第十九話:商業組合の暗部
アルフォンスの住む町は、周囲の地域において最も発展した都市のひとつだった。
経済の中心地として多くの商人が行き交い、治安を維持するための騎士団が駐留し、市民の欲望を満たす歓楽街が栄えている。この三つの要素が組み合わさることで、町は繁栄していた。
「商業組合、騎士団、歓楽街……どれから手を付けるべきか。」
俺は地図を広げ、各施設の位置関係を確認した。
騎士団は当然ながら厄介だ。戦力を直接ぶつければ、こちらの手の内がバレる危険がある。歓楽街は支配しやすいが、それだけでは町全体を動かす力にはならない。
「まずは商業組合からだな。」
商業組合は町の経済を支える根幹だ。ここを押さえれば、町全体に影響を及ぼせる。だが、金と権力を持つ連中を相手取る以上、それなりの策が必要だ。
商業組合の秘密
俺はカリムに命じて、商業組合に関する情報を集めさせた。数日後、彼は驚くべき事実を持ち帰った。
「悪行様、商業組合は裏で違法な取引をしています。」
「ほう? 何を扱ってる?」
「魔物を操る指輪です。」
俺は一瞬、聞き間違えたかと思った。
「魔物を操る指輪? そんなものがあるのか?」
「ええ。どうやら闇のルートで流れてきた代物のようで、一定の魔力を込めれば低級魔物なら従わせることができるそうです。」
「なるほどな……。」
俺はニヤリと笑った。
「つまり、商業組合はこの指輪を裏取引して金儲けをしているわけだ。しかも、これが公になれば、町の安全を脅かす危険な組織として糾弾される……。」
「その通りです。」
これは大きな弱みだ。商業組合の連中は貴族との関係も深いため、問題が発覚すれば地位を危うくする可能性が高い。
「上手く使えば、こいつらを支配できるな。」
俺は計画を立て始めた。
スキルを駆使した交渉
俺は「幻惑の言霊」というスキルを発動した。
このスキルは、相手に特定の言葉を囁くことで、その内容を信じ込ませることができる。ただし、効果は一定時間だけで、強い意志を持つ者には効きにくい。
俺は夜の酒場で商業組合長ベルカ・ガンデルと接触することにした。
「おい、貴様何者だ? 勝手に座るとはいい度胸じゃないか?」
「名乗るほどの者じゃない。ただ、儲かる話を持ってきた。」
ベルカの目が興味深そうに細められる。
「ほう? 儲かる話とな?」
俺は小さく笑い、懐からある物を取り出した。
「こいつは……!」
ベルカの顔色が変わった。
俺が机の上に置いたのは、魔物を操る指輪だった。
「なぜ貴様がこれを……?」
「俺の知ったことじゃない。ただ、こいつが闇市場で流れているのは事実だ。もしこのことが貴族に知れたらどうなる?」
ベルカの顔が青ざめる。
「そ、それは……。」
俺はここで「幻惑の言霊」を発動させた。
「お前は俺と取引をするのが得策だ。」
ベルカの目が一瞬ぼんやりとした。
「俺と手を組めば、商業組合はより大きな利益を得られる……俺は敵じゃない、むしろお前を助けに来たんだ。」
ベルカは数秒の沈黙の後、ゆっくりと頷いた。
「……そうだな。確かに、これはチャンスかもしれん。」
どうやらスキルがうまく作用したようだ。
「よし、取引成立だ。」
次の一手
こうして商業組合は俺の支配下に入った。だが、これは始まりに過ぎない。
「次は騎士団だな……。」
俺はさらなる計画を立て始めた。