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忌子物語  作者: あむ
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【14話】本と会話

どれほどの時間が過ぎたのだろう。


少年は目を覚ました。

いつの間にか眠ってしまい、ベッドに移されていた事に気づく。

生まれて初めてのベッドはとてもふかふかとしていて気持ちよかった。

そのお陰で疲労は取れ気持ちよく起きる事ができた。


横で小さく寝息を立てているティアラを見た。

誰が見てもその寝顔はとても可愛らしく愛しいと思えるだろうが、少年はまだよくわからない。

しかし妙に落ち着かない気持ちになり、気恥ずかしくなってティアラの姿から目を逸らした。


少年は起きてベッドから出た。

そして部屋の中にある本棚を眺めはじめた。

こんなに多くの本を見た事はなく、文字もわからない。


その中で一冊だけ手に取り、開いてみた。

絵が描いてあって、字の分からない少年にもある程度読める本だった。

後ろから声が聞こえた。


「それは勇者ガルガンの冒険談よ。神の十一の試練を乗り越え、勇者となって魔王を討ち果たしたというおとぎ話。」

ティアラが寝ぼけた声で本の概要を言う。

少年がベッドから離れた際に少し目を覚ましたのだ。

少年は本を開いたまま、ティアラを見る。

ティアラはまた寝ていた。


昼前になるまでぐっすり寝ていたティアラはやっと目を覚ました。

そしてベッドの温もりから抜けたくないみたいにゴロゴロする。

その間に少年は興味津々と絵本を読む。


ティアラは大きく決心したように悲壮な顔で起きる。

トイレと洗面を済ませた後、少年に話しかけた。


「ねえ、今日は私の話はいいから、君の事を教えてほしいな。名前は何?」

ティアラは昨晩悩み続けていた少年の名前をついに聞いた。


「...あー...あー...」

声を出してみる少年。

昨日のお風呂の効果や疲労回復もあり、声の調子は大丈夫らしい。

随分と澄んだ声だった。

少年とは思えない、まるで少女のような柔らかい響き。

ティアラは一瞬、本当に男の子なのかと疑いかけたが──直後、昨日の風呂場での光景が脳裏をよぎり、顔が熱くなった。

慌てて頭をぶんぶんと振って、余計な考えを追い出そうとした。


「...イミコ...。」

──少年が話しているじゃない!とティアラは雑念を振り払い、少年の話に集中しようとした。


「イミコ?何それ?変な名前!」

先の雑念を無理やり忘れようと大袈裟にケラケラと笑うティアラ。

しかし少年の次の言葉で表情を固めた。


「名前...違う...みんな忌み嫌う子だから...イミコ...忌子だって...ボクが痛かっ...たり...し...ていた人...が...。」

たどたどしく答える少年。


「へ?何?それでも親はいたのでしょう?君を愛してくれたり、育ててくれた...」

「お...や?お父さんは...毎日、ボクの…寝るところに...来て…痛かった。うん、すご…い痛...かった。お母さんはボク...を見...るだけでとても怒った...。変な固くて、みどりと…あおの…パンを投げ...て夜まで帰って来...るな...と言われた...それが愛...?」

ティアラは驚きながら慌てる。


実はティアラも親の事はよくわからない。

親と子の愛というのは漠然としか理解していなかった。

でも親の代わりとして育ててくれたメイドがいて、彼女は親代わりにたくさんの愛をくれていた。

その証拠の一つとしてティアラの部屋にある本は全部メイドが買ってきてくれた物だった。

そしてその買ってきてくれた本の中で親子が出て来る話では、決して親が子を、子が親を想う愛らしい内容であった。


少年はたどたどしく続けた。

父親に殴られ続けてきた事。

そして父親の気が晴れたら薬を投げつけられ、それで毎晩適当に傷に塗ったり飲んでいた事。

母親には腐った固いパンを投げつけられ家から毎日放り出されていた事。

家の中には入れず庭にある小さな倉の中で藁を敷いて寝ていた事。

毎日、村では全ての人に石をぶつけられ、汚物を被せられ、罵倒を食らっていた事。

全部ゆっくりと話続けた。


その過酷な話の途中で息苦しくなった少女は一旦少年の話を止めた。

そして部屋にちょっとだけ出て、ハムやビスケット、果物、水を持ってくる。

少年は初めて味わうハムやビスケットに無我夢中になり食べる。

そして食べ終えた少年は、少し悩んだ末に続けて全ての事を打ち明けた。

村での最後の日には村の若い人達が武器を持ってきて、自分を本気で殺そうとした事。

そして殺そうとした若い人の中で二人を殺して洞窟に逃げて来た事。

洞窟の中で真っ暗になり道中で死にかけた事。

水を探した事。

そして最後にここに至ったとの事。


ティアラは少年の壮絶な生涯を聞き、衝撃を受ける。


「...そうだったのね…ごめんなさい。」

「な...んで...ごめんなさい…?」

少年は理解が出来なかった。


実際に少年が謝る時には、少年自身は謝罪の意味で謝ったことは一度もなかったのだ。

つまり、謝る事は強い者への媚びの意味だと本気で思っている。

少年の短い生涯からしてそこに罪滅ぼしや罪意識なんかが入っている事など理解できない。

昨日のお風呂場に行く際の事を思い出しながら疑問に思った。

ティアラは少年より強い。

振り向きもせずに手も出さずに自分を制したのだ。

なのにティアラは少年に謝る事はおかしいと。

ティアラは少年の考えを悟り思案した。


『そう...謝罪の意味すらも歪んだ意味で捉えるのね...これはどうしたらいいんだろう...』


そしてティアラは


「一応、私がごめんなさいと言った事だけは覚えておいてね?後でちゃんと理解できるようになるわよ。」

と苦笑いながら言った。

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