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幻獣契約への階梯

 狩猟祭が終わって二日が経っても、街の熱は全く冷めていなかった。


 石畳を歩くだけで、いくつもの視線が突き刺さる。


「……あれが葉山蓮?」


「狩猟祭で討伐2400超えってマジでやばくね……」


「肩のがあのフェアリードラゴン? 名前リィだっけ」


 肩の上でリィは堂々と胸を張り、そんな視線を一切気にしていない様子だった。


(お前はほんと、どこにいても変わらないな……)


 つい笑いながらそっと頭を撫でる。


 リィは嬉しそうに「キュッ」と短く鳴いて俺の頬に頭を擦りつけてきた。


***


 そんな時だった。


 広場の掲示板前で、ふいに人々がざわめく。


「……おい見ろ、何か光ってないか?」


「運営NPCの召喚エフェクトじゃね?」


 広場中央に光の粒が集まり、人の形を描いていく。


 やがてそこに現れたのは、銀色の長い髪を背に流した黒衣の女性NPCだった。


(……嘘だろ。こんな街中で、しかも俺の目の前に……)


 NPCは優雅に歩を進め、視線をまっすぐこちらへ向けると、柔らかく微笑んで深々と礼をした。


「葉山蓮様、そして愛竜リィ様。この度は狩猟祭での圧倒的な討伐記録、誠におめでとうございます。」


 瞬間、広場のざわめきが倍増した。


「やっぱあれ葉山蓮だったか……!」


「直接NPCが出てきて街で表彰とか初めて見た……」


 リィが少し身構えて俺の肩の上で低くなる。

 その頭をそっと撫で、俺はNPCに向き直った。


「……ど、どうも。俺なんかにわざわざ……」


「いえ。葉山蓮様の討伐数はクロニクルワールド史上、単独最高記録です。

これは公式としても、必ず讃えるべき偉業です。」


***


 NPCが小さく手を掲げると、目の前にホログラムが浮かび上がった。


・限定称号《静謐なる狩人》

  → INT+5、MND+5。街のNPC対応変化&特殊依頼が開放。


・高純度魔力結晶 ×10

  → 召喚獣に使うと30分間全パラメータ20%増。

   契約触媒としても機能。


・高位召喚印章の欠片 ×30

  → 50個で幻獣顕現イベントの契約権を獲得。

   100個で特別な《至高契約》へ挑戦可能。


「……至高契約?」


 思わず聞き返す。


 NPCは小さく頷き、広場に集まった冒険者たちにも向けるように声を張った。


「近く開催予定の《幻獣顕現イベント》は、全ての冒険者様に開かれた大規模強化イベントです。」


「通常、印章の欠片を50個集めた方は各職適性に応じた幻獣契約に挑戦できます。

剣士であれば《武装同調契約》、魔導士であれば《魔導契約》、そしてサモナーは《召喚契約》。

どの契約も、冒険者様の戦力を飛躍的に高める重要なものです。」


 周囲から感嘆の声が上がった。


「やっぱ俺も50個集めて剣に幻獣の力宿らせてぇ……」


「魔導契約で新しい詠唱欲しいわ……」


 NPCは言葉を一度区切り、少し声を落として続ける。


「ですが――100個を集めた場合、通常の契約のさらに上位、

《至高契約》が開放されます。これは特定の幻獣との唯一無二の深契約となり、

挑戦権を得るには今まで確認されたどの記録をも超える必要があるのです。」


***


「つまり……今その条件に最も近いのは?」


「葉山蓮様、貴方です。」


 NPCははっきりそう言い切った。


 俺の肩でリィが「キュ?」と小さく首を傾げる。


「貴方が狩猟祭で成し遂げた討伐数は、他の誰も到達できなかった領域です。

既に欠片を30個お持ちですし、次回のイベントまでに50個を集めることは容易でしょう。」


「……」


 その先を言わなくても分かる。


(100個集められるのは、たぶん――)


「俺だけ、か」


「はい。恐らく現状、至高契約に最も近いのは貴方です。」


***


 広場にざわざわとした波が広がる。


「まじかよ……100個とか普通ムリゲーだろ」


「でもこいつなら本当に到達しそうwww」


「剣士や魔導士も50は狙えるけど、100は現実的にこのサモナーしか……」


「幻獣顕現イベントであの葉山蓮が至高契約したらどうなるんだよw」


 掲示板にもリアルタイムでスレッドが立ち、スマホには通知が止まらない。


【SNSトレンド】

・葉山蓮

・リィ

・幻獣顕現

・至高契約


 NPCは周囲の興奮を静かに受け止めながら、再び俺に視線を戻す。


「葉山蓮様。ですが、どうか重荷に感じないでください。

幻獣顕現イベントは全ての職にとって意味ある挑戦です。

多くの冒険者様が50を目標に奮い、各自の契約を結ぶでしょう。」


「ただ――」


 NPCの目が一瞬、リィを見つめた。


「至高契約は、貴方のように誰よりも冒険を重ね、誰よりも仲間を信じ抜いた方にこそ相応しい。

どうか、その日が来るのを楽しみにしております。」


 その言葉に、リィが不思議そうに見上げて俺の頬に小さく頭を擦りつける。


 俺は少し笑って、その頭をそっと抱えた。


「……分かった。ありがとう」


 NPCは深く礼をし、光の粒となって広場から消えていった。


***


 広場は再び喧騒に包まれた。


「次は幻獣顕現イベントか……俺も50集めて絶対契約する!」


「俺も武器に幻獣宿したい!マジで頑張るわ」


「でも100はマジであのサモナーしか無理www」


 スマホを覗けば、SNSも掲示板も同じ熱気に溢れていた。

【SNS】

「次の幻獣イベント、俺も絶対挑戦する!」

「でも100は蓮とリィに期待してるw」

「至高契約でどんな幻獣連れてくるんだろ、ヤバそうw」


 俺はスマホを閉じ、そっと肩のリィを撫でる。


「なぁ……どんな幻獣が来ても、お前が一番だからな」


「キュ!」


 リィは得意げに翼を小さく広げ、俺の頬に頭を擦り付けてきた。


「じゃあ、次は……釣りにでも行くか」


「キュッ」


 リィは嬉しそうに鳴き、尻尾を揺らした。


 この先にどんな特別な契約が待っていようと――

 俺はずっと、こうしてお前と並んで歩くんだ。


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