見つけたもの
5週に一度の掃除当番は、それほど苦ではなかった。
掃除に没入する時間は、会社のデスクに積み上がった資料を思い浮かべながら、頭の中を整理する時間でもあった。自分はそれを定期的に求めてさえいた。
共用本棚で黙々と布巾を滑らせ、背表紙を拭いていたときだった。
高さの揃った書籍の並びに混じって、無地のノートが一冊置かれているのに気づいた。
表紙に何も書かれていない、無地のノートだ。
――だれのだろう。
軽い気持ちで手に取り、ページを開いた。
そこには、このシェアハウスでの出来事が、時刻とともに淡々と記されていた。
「6月12日 19:58 高橋美咲、リビングでテレビ鑑賞」
「6月12日 20:25 中村健太、缶ビールを開ける」
「6月12日 21:40 朝比奈澪、帰宅」
感想もなく、ただ事実だけが並んでいる。
読み進めるほどに、無機質な文字列がじわりと不気味さを帯びていった。
しばらくしてノートを閉じ、棚に戻す。
ノートの背表紙は何の主張もなく、ただそこに在るだけだった。
「これは……一体、何なんだ。」
そのとき、玄関の鍵が勢いよく回る音が響いた。
澪ちゃんの明るい声が飛び込んでくる。
「ただいまー!」
慌てて布巾を手に取り、本棚に向かいながら、精一杯平然を装って声を返した。
「おかえり。」




