暁家枠
「剣士番付捌位の十文字龍稀は剣魔の儀に参加しないはずだから、あとは玖位の暁凛香か。まぁ筋は良いが普通の剣だな。気にしなくて大丈夫だ」
首を傾げるアイシス。
「えっと……。この凛香って人は剣士番付玖位の剣鬼よね?」
「あぁ、この玖位はいわゆる暁家枠だ。剣士番付の闇だな。暁家は不知夜国の内政全般を担っている。そして大商人の顔も持っている。暁家は不知夜国一の資産家なのさ」
「それって金で番付の地位を買っているってこと?」
不満気な顔を見せるアイシス。
前にも剣士番付は政治的な思惑が反映されるって説明したはずだけどな。
「そんなに直接的な事はしてないよ。不知夜国に住んでいれば、どうしても暁家に世話になってしまう。暁家に頭が上がらない人ばかりだ。わざわざ暁家に嫌われる事をしないだけだよ。剣士番付の玖位には血闘を申し込まないだけだな」
「それって結局不正じゃないの?」
「400年以上続く剣術番付になんて事を言うんだ……。不知夜国内で言葉に気を付けた方が良いぞ。不正ではなく忖度かな。条件付きだが、血闘は自分より上位の番付なら誰にでも申し込める。そして誰に血闘を申し込むのかはその人の自由だ」
「ふーん。なんだか詭弁に感じるわ」
「まぁ人間が作った制度だ。当然、どんな制度も日常生活と密接に繋がっているのさ。そしてこれは集団生活を守る生活の知恵ってやつかな」
「浅知恵にしか思えないわね」
「馬鹿な権威を後生大事にしているのさ。しかしそれなりにこの馬鹿な権威は大事なんだけどな」
剣士番付に少し幻滅したアイシスのようだが、気を取り直して真剣な顔を見せる。
「それで剣魔の儀で特に注意しないといけない人は誰?」
「剣魔の儀に誰が参加してくるかまだわかっていないけど、巷の評価では大本命が宵闇厳三さん。対抗が東雲雪月さん。あとは大穴だな」
「トキの前評判は?」
「さてね。参加するとは思われていないんじゃないか。たぶん逃げ出すと思われているだろ」
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「アイシスに確認したい事があるんだ。暁茂三さんからアイシスと結婚をしないとソレイユ帝国との外交問題に発展する可能性があり、それを防ぐ為にはこちらからソレイユ帝国の帝室にアイシスとの婚礼の許しをもらいに行く必要がある。また肩書きが弱いから剣士番付の拾位以内になる必要があると言われたんだけど、実際のところそうなの?」
アイシスは俺の言葉に呆れた顔をする。
「なんなのそれ? そんなわけあるわけないでしょ」
「いや、アイシスはソレイユ帝国帝室において、利用価値があったんじゃないか? それを傷物にしたってソレイユ帝国帝室から激怒されない?」
「何を言っているのよ。私の背中に毎日のように鞭を振るっていたのはソレイユ帝国皇后のギアンナ・ソレイユよ。それを手助けしていたのがその子供の第一皇子レオ・ソレイユ。帝室の中心人物が私を既に傷物にしていたの。もう利用価値があると思っているはずがないわ」
アイシスの傷だらけの背中が脳裏を過った。
確かに他国の王室に嫁がせるには無茶苦茶だよな……。相手の国もソレイユ帝国帝室内で虐待されていた皇女をもらっても扱いに困るや。
「でも何が目的でそんな事を言ったのかしら?」
「たぶん俺の剣術を見たいんだろ。俺の剣術の実力が把握できてないから探りを入れているのさ。既に剣魔の儀は始まっていると思ってくれ。あと、曙家と暁家が手を組んだ。これに伴い元々曙家と繋がりのある有明家も協力する事になるだろう」
あからさまに衝撃を受けるアイシス。
「六大家の内の三つの家が手を組むって事!? えっと、剣士番付の肆位、漆位、玖位、拾位って……」
「それでも曙家と暁家が剣魔の儀を勝ち抜くのは厳しいんだよ。可能性のある大穴は海斗くらいだ。だから厳三さんの提案に反対していた暁家や態度保留していた曙家が、急に賛成に回ったのが解せないんだ。他に俺の知らない勝算があるんだろうな。油断するわけにはいかないね。あと、茂三さんから剣魔の儀で連携をしないかと持ちかけられた。返事は保留しといたよ。一週間後に返事をする約束をした」
「暁家と連携するとどんな利点があるの?」
「資金面と情報面で多大な恩恵を受ける事ができると思う。資金面では不知夜国一の金持ちである暁家と組めば周囲が勝手に便宜を測ってくれるからな。ただそれより情報面が大きい。六大家の暁家ならば、六大家の幹部会の情報もすぐに入るようになるしな。また茂三さんの大商人にとしての人脈がでかい。量、質共に良質な情報が得ることができる。情報は生物だから鮮度が大事だ。古い情報はソレイユ帝国で食べる魚料理みたいなもんだよ」
「ふーん。それで暁茂三さんは信頼に値する人物なの? それが一番大切じゃない?」
「そのとおりだね。ただ、茂三さんは何を考えているのか本心を掴ませてくれないんだよ。さすが大商人だわ。それでアイシスにも判断してもらおうと思ってね。ちょうど茂三さんから暁邸に招待されているんだ」
「そうなのね。私は人を見る目に自信があるわよ。任せておいて」
小振りな胸を張って強調するアイシス。
俺は人差し指で頂上を突きたい衝動に駆られたがなんとか抑え込んだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誠に申し訳ございませんが、この作品はあらためて書き直そうと思います。





