【13話】洞窟の中の少女
少女の名前はティアラ。
苗字はなく、名前だけあると言った。
年齢は少年より一つ上の10歳であった。
少年は言葉はわかってても話す事が得意ではないらしく、ついティアラが先に話を始めた。
彼女は生まれて間もなく、この洞窟に来て、一度も外に出た事がないらしい。
両親や故郷もどこか全く分からない。
本でしか世界を知らず、生き物は育ててくれるメイドしか見た事がなかった。
今までメイドが外に出て色々と準備をしてくれたり、必要な物を手に入れてくれたりしたらしい。
そして今日はそのメイドがちょうど出て行った最中であり、少なくとも七日後に帰って来るとの事だった。
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そして何の知識も持たなかった少年に対して、ティアラは自己紹介も兼ねて最も得意とする魔法について話し始めた。
「魔法っていうのはね、まず自分の中にある魔力を引っ張り出すの。」
ティアラは両手を軽く開いて見せた。
「それから魔法陣を頭の中で組み立てて、魔力を通すと──」
──パッ
ティアラの掌の上に、小さな炎が灯った。
「こうなるの。」
少年の金色の瞳が炎を映す。
ティアラは満足げに続けた。
「魔力には属性があるの。火、水、風、土。これが自然属性。」
炎が消え、今度は水の球が浮かぶ。
「それから光と闇。これは創造属性って言って、すごく珍しいの。」
水が消え、淡い光が手のひらを包んだ。
「あと無属性。全部で七つ。普通の人は一つか二つしか持ってないんだけど──」
ティアラは少し得意げに胸を張った。
「私は全部使えるの。七つ全部。」
少年は静かに聞いていた。
その反応が嬉しくて、ティアラはさらに続けた。
「魔法を使うにはね、頭の中で魔法陣を組み立てなきゃいけないの。普通は呪文を唱えて──詠唱って言うんだけど──それで頭の中を整理するの。でも私はそれがいらないの。考えるだけで、すぐ出せる。」
少年の金色の瞳がティアラを見ている。
「すごいでしょ?」
返事はない。
でも、聞いてくれている。
それだけで十分だった。
ティアラは気づけば夢中で話し続けていた。
自分の魔法のこと、本で読んだ世界のこと、いつか外に出てみたいことを。
──
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ティアラは7つの全ての属性を扱うことができる前代未聞の唯一の存在だ。
しかも、その演算能力は天賦のものだ。
魔法を発動するには、頭の中で魔法陣を構築しなければならない。
凡人はその複雑な数式を繋ぎ止めるために、詠唱という補助を必要とする。
しかし彼女は、天性の感覚だけでそれを瞬時に完了させる。
呼吸をするように無詠唱で魔法陣を構築し、望んだ魔法を即座に放つ。
魔法を学問として修める者たちからすれば、まさに理不尽なほどの才能であった。
当然、外の世界を理論上でしか知らないティアラ本人は気づいていない。
だが、国や世界中の彼女の事を知る者からは重宝され、期待されていた。
そう、ティアラは知らないことであるが、彼女は歴代最強の勇者候補と評されていた。
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──気づけば、随分と長く話していた。
ふと少年を見る。
いつの間にか椅子の上でスヤスヤと眠っている少年が見えた。
おそらくティアラの部屋に飛び込んで来た時、いやそのずっと前からとても疲れていたのであろう。
ティアラはそんな少年を魔法で優しく持ち上げ、ベッドの上に寝かせた。
珍しい事に警戒心が強い少年は起きる気配もなく、眠り続けている。
そしてティアラも寝息を立てている少年の隣で横になり、少年の寝顔を見る。
横顔から見える長い睫毛は男の子らしくなくとても綺麗だった。
鼻筋もピンと伸びていて、寝息を立てる為に小さく開けた唇はとても魅力的だった。
寝顔はとても安らかで平穏だった。
こんな顔もできる少年だ。
しかし体の傷や乞食同様のみすぼらしい身なり、──本人も本で得た知識とその基準ではあったが──異常なほどの無知、洞窟から出て来た理由...
そして何よりも少年から感じる妙な違和感。
「やっぱり私のことよりも先に名前だけでも無理やりに聞いておくべきだったかな...」
少し後悔する。
ティアラは眠れずに深く考える。
そして気づいたらティアラも少年の横で小さく寝息を立てていた。
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明日はアップロード日ではございませんが、設定集を二つアップロードする予定です。
忌子物語がどんな世界観や設定により生まれたか気になる方は、どうぞご期待ください。




