第29話「恐怖と恋愛の支配」
悪行はレイナと向かい合い、町の現状やこれからの方針について話していた。
レイナはすでに鬼頭がこの町を魔物から救った真の立役者であることを知っていた。
そして彼女は意を決して言葉を紡いだ。
「領主の地位を継ぐのは、あなたであるべきです……」
レイナは鬼頭の手腕を認め、貴族の座に就くことを進言する。
しかし、悪行はそれをきっぱりと拒否した。
「俺はそんな面倒なことに興味はない、お前が領主になればいい。
俺はその裏でお前を支える。表向きはお前がこの町を守り、統治するのが最善だ。」
「でも……この町を救ったのはあなたです。あなたがいなければ、町は崩壊していた……」
レイナの言葉には確かな誠意が感じられた。
しかし、悪行にとって支配することは目的であって、表舞台に立つことは得策ではなかった。
むしろ、影で操るほうが都合が良い。
「なら、お前が表向きの領主になれ。その方が王国も納得しやすいだろう」
レイナは少し戸惑った様子を見せたが、やがて鬼頭の意図を理解したようだった。
彼はあくまで裏で操る存在として君臨し、レイナを前面に立たせるつもりなのだ。
しかし、レイナにはもう一つ懇願したいことがあった。
「……お願いです。父の処刑だけは、どうか見逃していただけませんか?」
彼女の目には涙が滲んでいた。どんな悪事を働いたとしても、アルフォンスは彼女の父であり、愛情を完全に捨て去ることはできなかったのだ。
悪行は一瞬考えたが、すぐに答えを出した。
「……いいだろう。だが、表向きには処刑されたことにする」
「……どういう意味ですか?」
「奴は国外追放にする。ただし、完全に王国の目から消し、二度と戻れないようにする。その代わり、お前は俺に逆らうな」
悪行は静かに、だが冷酷な目でレイナを見つめた。そしてスキルを発動した。
『精神支配』
レイナの体がビクンと震え、次第に目の焦点が合わなくなっていく。そして彼女の中に恐怖と、奇妙な感情が芽生えていく。
「……私……はい……」
彼女の表情は怯えながらも、どこか鬼頭に対する崇拝の色を帯び始めた。
「これでいい。お前はこれから俺の意向に従うことになる。もちろん、表向きは自由に振る舞ってもらって構わない」
レイナは戸惑いながらも頷くしかなかった。
彼女の心は、恐怖と奇妙な恋情が入り混じった複雑な感情に支配されていった。
こうして、悪行はレイナを完全に支配下に置き、アルフォンスの処刑を偽装し、国外追放とすることで表向きの問題を解決したのだった。




