【第九話:完全なる支配】
クラリスが膝をついた瞬間、俺の勝利は確定した。
町の象徴であり、反抗勢力のリーダーであった彼女が俺に屈したのだ。
広場に集まっていた町の住人たちは、息を呑んでこの光景を見守っていた。彼らの目には恐怖と絶望が浮かんでいる。だが、それでいい。支配というものは、相手に「逆らえない」と理解させた時点で完成するものだからな。
「……いい子だ、クラリス」
俺は満足げに微笑みながら、ゆっくりと彼女の顎を持ち上げた。
「お前は賢い。無駄な反抗をやめて、俺の下につくというのは正しい判断だ」
クラリスの唇がわずかに震える。だが、彼女の目には怒りの炎がまだ宿っていた。いいだろう。簡単に心まで折れるとは思っていない。だが、その炎もいずれは消えることになる。
「約束通り、子供たちには手を出さないわね……?」
かすれた声でクラリスが問う。
「当然だ。お前が俺に従う限りはな」
俺は手を振り、部下たちに命じて孤児院の子供たちを元の場所へと戻させた。子供たちは怯えた目でこちらを見ていたが、クラリスが頷くと静かに後退していく。これで人質は維持しつつ、無用な混乱は防げる。
「さて、これで決まったな」
俺は広場に集まった町の人間たちを見渡した。彼らはまだ混乱している。だが、ここで畳み掛けなければならない。
「これからこの町は、俺の支配の下で生きていくことになる。クラリス、お前もそのために尽力するのだ」
「……何をさせるつもり?」
クラリスは俺を睨みつけながら問いかけた。
「お前には、町の人間たちに俺の命令を伝え、彼らの管理を任せる。簡単に言えば、俺の代弁者として働いてもらうわけだ」
クラリスの表情がこわばる。
「そんな……! 私に町の人たちを裏切れと言うの!?」
「裏切り? 違うな。俺はただ、町をより良く統治するための協力を求めているだけだ」
俺は静かに言葉を続ける。
「お前が表向き町の代表を務めることで、住民たちも安心するだろう。だが、決して忘れるな。お前が俺に逆らえば、すぐにこの町は破滅する」
クラリスは唇を噛みしめた。だが、孤児院の子供たちや町の人々の命を考えれば、もはや選択肢はなかった。
「……わかったわ」
その言葉が俺の耳に届いた瞬間、俺は確かな支配の感触を得た。
その後、俺は町の支配体制を強化するための施策を進めた。
まず、町の主要な施設──食料庫、市場、井戸、警備隊の詰所──をすべて俺の管理下に置いた。これにより、町の経済と治安を完全に掌握する。
さらに、新たに「監視隊」を結成し、町の動向を逐一報告させる体制を整えた。俺に歯向かう動きをする者は、すぐに摘発できるようにするためだ。
もちろん、クラリスも徹底的に利用する。彼女には定期的に町の人々へ「演説」をさせることにした。
「……私は、この町の安定のために、鬼頭様に協力することを決めました。彼の統治の下で、私たちは生きていくのです」
クラリスが震える声でそう語ると、町の人間たちは動揺しながらも、それを受け入れるしかなかった。彼女が俺の支配下にあると知れば、抵抗する気力も失われるというものだ。
完璧だ。
町の人間たちは俺を恐れ、そして従うしかない状況にある。
俺はついに、この町の完全なる支配者となったのだ。
夜、俺は屋敷の一室で静かにワインを傾けながら、クラリスを見つめていた。
「お前はよくやったよ、クラリス」
「……ふざけないで」
彼女は俺を睨みつけるが、もはやその視線には、以前のような強さはない。
「これからも、お前には俺のために働いてもらう」
俺はワイングラスを回しながら続ける。
「お前の役割は、町の人間たちに俺の統治を受け入れさせることだ。そして、俺の意向を忠実に伝え、従わせること。……わかっているな?」
クラリスは沈黙する。
だが、もはや反抗することはできない。
俺は満足げに笑みを浮かべた。
「これで、この町は完全に俺のものだ」
俺の野望は、まだ始まったばかりだ。