信じる心と疑う心
「ねぇ、忠告ってどういう事? 厳三さんの言葉にトキが忠告ありがとうって返してたわよね?」
「あぁ、あれは反対だった曙家と暁家が急に賛成に回ったのは裏があるかもって事かな?」
「賛成とか反対とか何を話し合っていたの?」
「そこからだよね。アイシスには言ってなかったもんな」
俺はアイシスに不知夜国の独任制の移行と剣魔の儀の場でその統治者を決める事、そして櫻麻家と宵闇家、曙家、有明家の因縁の決着を付ける事を説明した。
「そんな事になっていたんだ……。でも合議制から独任制に移行なんて思い切った事をやるのね」
「これは遅きに失した感は拭えないけど、やらないよりマシかな。自国の利益、領土、勢力の拡大を国是としているソレイユ帝国と隣接しているのに決定が遅くなる合議制は致命的だよ。拙速は巧遅に勝るさ」
「私はソレイユ帝国の皇女として、何か謝った方が良いのかしら?」
「ハハハ、ソレイユ帝国の国是だからしょうがないよね。櫻麻剛毅が斬られた時も【血雪の夜】で丈儀が死んだ時もソレイユ帝国の外圧が関わっているから」
「それにしても他国の剣魔の儀で不知夜国の独任制の統治者を決めるなんてどうなの?」
「他国の皇太子を決める儀式だもんね。でもその皇太子になる人と共に剣魔の儀を勝ち抜く事になるからね。その皇太子が皇帝に即位したら既に仲良くなれているのだから合理的ではあるよ」
「確かにそうね。それでその改革に大反対した暁家と慎重派だった曙家が急に賛成に回ったのが何かあるって事ね」
「そうだな。ちょっと剣神大社に寄って行こうか。今の番付表が欲しいかな」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
剣神大社の社務所の一角で剣士番付を確認する事ができる。
その場所に入ると厳かな空間に剣士番付壱位から阡位まで、全員の名前が壁に張り出されている。
「壮観ねぇ……。壁一面に大きく張り出されているわ」
正面の壁には番付壱位から拾位が、右の壁には拾壱位から佰位、左の壁には佰壱位から阡位の名前が掲示されていた。
「番付が上になると名前の文字が大きくなるのね」
「アイシス、番付表を購入したから帰るよ」
「へぇ、そんな冊子もあるんだ! 私も欲しい!」
「不知夜国の土産の一つだからね。もう一つ買うからこれはアイシスにあげるよ」
俺が剣士番付表の冊子を渡すと目をキラキラして読み出すアイシス。
「凄いわ! 上位30名には経歴も書いてあるじゃない。剣士番付愛好家には必須の冊子だわ!」
「なんだよ、剣士番付愛好家って……」
「ソレイユ帝国では結構いるのよ。そりゃそうよね。皇太子を決める剣魔の儀で歴代の勝ち抜いた陣営の殆どが不知夜国の剣士がいるんですもの。その剣士の里の実力を表す剣士番付が人気になるのは必然だわ」
「それでアイシスは剣士番付愛好家なの?」
「私はまだまだよ。だって剣魔の儀の参加登録をしてから剣士番付を知って剣士番付を調べたんだから」
「そうなんだ。でも普通は参加登録をする前にいろいろ調べない? 過去の剣魔の儀の結果を調べれば不知夜国の剣士が多数参加しているのが確認できるよね? 剣魔の儀を勝ち抜こうとしたら例外を除いて不知夜国の剣士はほぼ必須だろ? そうしたら剣士番付に行き着くはずだよ」
「言われなくてもわかっているわよ……。でも参加登録をした時は今考えるとギリギリの精神状態だった思う。衝動的だったと言われても反論できないわ。それにいざとなったら剣士なんて私の魔術で何とかなると思ったし……。それでも結果的にトキを雇えたから良いじゃない。剣士の実力は未知数だけど……」
最悪剣士がいなくても自分の魔術だけで剣魔の儀を勝ち抜こうとしていたのか……。
確かに剣魔の儀の方式を考えれば理論的には一人で勝ち抜くことは可能だ。しかしそんな自殺行為は誰も考えもしないしやらない。
剣魔の儀に参加登録した時のアイシスは本当に精神的に追い詰められていたんだろうな。
それにしてもやはりアイシスは俺の剣士の実力を信じきれていないか……。鍛錬しか見せてないもんな。信じきれてなくとも剣魔の儀には影響しないだろうが、漢としてはどうしても少し悲しさを覚える。
「何だよ、アイシスは俺の剣士の実力を疑っているのか? 他の人なら別に気にしないけど、愛しのアイシスに疑われるのは悲しいよ」
はっとした表情を見せるアイシス。見る見る顔が曇っていく。
「そうじゃないわ。信じているの。私の未来は全てトキに賭けたわ。既に身も心も捧げている……。トキの事は信じているの。でも私が私自身を信じられないでいる……。トキみたいな素敵な人が私を選んでくれた事が信じられない。夢を見ているのか? こんな上手い話なんてあり得ない。騙されているかも? もしかしてトキは嘘をついている?? そんな不安が拭い切れないの……。結局、自分に自信が無いのよね」
ポロポロと涙を溢すアイシス。
どんなに鍛練しようと、これに勝てる漢はいない。そして愛する女性を泣かせた時点で負けが確定している。
「どうすればアイシスの不安を拭えるかな?」
「ごめんなさい、もう大丈夫だから……。これは私の心の弱さだからトキは気にしないで。疑ったらキリがないもの。そしてトキの剣術の実力を疑ってごめんなさい。私は間違いなく最高の剣士を雇ったわ」
自分に言い聞かせるようなアイシスの言葉が俺の心を締め付けた。
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