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次の戦場

森の奥、木々がゆっくりと揺れる静かな空気の中で、蓮はリィの羽をそっと撫でていた。

粉が淡く光り、小さな光の粒が指先に溶けていく。


フェルノクシスは蓮の足元に寄り、静かに尾を振っている。


 


「……少し休めたな。お前らも随分頑張った」


蓮がそう言うと、リィは虹色の瞳でじっと蓮を見つめ、小さく「キュッ」と鳴く。

フェルノクシスは短く唸り声を上げ、その鼻先を軽く蓮の足へ寄せた。


 


(次はどうなるか――)


そう思いながら、剣の柄をそっと叩いた時だった。


 


――パァン。


 


視界の端に眩い光が生まれ、同時に頭の奥に澄んだ女声が響き渡る。


 


《システム通知:次期期間限定イベント【深淵踏破戦】を来週より開催します》


《参加条件:レベル30以上の全プレイヤー。参加は個人登録制》


《内容:特殊ダンジョンに挑み、踏破階層および討伐スコアを競うランキング形式です。

深層に進むほど高難易度・高報酬となり、途中帰還によるスコア精算も可能》


 


「……来たか」


蓮は小さく息を吐いた。

肩のリィが虹色の羽をわずかに揺らし、フェルノクシスは尾を一度強く地面に叩いた。


 


《ランキング上位者には専用ユニーク装備、限定称号【奈落歩む者】を付与》


《さらに規定階層および討伐スコアを超えた者には、特殊幻獣契約の挑戦権を与えます》


 


「幻獣契約……」


蓮は唇をわずかに噛んだ。


(前回の狩猟祭では結局クロスに一位を奪われ、俺は三位だった。

……だが今度は狩猟数じゃない。どれだけ深く進めるか、どれだけ強敵を屠れるか――まさに総合力の勝負)


 


思わずリィの頭に手を置き、フェルノクシスを撫でる。


「次は負けるわけにはいかない。お前ら……頼むぞ」


リィは羽を高く掲げて「キュッ」と短く鳴き、フェルノクシスは赤い瞳を鋭く光らせた。


 


 


――だがこの森には、自分だけがこうして戦いに備えているわけではない。


街へ戻る途中、ちらりと視界を操作し、リアルタイム掲示板のログを確認する。


 


《クロス率いるPK寄りギルド【黒獅子】、踏破戦に備え再編成中》


《斧のヴァイス、個人最高DPS記録更新だってよ。あの化物またやる気じゃん》


《リナは専属の補助連れて魔法陣踏破狙うって。動画で見たけど支援込みの火力エグい》


 


「……やっぱり、みんな動いてる」


 


クロスだけじゃない。

あの森で出会った無骨な斧使いヴァイスも、リナも――それぞれがこの深淵踏破戦を狙って牙を研いでいる。


そして新たに噂に上る名前もあった。


 


《双剣のシーカー、今回のイベントは完全に殺る気らしい》


《雷弓のアレッサ、フィールドで新魔弓試射してる動画あった。ヤバい火力》


《盾魔のダグ、今回は絶対ペアじゃなくソロ挑むって宣言してる》


 


(これだけの奴らが一斉に同じダンジョンへ潜る。

いずれどこかで必ず鉢合わせるだろう)


 


胸が高鳴る。

恐怖じゃない。むしろ楽しみで仕方がなかった。


自分とリィ、フェルノクシスがどこまで行けるのか。

次こそ――クロスや他の誰も追いつけない頂点まで駆け上がってみせる。


 


蓮はゆっくりと森を抜け、街の灯りが見える丘へ出た。


肩のリィは粉を少し多めに散らし、フェルノクシスは尾を軽く揺らして街を見下ろしていた。


 


「帰ろう。……今度は、徹底的に準備する」


リィが誇らしげに「キュッ」と鳴き、フェルノクシスは低い咆哮を上げた。


 


街の灯りの向こうで、確実に全員が次の戦場に向けて動き出している。


だがこの胸の昂ぶりが、どこか嬉しかった。


誰が来ようと、もう一歩も引く気はない。


虹と黒鉄の二体を従えて、蓮は再び剣を握り直した。


その瞳は、もう次の深淵をしっかりと見据えていた。

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