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櫻麻トキ  作者: 葉暮銀


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連携の打診

 俺の眼を真っ直ぐ見つめてくる茂三さん。男性に見つめられても嬉しくないよ。


「既に各家は連携を模索しております。当家も曙家との連携の約定は結びました」


 まぁ予想通りだよな。曙家と暁家は親交が深いから。


「でもそれでは勝算が低い。曙家と連携すると、曙家と(ゆかり)の深い有明家も強力する事になります。それでも剣魔の儀の本命は宵闇家です。対抗が東雲家でしょう。また曙家と連携をしたとしても旨味が少ない。有明海斗が勝ち抜いた場合は、当家は三番目の位置になりますから」


 勝ち抜いた有明家が一番。元々有明家の本家の曙家が二番。どうしても暁家は三番になる。まぁそうなるよな。


「剣魔の儀の後の権力闘争は既に始まっているのです。櫻麻家も再び権力を掴む絶好の機会ではないですか。指を咥えて傍観していたら他家に喰われますぞ」


「そろそろ本題に移ってもらって良いですか? 夕食を作る必要がありますから」


「なんと! 当主自ら料理をなさっておりますか! それは失礼いたしました。単刀直入に申しまして我が暁家と組みませんか? 当家が櫻麻家が剣魔の儀を勝ち抜けるように陰に日向に手助けを致します。そしてトキさんが剣魔の儀を勝ち抜いた暁には、トキさんの統治を手助けさせていただきます。内政の専門家であり、不知夜国の商業の雄である暁家の助力は間違い無く有益だと自負しております」


 なるほど、そう来たか……。さてどうするか? 簡単に出る結論ではないな。


「面白い提案です。慎重に検討させていただきます。お返事は一週間後で宜しいですか?」


「元より直ぐに返事がいただけると思っておりませんでした。ご返答は一週間後ですね。了解致しました。宜しければ、その一週間で当家と組んだ時の利点を説明させていただきます。孫の凛香に伝えておきますから、いつでも暁邸に遊びに来てください」


 凛香か……。

 少し苦手だが、久しぶりに会いたい気持ちもあるか。


「ありがとうございます。時間を作りお伺いさせていただきます」


「それは重畳(ちょうじょう)ですな。孫も喜びます」


 孫である暁凛香を口にする茂三さんには、いつもの柔和な顔が戻っていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 暁茂三さんが辞去した後、直ぐにアイシスが寄ってきた。


「ねぇ、教えて欲しいのだけど……」


「どうした?」


「先程、お茶を出した時にチラッと資料が見えて……。ねぇ、私の治療には一体いくらかかるの?」


 あぁ、目録が目に入ったか。

 恩着せがましいから余り治療費を言いたくなかったんだけど、アイシスの心情を考えると教えた方が良いかもな。


「治療費を教える前にはっきりと言っておく。治療は絶対続けるからな。そしてアイシスが気にする必要は無いから。俺の望みでやる事だからな」


「……、わかったわ。でもそんなに念を押す金額って事ね」


「治療費は7億5,000万バルトだ」


「な、7億……」


「いや7億じゃなくて、7億5,000万バルト」


「吃驚して言葉が詰まったのよ! それに7億と7億5,000万も途方も無い金額に変わりはないわ! 馬鹿なのトキ! 止めましょう! そんな大金使われても私が困るわ! たかが背中の傷跡よ!」


「治療は続けるって俺は言ったよね。アイシスの意見は却下だ。それにたかが(・・・)じゃない。アイシスは皮膚の引き攣る痛みを感じる度に屈辱を思い出すだろう」


「そんなの我慢できない痛みじゃないわ。7億もかけて取り除く痛みじゃない」


「7億5,000万だって。却下って言ったろ。痛みを感じる度に心が締め付けられるんだよ。そんなの駄目だ。心が壊れてしまう。いや既に壊れているかもしれない。だからこそ取り除くんだよ。この話は終了だ。俺の金を何に使おうが関知しないでくれ」


 無言になるアイシス。二人の間に沈黙が流れる。


 あ、これは間違ったな……。

 失点は直ぐに取り返すべきだな。


「悪かった。言い方を間違えた。俺は金の使い方を間違いたくないんだ。そしてアイシスの治療に金を使うのが最高の選択だと思っている。これに使わないと間違いなく後悔するんだよ。アイシスに言ったよな。俺はアイシスの笑顔が見たいんだ。ただそれだけなんだ。だからアイシスが俺に悪いと思って暗い顔をされると意味が無いんだ。ごめんじゃなく、ありがとうって言って欲しい。駄目かな?」


「なんで……」


 うん? アイシスの声が擦れて聞き取れなかった。


「なんでそんなに優しいのよ。トキには感謝してもしきれないの。どうすればトキがしてくれた事にお返しができるのかわからない」


「何を言っているんだ? もう既にお返しはもらっているよ。アイシスは自分の価値がわかっていないな」


「私の価値?」


「俺にとってアイシスは神からいただいた最高の贈り物なんだよ。横で笑っていてくれるだけで幸せを感じさせてくれる天使だな」


 クスっと笑うアイシス。


「天使なんて随分夢見がちなことを言うのね」


「夢見がちで結構だね。誰にも迷惑をかけてないしさ。ただしこの天使は食い意地を(つかさど)る神に(つか)えているのが玉に(きず)なんだけどな」


 そして俺はこの天使を満足させる為に夕食の準備を始めた。

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