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櫻麻トキ  作者: 葉暮銀


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断ち切った過去と断ち切りたい過去

「【血雪の夜】の後、銀次の主導で体制が変わった。櫻麻家は廃家、有明家を新しく六大家に迎え入れる。今回の騒動の責任を取って銀次は六大家の筆頭当主を降りる。そしてソレイユ帝国のジャベル皇帝と友誼が深い有明泰山を筆頭当主にする。丈儀が死んで自動的に剣士番付壱位の剣聖となった泰山。それにもともと剣魔の儀を勝ち抜いたのは泰山だった。それ程反対も無くこの提案は通った。宵闇家当主の厳三さんは終始無言だったそうだよ」


「ねぇ、廃家って御家取り潰しと違うの?」


 普通に考えればおかしな話だよな。


「あぁ、これはある種の詭弁でね。過去に廃家した家が再興した事例があったんだ。だから廃家しても再興する可能性があると泰山が母上に説明するための処置だ」


「ふーん。それにしても厳三さんは良く納得したわね。絶対納得しそうもないと感じるんだけど」


「これは不穏な空気を感じていた丈儀が事前に厳三さんに頼んでいたそうだよ。どんな事があっても国を割るような事はしないでくれって。そうしないと国が滅びるって。丈儀は本当に不知夜国を愛していたみたいだ。まぁこれは後から厳三さんに聞いた話だけどね」


「でも丈儀さんの罪ってどうせ濡れ衣なんでしょ?」


「おそらくそうだろうな。でもそれは証明できなかったみたいだよ。でも薄々誰もが気付いているんだ。だから皆んな後ろめたさを感じているんだよ」


「淡々と話していたけど、トキは銀次を恨んでいないの? 銀次が全て企んだ事じゃない」


「俺が生まれる前の話だよ。証拠もないしね。それに先代の曙家当主は銀次の父親だ。その父親が丈儀に殺されているからね」


「でも先代の曙家当主は悪い事をしていたんだからしょうがなくない?」


「でも銀次にとっては優しい父親だったみたいだよ。銀次の立場では最愛の父親を殺されて、尚且つ曙家の力を削がれたんだ。復讐したいと思うのが普通だと思うよ」


「本当に他人事(ひとごと)みたいに話すわね。銀次のせいで櫻麻家が酷い状態に陥ったのに。それに丈儀さんは厳格だったかもしれないけど悪い事をしてないんじゃないの」


 頬を膨らますアイシス。指で突きたくなるなぁ。


「悪い事かどうかは立場によって変わるんじゃないかな。丈儀の粛正のやり方は褒められたものじゃないしね。その後の取り締まりもそうだ。父親の剛毅の時代に不正が蔓延(はびこ)ってしまっていたから、丈儀は厳しく対応をしたんだろうけど、やり過ぎだったんだろうね。水清ければ魚棲まず。魚は汚水の中では生きられないし、綺麗過ぎても生きられない。人間も同じだよ。中庸(ちゅうよう)が大切だと思う」


「それじゃトキは銀次に復讐しないの? まるで銀次の擁護をしているように聞こえるわ」


 随分、銀次に固執するな……。やはり銀次の外見は女性には生理的に受け付けないのか?


「当然泰山をブった斬った後に血祭りにするつもりだったよ」


「だった?」


「泰山が死んで母上が後を追った。母上の喪に服している間に全てが虚しくなってね。ヤル気が全く出なかったんだ。このソファに(うず)もれているだけだったよ。酷いもんでね。小便をしたいと思ってから御手洗いに行くまで四半日(6時間)くらいかかるんだ。どうにも動けないんだよね。さすがに漏らすとその後の掃除が大変だから限界が来たら動くんだけどね」


 アイシスは悲しそうな顔を見せる。


「せめて銀次だけでも殺そうかと思ったんだけど、どうにも身体を動かす気がしなかった。その内どうでも良くなったんだ。あんな狒々爺(ひひじじい)は斬る価値もないように感じてきたんだ。今は自分が生まれる前の家同士の因縁なんてもうどうでも良いよ。俺は全ての恨みを有明泰山に凝縮させてたんだ。そうでもしないと泰山を殺す事はできないと思ったからね。でもその恨みはただの嫉妬だったって先日気が付いたけどさ。これで話は終わりだ。随分長くなったけど【血雪の夜】については理解できたかな? いろんな思惑が入り乱れているからごちゃごちゃするよね」


「トキは完全に過去として気持ちの整理が済んで、現在と切り離しているのね……。それに今日までの話を聞いて、改めてトキが櫻麻家を再興してくれた事に感謝したわ。本当にありがとう」


「それじゃそろそろ寝ようか。もしよければアイシスの話も聞きたいな。話したくなければ別に良いけどね」


「……トキのようにまだそのような過去になっていないのよね。否応なく今の心情に直結してしまうの。そしてそれが未来に繋がっていくわ。思い出したく無い記憶ばかりだし……。ごめんなさい」


「気にするな。その思い出したく記憶を断ち切る為にアイシスは剣魔の儀に参加するんだろ?」


「確かにそうね……」


 アイシスの眼からは一筋の涙が溢れた。


 俺はアイシスの溢れた涙を親指で(ぬぐ)った。そして改めてアイシスのために剣魔の儀を勝ち抜く決意を胸に刻んだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 アイシスは当たり前のように俺のベッドで眠りについた。

 肌を合わせてからアイシスが俺との触れ合いを必要以上に求めてくる。

 それはとても嬉しいことなのだが、やはりアイシスの生い立ちが関係しているのか?

 アイシスは六歳から母親と引き離されている。背中の傷から想像するに、母親から引き離されてから虐待されていたと思われる。いや過去形じゃなく現在進行形か……。


 幼児を思わせるような過度な甘え方。それにはどうしても(いびつ)さを感じてしまう。アイシスの(あや)うさなんだろう。


 果たして虐待された相手に平常心は保てるのか? 虐待され続けると相手に対して屈服した思いを持つはずだ。心の傷を背負ったまま、剣魔の儀を勝ち抜く事ができるのだろうか?


 アイシスは俺の寝間着の端を握りしめて幸せそうな顔をして眠っている。


 雪月さんが心痛や心労、そして心の傷は皮膚症状に良くないって言っていたな。

 それなら思う存分アイシスの求めに応えよう。それがアイシスの心の罅に何かを埋めてくれるかもしれない。


 俺は寝ているアイシスを抱き締めて眠りについた。

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