古の魔術師
シャー!
静寂を破る音と共に闇を消し去る光りを感じる。
昨晩の行為で身体が重い。今朝は諦めよう。
「トキ! 朝だよ! 今日も頑張って鍛錬するよ!」
ぼやけた頭だが何とか衝撃に耐える心構えができた。
しかしいつまで経っても衝撃がこない。
チュッ。
「先に庭に出てるわね。はやく来てね」
俺は吃驚して勢い良く身体を起こした。
唇に残る柔らかな感触……。
俺は身体に漲る全能感に酔いながらベッドから抜け出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ねぇ、一昨日の魔術の鍛錬法なんだけど……。あれって本当なの? 冗談を言っているわけではないの?」
一昨日? あぁ、俺の魔術の鍛練か。確かにアレは胡散臭いよな……。俺も駄目元でやったくらいだし。
「本当だよ。アイシスは古の魔術師は知っているよね」
「古の魔術師ってあの御伽噺に出てくる魔術師?」
「そうだ。その魔術師。どうやら実在しているみたいなんだ」
「それは無茶苦茶よ。だってあの魔術師は不老だったり、規格外の魔術を操るのよ。確かに絶世の美女の剣士が奥様なのよね。古の魔術師はいろいろな御伽噺に出てくるけど、有名なのは竜退治の物語ね。竜なんて空想上の生物じゃない。流石にあり得ないわ。その他には滅んだはずのハイエルフの王族を従わせていたお話もあったわね。完全にただの作り話だわ」
「普通はそう思うよね。俺もそう思った。だけど櫻麻家剣術奥義書の中に魔術奥義書が一冊あったと言ったよね。その魔術奥義書を書き記した人が古の魔術師に出会ったって書き遺しているんだ」
「そんな与太話は信じられないわ。公衆便所の落書き並みに信じられない」
公衆便所って……。アイシスって本当にソレイユ帝国の皇女なのか?
「まぁ、古の魔術師が存在するかどうかは眉唾もんだよね。でも大事なのは魔術奥義書には古の魔術師から魔力制御を上げる鍛練方法を教わったと記してあるんだ。その鍛練方法もね」
「そんな与太話が元の鍛練方法が実際に有効とは思えないわ。トキはそれを信じたの?」
「魔力制御が上達すれば、魔術の質が上がるよね。試してみるのはそんなに手間じゃないから」
「それが裸になるって事なの?」
「魔力制御の上達方法は魔力探知の訓練にあると書かれている」
「魔力探知なんて何にも役に立たないわよ。30〜50mくらいしか探知できないじゃない。それなら視認したほうが早いわ」
「通常の魔力探知はそうだよね。でも古の魔術師の魔力探知の有効距離は都市一つを丸々飲み込むほどだったそうだよ。子供から鍛錬すると有効距離が300mほどにはなるみたい。大人から初めても150〜180mくらいみたいだね」
「それでもその程度なら鍛錬する必要が無いと思うけど……」
「魔力探知の有効距離を伸ばすのが目的じゃないよ。魔力探知の鍛錬はあくまでも手段。目的は魔力制御の上達だ。そして魔力探知の鍛錬方法は魔力探知を何度も何度も実施するだけ。ただ自分の魔力を周囲に伸ばしていくだけ。できるだけ魔力を広く、薄くね」
「そうなのね。でもそれと裸はなんの関係があるの?」
「俺もやってみて実感してるけど、魔力探知の鍛錬では五感から入ってくる情報を管理した方が効率が良いんだよ。触覚がとても大切だ。嗅覚と聴覚はそれなりに。味覚はあまり関係ない。視覚はとても邪魔なんだ。視覚って情報がたくさん入るから、それに頼ってしまうんだよね。だから眼を閉じて視覚を排除する。あとは触覚を鋭敏にするだけさ。服を着ていると触覚から服を着ているという情報が脳に伝達する。裸になるのはそれを排除する方法だ。また肌を多く露出したほうが感覚が鋭敏になるんだ。それが魔力探知の感覚に良い影響を与える」
「その結果が全裸での瞑想になるのね。それで本当にその鍛練で魔力制御が上がるの?」
「間違いないね。一日一時間、三ヶ月も続ければ違いが実感できるさ。魔力測定器もあるから測ってみれば良いんじゃない? 魔術精度が目に見えて上がり、魔術威力も上がると思うよ」
「そうなんだ」
そう言ってアイシスは徐ろに服を脱ぎ始めた。
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