語り継がれる壮絶な最期
「有明家は曙家に連なる家のため六大家の筆頭当主は曙銀次になった。これまで筆頭当主の代わりを担っていた櫻麻家は政治的権力を弱めたんだ。時を同じくしてソレイユ帝国でも権力が変化した。剣魔の儀が終わると正式な皇太子が誕生する。この時はジャベル・ソレイユが皇太子として認められた。そして段階的に皇帝から皇太子に権力の移譲を開始するんだ。この時の皇帝であるガイル・ソレイユは数年前から病に侵されており、権力の移譲は普通ではあり得ない速度で進められた。皇太子になったジャベルは以前から叔父のライルの意向で不知夜国を攻められないのが納得いかなかった。ジャベルに権力の移譲が進むに連れ、ジャベルは不知夜国を侵略する意志を明確にしていく。既にライルはソレイユ帝国における権力を殆ど剥ぎ取られていた。ライルにできる事はソレイユ帝国の情勢を丈儀に手紙で知らせる事くらいしかできなかった。そしてジャベルが皇太子になって半年後に皇帝であるガイル・ソレイユが崩御し、ジャベルが新しい皇帝として即位した」
アイシスが身体の向きを変え、抱き合うような形になった。
そして俺の顔を見て微笑む。
少し焦ってしまったが平静を装い話を続ける。
「この時、不知夜国には二人の美姫が存在していた。櫻麻静香と深更弓月の二人だ。俺の母上とアイシスのお母さんだね。ジャベルが皇帝に即位して数ヶ月後に不知夜国にソレイユ帝国から使者が唐突に来訪したんだ。そして使者は高圧的な態度で深更弓月をジャベルに献上するように要求してきた。当然ながら不知夜国は反発する。しかしこの要求を呑まないとソレイユ帝国と戦争になるのは明白だった。もうこの時にはソレイユ帝国は不知夜国の侵略の意図を隠そうともしていなかった」
「お母さんはこの時には既に物扱いだったんだね……」
美人過ぎると不幸になる典型例だよな……。
俺はアイシスの頭を優しく撫でてから話を続けた。
「六大家の幹部会では意見が真っ二つに分かれた。櫻麻家と宵闇家はソレイユ帝国の要求を突っ撥ねて戦争を辞さない闘争路線。東雲家と深更家は態度を示さなかった。暁家と曙家はソレイユ帝国の要求を呑んでの和平路線。そして会議の行く末を決定付けたのは曙銀次の発言だった。『外交を一手に担ってきた曙家を信じてくれ。絶対和平を勝ち取ってくる。新皇帝のジャベル・ソレイユは曙家の助力があって剣魔の儀を勝ち抜けたんだ。ジャベルと有明泰山には戦友と言っても良い絆がある』。幹部会はこの言葉を信じる事にしたんだ。そしてそれは上手くいった」
たぶん初めからジャベル・ソレイユと曙銀次に仕組まれていたんだろうな。
その後の状況と結果を見ればそう考えるのが合理的だよ……。
「取り敢えずの平穏を取り戻した不知夜国だったが、心穏やかでいられない人物がいた。それが有明泰山だ。泰山は今まで何度も櫻麻家に静との婚姻を申し出ていた。丈儀は母上を溺愛していたようだし、親交の深い宵闇家に嫁がせるつもりだったみたいだ。そのため泰山の申し出を丈儀は全く取り合わなかった。ソレイユ帝国の皇帝のジャベル・ソレイユは唐突に深更弓月を献上するように言ってきた。もし櫻麻静の美貌を耳にしたなら、また献上するように言ってくるかもしれない。気が気じゃ無くなった泰山は暴挙に出る。それが【血雪の夜】だよ。泰山は義父である銀次に相談したんだ。そして銀次はある計画を泰山に授ける。櫻麻家の鏖だ。母上をどうしても手に入れたい泰山はその計画を遂行した。ここで銀次は今まで醸成させていた丈儀への恐怖と不満を発芽させたんだ。銀次は丈儀がソレイユ帝国の皇帝の叔父であるライル・ソレイユと通じていて不知夜国を売るつもりであるって喧伝したんだ。また合わせて丈儀の不正の証拠を大量に出してきた。大勢の不知夜国の民が櫻麻家とそれに連なる家を襲撃を始めた。ここ櫻麻邸も例外じゃなかった」
俺の腕の中で震えるアイシス。
「丈儀は剣術番付壱位の剣聖だ。そして櫻麻剣術は対不知夜国の剣士で特化している。丈儀は襲撃者を次から次へと斬り捨てていった。しかし多勢に無勢は如何ともしがたい。櫻麻家の人達は一人又一人と殺されていく。そしていつしか丈儀と静二人だけになる。いつまでも抵抗を止めない丈儀。死体の山が築かれていく。囲まれた状態で身動きが取りにくい上に死体の山が動きの邪魔をする。気がつくと静を人質に取られていた。丈儀を囲んでいた一人であった泰山は丈儀に抵抗を止めるように叫ぶ。動きを止めた丈儀は泰山を見て高笑いを上げ、周囲をゆっくりと見渡す。そして何かしらの言葉を発し、自分の首を斬り落とすんだ」
「自分で自分の首を斬ったの?」
「そうだ。語り継がれる壮絶な最期だよな……」
「何かしらの言葉って?」
「それを聞いた人は大勢いたけど、誰もそれを話さないんだよ。呪いの言葉だったんじゃないかと推測されているんだ」
きっとこの言葉が丈儀の恐怖が未だに続いている理由なんだろうな……。
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