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櫻麻トキ  作者: 葉暮銀


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餌に食い付く月読さん

 アイシスは椅子に座っていた。俺を見るなり非難の声を上げる。


「酷いじゃない。いきなり医者にかかるとは思わなかったわ。あまり背中を人に見せたくないのよ。嫌な事を思い出してしまうから」


「それは悪かった。それでも治療するには診察を受けないとどうにもならないだろ?」


「治らないのに診察を受けてどうするの? ソレイユ帝国の帝室の医者がわたしの背中には匙を投げたわよ。ソレイユ帝国最高峰の医者が治らないって言っているんだから諦めてるわ」


「おいおい治るぞ。東雲家を甘くみるなよ。治療期間は三ヶ月が目安だってよ」


「どうせ(ぬか)喜びになるわよ……。ソレイユ帝国より辺境の不知夜国の医療の方が優れているはずがないわ」


 辺境とはなかなか手厳しい評価だな。これじゃ治療をさせてくれないかもしれない。


「わかった。なら騙されたと思って俺に付き合ってくれ。アイシスの身体は俺への対価にするんだろ。それなら、その対価の価値を上げるように俺が努力しても良いだろ?」


「……物好きね。まぁトキには命を助けてもらっているし、ご飯と寝る場所まで用意してもらっているから頭が上がらないわ。良いわよ。トキが気の済むまで付き合ってあげる」


 よし! これで治療が開始できるな。まずは第一段階を超えたところだが、大きな一歩だ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「嫌じゃ! 何度頼んでも嫌じゃ!」


 月読さんの声が響く。


「そんなに駄々捏ねないでくださいよ。もう遊んであげないですからね」


「うぐっ……。それは困るが嫌なもんは嫌じゃ! それに昨日トキはアイシクルアローを見せてくれなかったもん」


 もんと言われてもなぁ。でもやっとエサに食い付いたな。


「それなら俺がアイシクルアローを見せたら月読さんはアイシスに魔術を教えてくれますか?」


「そんな事を言ってもどうせ見せてくれないのだろ? 本当に見せてくれるならアイシスに教えるのもやぶさかではないのじゃ」


 引っかかった! よし! ここからは勢いが大切だ!


「確かに言質を取りましたからね。後で約束を反故にしないでくださいね」


 そう言って俺は丁度良いところにある切り株にアイシクルアローを放つ。


静謐(せいひつ)なる氷、悠久(ゆうきゅう)の身を矢にして貫け、アイシクルアロー!】


 昨日と同じように具現化された30本の氷の矢が高速で切り株に向かう。


 ドカッ! ドドド! ドカ! ドドドド!


 次々と氷の矢が切り株を貫き、土煙りが舞い、大音響が辺りに轟いた。

 切り株があった場所には多数な氷の矢が突き刺さっていた。


 拍子も昨日と同じだな。それにしても魔術の調子が本当に良いわ。


「さぁ、これで良いですか? これでアイシスに魔術を教えていただけますね」


「なんじゃこのアイシクルアローは……。こんな魔術をトキが放てるはずがない。どんな仕掛けがあるのじゃ?」


「仕掛けなんて何もないですよ。強いてあげれば俺の師匠が素晴らしいからじゃないですか?」


「そんな言葉には騙されんのじゃ! 教えろ! どういう事だ!」


「月読さん、悪いけどそこまでは約束していませんよ。じゃ、あとはよろしくお願いしますね。俺は雪月さんとお茶でも飲んで待っていますから」


 俺は地団駄を踏む月読さんにアイシスを預けて東雲邸の母屋に戻った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「もう、大変だったんだから。あれから月読さんはずっとトキの魔術について聞いてくるの。私が見たアイシクルアローも同じだったか?とか、他にもトキの魔術を見てないのか?とか。凄い迫力だったわ」


「まぁ適当に流しておいて。それより月読さんは魔術を教えてくれたのかな?」


「そこはしっかりと教えてくれたわ。私は呪文の文言を理解してないって……。もっと文言の理解を深めなさいって。そうしないと真の詠唱はできないと言われた……」


 さすが月読さんの指摘は適切だよな。まさにその通りだ。


「でも意味がわからないわ。呪文なんて唱えれば魔術なんて発動するでしょ? 文言の理解と言われても……」


 ここで俺がアイシスに助言してもアイシスの成長に繋がらない。自分で答えを見つけないとな。


「月読さんは素晴らしい指導者なのは間違いないよ」


 俺はそれだけを言って口を(つぐ)む。

 アイシスは俺の気持ちを感じてくれたようだ。しばらくしてアイシスは思案を始める。アイシスは櫻麻邸までブツブツ言いながら歩いていた。

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