第26話「裏切りと混乱の戦場」
戦場は混乱に満ちていた。アルフォンス軍の兵士たちは敵軍を迎え撃つはずが、突如として味方同士で斬り合いを始める者が現れた。
「な、何をしている!?味方を攻撃するな!」
隊長格の騎士が怒鳴るが、兵士たちは動揺していた。彼らの目の前で、同じ陣営の仲間が突如裏切り、武器を向けてきたのだ。
「隊長、あいつらが裏切りました!処分すべきです!」
「いや、待て!彼らは……」
隊長が何かを言いかけた瞬間、背後から騎士の一人がその首を一刀両断した。鮮血が飛び散り、周囲の兵士たちは恐怖に駆られる。
「どういうことだ!?なぜ……」
アルフォンス軍内部に紛れ込んでいた裏切り者たち・・・彼らは悪行が事前にスキル【精神支配】と【操心の囁き】を用いて仕込んでおいた伏兵だった。
「戦場とはな……敵だけが敵とは限らないんだよ」
悪行は高台から戦場を見下ろしながら、冷酷に笑った。
彼は数週間前からアルフォンスの部下の中に不満分子を探し、裏切らせるための根回しをしていた。
「奴らには既に選択肢はない……家族を人質に取られた者、借金で首が回らない者、待遇に不満を持っていた者、皆がこちらの手のひらで踊るしかない」
そして今、その策略が実を結び、アルフォンス軍は自軍の中で敵味方が入り乱れる状況に陥った。
「さあ、さらに混乱を加速させるか……」
悪行は次なる一手を打つ。
【幻影伝令】のスキルを発動し、アルフォンス軍に誤った命令を伝える。
偽の指示を受けた前線部隊は後退し、別の部隊と衝突。次々と戦線が崩壊していく。
「撤退しろ!?そんなバカな!」
「いや、違う、突撃せよという命令も来ている!?」
「どっちだ!?誰の指示を信じればいい!?」
兵士たちは混乱し、組織的な戦闘が不可能になった。
「さあ、アルフォンス、どうする?」
悪行は戦場の混沌の中、静かにアルフォンスの元へと忍び寄っていた。
周囲は裏切り者たちが次々と敵の指揮官を襲撃し、戦場は完全に混乱の渦に飲み込まれている。
「フッ、これほどまでに容易く崩れるとは……やはり軍とは、指揮系統を乱せば脆いものよ」
悪行は気配を消し、アルフォンスの背後へと回る。手には彼の喉を掻き切るための短剣が握られていた。
「さて……これで終わりだ——」
その瞬間——
「甘いぞ、悪行!」
アルフォンスが叫ぶと同時に、彼の指にはめられた黒い指輪が妖しい輝きを放った。
「なに……!?」
ズズズ……!
戦場の地面が揺れ、突如として魔方陣が出現。そこから現れたのは——巨大な魔物たちだった。
「くくく……これが私の切り札だ!」
アルフォンスが笑うと、魔物たちは一斉に咆哮を上げる。
一体は全身を鋼の鱗で覆われた巨竜。
一体は無数の腕を持つ異形の巨人。
一体は空を飛び、毒の霧をまき散らす怪鳥。
一体は闇に溶け込む影の獣。
そして最後の一体は、見る者の精神を蝕む邪悪な精霊。
「貴様がどれほど卑劣な手を使おうとも、これらの魔物の力には敵わん!」
戦場の空気が一変する。
兵士たちはその圧倒的な威圧感に怯え、戦意を喪失していく。
「ほう……ようやく、面白くなってきたな」
悪行は不敵な笑みを浮かべた。
「だがな、アルフォンス……俺が無策でここまで来たと思うなよ?」
次の瞬間、悪行の周囲の影が揺らぎ始めた。
「お前が魔物を出すのなら……こっちも用意してある」
次回、決戦の幕が上がる。




