【第十三話:闇夜の暗殺者】
町の支配を盤石なものにした俺は、勝利の余韻に浸りながら、館の寝室で静かに眠りについていた。
──いや、表向きはそう見せかけていただけだ。
敵が俺を討つために動くのは、時間の問題だった。討伐隊を壊滅させた今、次に送り込まれるのは別の手段──つまり、暗殺だろう。
俺はいつ襲撃されてもいいように、部下たちに警戒を強めさせる一方で、罠を仕掛けておいた。
そして、今夜──予想通り、奴らは現れた。
静寂の中の侵入者
深夜。
館の中は静まり返り、外では風が木々を揺らしている。
──だが、その静寂の中に、不自然な気配が混じった。
「……来たか」
俺は目を閉じたまま、じっと待つ。
寝室の扉が静かに開かれ、影が忍び込んでくる。
黒い覆面をした暗殺者たちが、音もなく俺のベッドへと近づいてきた。
そして、俺の胸元に短剣が振り下ろされる──
罠の発動
「遅い」
俺は素早く横に転がり、暗殺者の一撃をかわす。
同時に、仕掛けておいた罠が発動した。
「ッ!? なにっ──!」
ベッドの下に隠していた細工が作動し、強力な閃光が放たれる。
「ぐあっ!」
「目が……!」
暗殺者たちは目を押さえ、苦しそうにうめいた。
俺はその隙を逃さず、枕の下に隠していたナイフを引き抜き、目の前の暗殺者の喉元に突きつけた。
「動くなよ?」
暗殺者たちは即座に反撃しようとするが、俺の部下たちが部屋の外から突入してきた。
「ボス! こちらは制圧しました!」
「よし、全員捕らえろ」
暗殺者たちは逃げようとしたが、すでに出口は塞がれている。
こうして、暗殺者たちは一人残らず捕縛された。
──だが、その中に、一人だけ異質な存在がいた。
有名な暗殺者
「ほう、お前は──」
捕まえた暗殺者たちの中に、一人だけ異彩を放つ男がいた。
全身黒ずくめの装束に身を包み、その鋭い眼光はまるで獲物を狙う獣のようだ。
「まさか、お前ほどの男がこんな仕事を請け負うとはな……」
俺は目の前の男の正体を知っていた。
「《黒蛇のカリム》……暗殺ギルドでも名の知れた殺し屋じゃないか」
暗殺ギルドに所属する伝説的な暗殺者、《黒蛇のカリム》。
高額な依頼しか受けないことで有名で、標的を確実に仕留めることで恐れられている。
「フン……俺の名を知っているとはな」
カリムは捕らえられているにもかかわらず、堂々としていた。
「お前がこんな町の支配者だとはな……確かに、厄介な相手だったようだ」
「随分と余裕じゃないか」
「殺すならさっさと殺せ。拷問でもするつもりか?」
カリムは一歩も引かない。
──だが、俺は彼を殺すつもりはなかった。
むしろ、利用するつもりだった。
卑劣な取引
「いやいや、殺すなんてもったいない。俺にはお前を殺すよりも、ずっと面白い提案があるんだよ」
「……提案?」
カリムが訝しげに俺を見つめる。
「お前、今はギルドからの依頼で動いているんだろう?」
「ああ」
「なら、こうしよう──お前が俺の仲間になれば、ギルドの情報を教えてくれれば、俺はお前を生かしてやる」
「……くだらんな」
カリムは鼻で笑った。
「そんな取引に応じると思うか?」
「そうか……なら、交渉材料を変えようか」
俺はニヤリと笑い、手を叩いた。
すると、部下たちがカリムの仲間の暗殺者を引きずり出し、床に投げ出した。
「……お前の仲間たちだ。さっきの戦いで全員捕らえた」
「……!」
「お前が俺の条件を呑めば、こいつらは助けてやる。拒めば、今すぐ全員処刑する」
カリムの表情が険しくなる。
「……卑劣な手を使うな」
「ははは、俺は元々そういう男なんでね」
俺は肩をすくめる。
「さあ、選べよ」
カリムはしばし沈黙した後、低く呟いた。
「……わかった。俺はお前の下につく」
「いい返事だ」
俺は満足げに笑い、縄を解かせた。
「お前にはギルドの情報を吐いてもらう。そして、今後は俺の暗殺者として働いてもらうぞ」
「……フン」
こうして、《黒蛇のカリム》は俺の仲間となった。
──俺の勢力は、さらに強くなった。