ブラッククロウの包囲網
森南 ─ 蓮とクロスの遭遇
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森の南側――
そこは密集した幻影獣が多く、狩場として最も価値が高いと言われる場所だった。
蓮は肩のリィを軽く撫で、剣を構え直す。
既に欠片は50を超え、素材もいくつか集まっていた。
順調。
ただ、この調子をどれだけ保てるかが勝負だった。
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その時――
森の奥から、低い地響きのような足音が複数重なって聞こえてきた。
リィが小さく身をすくめ、蓮の肩で小さく震える。
蓮は視線を森の奥へ向ける。
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木々を押し分けて現れたのは、黒いマントを揺らす大集団。
そしてその中央、ひときわ余裕そうな笑みを浮かべる男。
クロスだった。
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「おっと、やっぱりいたな。蓮」
クロスは笑みを浮かべたまま、剣の柄に手を置いた。
「……お前に素材を集めさせるわけにはいかねぇんだよ。
このイベントの勝ち筋は、上位を潰して狩場を奪い続けることだって、わかるか?」
蓮は無言で剣を構える。
クロスが薄く肩を揺らし、周りに視線をやった。
「潰せ」
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その一言で、ブラッククロウの幹部たちが一斉に動いた。
10人以上が左右から回り込むように蓮を囲む。
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リィが小さく鳴くと同時に、蓮は剣を左へ振り抜き、駆け寄った敵の刃を弾き飛ばした。
リィのブレスが空から青白く光り、襲い掛かった二人を燃やす。
だが――
「数が……!」
また別の敵が背後から迫る。
リィが必死に飛び込んで火花を散らし、攻撃を逸らした。
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「ははっ、いい竜だな。
だが数は正義だ。PKは欠片を奪えない?ああ、そうだな。
だが――お前の狩場を潰し、時間を奪えば同じことだ。」
クロスが楽しそうに笑う。
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蓮はリィに小さく息を吐く。
「ここは……捨てる」
リィが短く悲しそうに鳴き、それでも理解したように翼を閉じた。
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剣を構え、クロスの視線を一瞬だけ真っ直ぐに捉えた。
その瞳に、クロスは少し面白そうに目を細める。
「また会おうぜ、蓮」
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蓮はその場を一気に飛び退き、リィと共に森の奥へと姿を消した。
刹那、クロスは後ろにいた部下に命じる。
「追うな。時間を使わせただけで上等だ」
部下たちは一斉に剣を収め、笑みを浮かべた。
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「さぁ――次の狩りを続けようぜ」
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森東 ─ リナとブラッククロウ副隊
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一方その頃、森の東側。
こちらも幻影獣が多く、PKで潰すには十分に価値のある狩場。
そこには、ブラッククロウの副隊長――鋭い顎と金属製の肩鎧をつけた男が率いる部隊が集まっていた。
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「……あれがリナだ」
副隊長が顎で指す先、一本の細道に立つリナが弓を引いていた。
矢を放つたび、鋭い光が幻影獣だけでなく周囲に潜むブラッククロウの斥候をも撃ち抜いていく。
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「やりにくい女だな……」
副隊長はわずかに苦笑する。
「だが奴が討伐ペースを上げれば上げるほど、俺たちは遅れる。
潰すぞ。包囲を狭めろ」
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部下たちが左右から木々の間を駆け、リナの周囲を徐々に狭めていく。
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リナは弦を引く手を止めず、次々と矢を放った。
鋭い破裂音が何度も森に響き、包囲に加わっていたブラッククロウの前衛が数人、短い悲鳴を上げて崩れ落ちた。
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「……これ以上、邪魔はさせない」
リナは小さく息を吐き、瞳を細める。
矢筒から矢を引き抜く動きは、これまでよりずっと滑らかで速かった。
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「撃てッ!!」
副隊長の声で、周囲の部下たちが一斉に飛び出す。
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リナは矢を放つ。
一人、二人、三人――
しかし数の暴力はそれを超えてきた。
剣を掲げた男がリナの弓に肉薄する。
「くっ――」
リナは身体をひねり、肩を浅く切られた。
だが怯まず、弦を指先で強く弾いた。
小さな光が弓先から飛び、敵の顎を貫く。
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「包囲を狭めろ!一歩も下がるな!!」
副隊長が吠え、ブラッククロウの隊員たちが地面を蹴り続ける。
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(欠片は奪われない……でもここで討伐が止まれば……!)
リナは自分のペースが確実に乱されているのを感じていた。
それが胸の奥を苛立たしく掻きむしる。
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森は騒然とした息吹を吐き出し続けていた。
PKで直接失うものはない。
だが、狩場と時間を奪われる痛みはあまりにも鋭い。




