【第十一話:揺らぐ支配】
処刑が終わり、広場には沈黙が広がっていた。
俺は満足げに処刑台の上から住民たちを見下ろす。彼らの顔には恐怖の色がありありと浮かんでいた。これこそが俺の望んだ光景だ。支配とは、圧倒的な恐怖を刻み込み、逆らう気力を完全に奪い取ることで完成する。
「これが反逆者の末路だ」
俺はゆっくりと声を響かせる。
「俺に逆らえば、こうなる。それをよく覚えておけ」
住民たちは誰も声を上げない。ただ、怯えた目でこちらを見つめるばかりだ。その中には、老人も、女も、子供もいた。俺の支配がこの町に深く根付いている証拠だった。
──だが、その沈黙の中に、一つだけ違和感があった。
俺はふと視線を巡らせる。住民たちは皆、顔を伏せ、縮こまっている。だが、一人だけ違った。
クラリスだ。
彼女は俺のすぐ側で立っていたが、その目には恐怖だけでなく、何か別のものが宿っていた。
怒り、そして……決意?
俺は内心で舌打ちする。やはりこの女はまだ折れていないか。
俺の支配を受け入れるどころか、ますます反抗心を燃やしているように見える。
まあいい。
そんなものも、時間の問題だ。
「クラリス」
俺はわざと彼女の名を呼んだ。
「貴様もよく見ておけ。お前が余計なことをすれば、町の人間はこうなるんだ」
「……っ」
クラリスの顔が苦痛に歪む。俺はその様子を満足げに眺めた。
「さあ、次の仕事がある」
俺は手をひらひらと振り、広場を後にした。
町の動揺とさらなる支配
処刑の影響はすぐに現れた。
町の住民たちはますます口を閉ざし、表情を消して俺の前に跪くようになった。俺が町を歩けば、人々は無言で道を開け、目を合わせようとしない。
いい傾向だ。
しかし、一方で俺の部下たちからは、少し気になる報告も入ってきた。
「最近、町の外れで妙な動きがあります」
「ほう?」
「住民の中に、夜な夜な集まって何かを話し合っている連中がいるようです。まだ詳細は掴めていませんが……」
「反乱の兆しか?」
「可能性はあります」
俺は少し考えた。
こうして恐怖を植え付けたはずなのに、それでも動きを見せる者がいる。だとすれば、それはよほどの覚悟を持った連中か、それともクラリスの影響か?
「奴らの動向を監視しろ」
「承知しました」
俺は命じた。反乱の芽は早めに摘むのが基本だ。
そして、その夜。
俺はまた新たな報告を受けることになる。
クラリスの動き
「クラリスが?」
俺の前に跪いた部下が報告する。
「はい。彼女が密かに孤児院の子供たちと話をしていました」
「何を話していた?」
「詳しくは分かりませんが……子供たちに何かを伝えようとしていた様子でした」
俺は眉をひそめた。
孤児院の子供たちは、クラリスが最も大切にしている存在だ。もし彼女がまだ何か企んでいるとすれば、そこに何らかの手掛かりがあるはず。
「よし、少し揺さぶりをかけるか」
俺は立ち上がると、部下たちに命じた。
「今すぐ孤児院を封鎖しろ。クラリスには、俺の前に来るように伝えろ」
「かしこまりました!」
部下たちはすぐに動き出し、俺は椅子にもたれながら静かに笑った。
「さて……どんな顔をするかな、クラリス?」
クラリスの決断
数時間後、クラリスが俺の前に連れてこられた。
「……何のつもり?」
彼女は俺を睨みつける。だが、その声には焦りが混じっていた。
「何、ちょっとした警告だよ」
俺はワイングラスを傾けながら言った。
「孤児院の子供たちと何を話していた?」
「……ただの世間話よ」
「そうか?」
俺はゆっくりと立ち上がり、彼女の前に歩み寄った。
「俺は、裏切りを嫌うんだよ、クラリス」
彼女は息を呑んだ。
「お前は俺に従うと言ったな? ならば、その態度を見せろ。でなければ……孤児院の子供たちの安全は保証できない」
「……っ!」
彼女の顔が絶望に染まる。
俺はその様子を見て、ゆっくりと微笑んだ。
「選べよ、クラリス」
「……」
クラリスは長い沈黙の後、小さく頷いた。
「……わかったわ」
その瞬間、俺の勝利がまた一つ、確実なものになった。
俺の支配は、ますます強固なものとなっていく。