第一話:悪行の第一歩
「腹が減った」
目が覚めた時、俺は異世界の見知らぬ町にいた。石造りの建物が並び、行き交う人々は簡素な布の衣服をまとい、露店には見たこともない食材が並んでいる。どうやら中世ヨーロッパ風の異世界らしい。
だが、そんなことはどうでもいい。今の俺にとって何よりも重要なのは、ひどく空っぽになった胃袋を満たすことだ。
(さて、どうやってメシを手に入れるか……)
金はない。ならば手に入れる方法は限られる。正攻法ではなく、俺の持ち味である "悪行" を活かすしかない。
「おや、旅の方ですか?」
ちょうど良く、親切そうな宿屋の主人らしき男が声をかけてきた。どうやらこの町に旅人が来るのは珍しいらしく、警戒心は薄い。
「ええ、実は王都の貴族の使いでしてね。旅の途中で金貨袋を落としてしまいまして……」
俺はしおらしい顔を作り、悲しげに語る。
宿屋の主人は
「それは大変だ」
と心配そうな表情を浮かべた。案の定、こいつは善人だ。
「よろしければ、今夜の宿と食事をお貸ししましょう。お困りでしょう?」
しめた。俺は感謝の言葉を述べ、出された料理を平らげた。こうして俺は何の苦労もなく、一夜の宿と食事を手に入れることに成功した。
──ピロン♪
【詐欺Lv1を取得しました】
突如、俺の脳内にゲームのようなシステムメッセージが流れる。どうやら悪行を働くことでスキルが増えていくらしい。面白い。ならば、もっと効率的に悪行を重ねる必要があるな。
翌朝、宿屋の主人に礼を言い、俺はこっそりと宿を出た。もちろん、ツケの支払いはしていない。
──ピロン♪
【無銭飲食Lv1を取得しました】
いい感じだ。この世界で生き抜くための方向性が見えてきた。
だが、このまま小さな詐欺を重ねるだけでは効率が悪い。次のステップに進もう。
「おい、そこのお前。少し話がある」
俺が次に目を付けたのは、路地裏にいた痩せこけた商人風の男だった。持っている袋にはそこそこな額の金が入っているようだ。だが、こいつは明らかに気が弱そうで、腕力には自信がないタイプ。
「な、何の用だ……?」
「俺はこの町の裏社会を仕切る者だ。あんた、この辺りで商売するなら“場所代”を払ってもらわないとな?」
俺は威圧的に言い放った。男は怯えた様子で後ずさる。
「そんな……そ、そんな話は聞いてない!」
「今知っただろ? それとも、俺たちを敵に回す気か?」
“俺たち”なんて組織は存在しない。だが、虚勢を張ることで相手の恐怖を煽ることができる。
「わ、わかった……」
男は震える手で金貨数枚を差し出した。
──ピロン♪
【恐喝Lv1を取得しました】
くくっ、実に簡単だ。この世界の住人は純粋でチョロすぎる。詐欺、無銭飲食、恐喝──どれも現実世界で培ってきた俺の得意分野だ。
だが、俺はまだこの世界に転移したばかり。この程度の悪行では満足できない。
次の目標は、より大きな獲物だ