月の光に……
深夜に廊下に気配を感じた。
ぼやけた頭でベッドを抜け出しドアを開ける。
そこには真剣な顔をしたアイシスがいた。
アイシスを部屋に招き入れ、水差しからグラスに水を入れ、喉を潤した。
「どうした? こんな夜遅くに。何かあったか?」
「ごめんなさい。いろいろ考えていたら眠れなくなって……。それにトキとしっかりと契約して無かったし」
契約?
あぁ、そういえば出会った時にアイシスは自分に雇われてくれる人に心当たりは無いと聞いてきたな。
「別にそんな話は明日でも良くないか? 今日は寝た方が良いよ。明日の朝も鍛錬するんだろ?」
「そういうわけにはいかないの。今まで雇ってきた人達は私が剣魔の儀を勝ち抜けたら皇太子になると思っていた。皇太子になったらその恩恵を与えるって話していたの。でもトキには剣魔の儀を勝ち抜いても皇太子にならないって言ってしまったから私には支払える対価が無いの」
あぁ、そんな事を気にしていたか。別に良いのに。真剣な顔をしていたから拍子抜けしたな。
「昨日、トキと部屋で話してからトキの雰囲気が変わったわ。自惚れかもしれないけれど、トキから私に対して好意を感じるの……。それに視線も私を女性として見ている。お風呂上がりの私を見るトキの視線で確信したの」
おぅ……。あの姿は計算だったのか……。道理で凶悪過ぎたわけだ……。ぐうの音も出ないわ……。
俺が焦ってどう弁明するか頭が混乱している間にもアイシスは話を続ける。
「それで私が提示できる対価を見てもらおうと思って……。ただ、それが本当に価値があるのか自信が無くて……」
そう言って部屋の灯りを消すアイシス。暗闇になったが直ぐにアイシスがカーテンを開けた。
今日は満月か……。
月明かりが暗い部屋を照らす。透き通る白い肌のアイシスが月明かりの翠色に染まっている。
これは月の女神だな……。
この姿だけで俺にとっては充分な対価だよ。
アイシスに見惚れていると、アイシスの指がシャツの釦に手がかかった。
釦が外される毎に柔肌が露わになる。全ての釦が外され、その隙間から小さなお臍や柔らかそうな胸の谷間が視線に飛び込んでくた。
動揺しているうちに状況が急変していく。アイシスを静止させる声がどうしても出ない。視線を逸らそうとするが、意志に反して身体が動かない。
俺は瞬きすら忘れてアイシスを凝視していた。
シャツの前釦を外してアイシスは固まっていた。恥ずかしそうな顔が月明かりに照らされている。
その表情に俺の理性が破壊されそうになった。俺の欲情が爆発する寸前、アイシスの表情が固くなる。
くるりと背を向けるアイシス。そしてシャツを脱いだ。
「ごめんね。こんな身体でもトキの対価になるかな?」
一瞬視界が赤く染まった。気がつくと俺は意味を持たない怒声を上げていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
いったい誰がこんな酷いことを! 絶対許さない! これは冒涜だ! 何で俺はアイシスを止めなかった! 悔やんでも悔やみきれない!
頭がグチャグチャになっている。
暫くして俺の激しい呼吸音だけが部屋に響いていた。
俺は足元に落ちているシャツを拾い、震えているアイシスの背中にかけた。
「悪かったアイシス……。辛かっただろう。俺は止めれたのに止めなかった……」
「別に良いわよ。私の意志でやった事だから。それより私の身体はトキの対価になるかな?」
「当たり前だろ。過分の対価だよ。それより誰にやられたんだ。必ず八つ裂きにしてやるよ」
軽く微笑み口を開くアイシス。
「ソレイユ帝国第一皇子レオ・ソレイユとその母親のギアンナ・ソレイユよ」
その名前を明らかにするアイシスは闇い眼をしていた。
俺には月明かりに照らされるアイシスの顔がとても印象的だった……。
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