨剣の鍔はオオカミが咆哮しているようでその口から大きく鋭い片刃が伸びている。

手練れの戦士なんだろう。

装備している服や彼の背中越しに見えている大剣の柄に巻かれている布は古いがとても丁寧に手入れされていた。

その男は無精髭が生えていて、数多の戦いで負った傷なのだろうか、幾つもの古傷があった。


「お、お帰り...ローバ...えっと...その人は誰...?」


ローバの表情は随分と険しかった。

────────


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