第22話:歓楽街を制す者
アルフォンスの町において、商業組合と騎士団に続く三大勢力の一つが歓楽街だった。ここは娯楽の中心地であり、多くの人々が酒場や劇場、賭博場に集まり、日々の憂さを晴らしていた。表向きは賑やかで華やかな場所だが、実際には強固な権力構造があり、裏社会の大物たちがその利権を握っていた。
歓楽街を牛耳るのは「歓楽王」の異名を持つ男、グラハム。彼は街中の娯楽施設を取り仕切り、多くの商人たちと裏で繋がっていた。騎士団や商業組合とも一定の距離を保ちながら絶妙なバランスで支配を続けてきたが、その影響力を完全に支配下に置くことができれば、アルフォンスの町の全てを手中に収めたも同然だった。
「さて、どう料理してやるか……」
鬼頭悪行は、自らが持つスキルを駆使して歓楽街を掌握する計画を練っていた。
交渉の始まり
悪行は歓楽街の中心に位置する「黄金の杯」という高級酒場を訪れた。ここは歓楽街でも特に有力な者たちが集う場所であり、グラハムも時折顔を出すという。
悪行はカウンターに座ると、周囲を観察した。すぐに彼を警戒する視線を感じた。グラハムの配下である護衛たちだ。彼らは外部の者が不用意に勢力に干渉することを許さない。
「おや、初めて見る顔ですね。お客様ですか?」
店の奥から現れたのは、艶やかな衣装をまとった女主人だった。彼女は愛想よく微笑んでいたが、その瞳には鋭さがあった。おそらく、グラハムの指示を受けて歓楽街の動向を監視しているのだろう。
「ええ、少し話をしたくてね。」
悪行は軽く杯を傾けながら、スキル【説得の囁き】を発動した。
スキルの駆使
【説得の囁き】は、相手の警戒心を和らげ、好意的にさせるスキルだ。強制的な支配ではなく、自然に相手の心に入り込むことで有利な立場を作り出すことができる。
女主人の表情がわずかに柔らかくなる。
「……なるほど、お話だけならお聞きします。ですが、グラハム様の許可なく深入りすることはできません。」
悪行は微笑んだ。
「もちろん。むしろ、グラハム本人と直接話をしたい。俺の名は鬼頭悪行。今やこの町の大半を支配している男だ。彼にも興味を持ってもらえるはずだよ。」
その言葉に、酒場の空気が変わった。
護衛たちがざわめき、女主人の表情にも動揺が走る。彼らも、騎士団や商業組合が既に悪行の支配下にあることを知っているのだ。
「……わかりました。グラハム様にお伝えします。少々お待ちを。」
女主人が奥へと消えると、悪行は静かに微笑んだ。
「さて、どう転がるか……」
グラハムとの対峙
しばらくして、店の奥から大柄な男が姿を現した。
「お前が鬼頭悪行か。」
グラハムは分厚いコートを羽織り、鋭い目つきで悪行を睨んでいた。その背後には数名の屈強な護衛が控えている。
「話は聞いた。俺に会いたいと言ったそうだが、一体何の用だ?」
悪行はゆっくりと杯を置き、グラハムを見つめた。
「単刀直入に言おう。この歓楽街、俺の支配下に入れ。」
その言葉に、周囲の空気が一瞬で凍り付いた。
護衛たちが一斉に手を剣の柄にかける。しかし、グラハムはすぐにそれを制した。
「面白いことを言うな。だが、俺は長年ここを仕切ってきた。この歓楽街は俺のものだ。いきなり現れた外部の人間に渡す気はない。」
悪行は静かに微笑んだ。
「なら、どうすればいい?」
グラハムは考える素振りを見せた後、ニヤリと笑った。
「この歓楽街にはルールがある。外部の者が俺に挑むなら、それ相応の賭けをしなければならん。」
「賭けか。」
「そうだ。俺が指定する試練を突破できたなら、お前の言い分を考えてやる。」
悪行は興味深げに頷いた。
「いいだろう。その試練とは?」
グラハムは指を鳴らした。
「簡単なことさ。歓楽街の人気格闘場で試合をし、俺が指名する相手に勝てばいい。」
悪行はその条件を聞き、笑みを浮かべた。
「なるほど……面白い。俺が勝ったら、歓楽街は俺のものになるんだな?」
「保証しよう。だが、負ければお前は二度とこの街に近づくな。」
悪行は立ち上がり、グラハムと握手を交わした。
「いいだろう。その勝負、受けて立つ。」
こうして、悪行は歓楽街を支配するための試練に挑むこととなった。
彼はスキルを駆使し、歓楽街の頂点に立つための戦いに身を投じるのだった。
結果はあっけないものだった。
グラハムの用意した対戦相手と事前に手を組み棄権させるという手段だった。




