春屋の団子
深更邸を辞去した後は剣神大社に寄って剣士登録をしてきた。
昨日、自分の過去と向き合い過去の想いを整理できていたため、【櫻麻トキ】と問題なく記入ができた。
少しだけ心の奥が疼いていたが……。
それでも剣神大社の参道を抜けた辺りでは、 心が軽くなり万能感に包まれた。ついつい大量の団子を購入してしまった。
まぁアイシスを預かってくれた東雲家のお土産になるだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「どういう事だ! トキ! 説明しろ!」
東雲家に着くなり月読さんが俺に飛び掛かってきた。
肩を掴まれ、勢いよく身体を前後に振られる。
「ちょっと危ないですよ。団子を落としてしまいます」
「団子? おぉ! 春屋の団子じゃないか! 早く食べようぞ!」
「はいはい、家の人にお渡ししますので用意してもらいましょう。それより何の騒ぎです? いきなり身体を揺すらないでくださいよ」
「そうじゃ! 団子で忘れるところだったわ! トキ! お前のアイシクルアローを我に見せろ!」
「えっ、嫌ですよ。俺は魔術士じゃ無く剣士ですから。それに魔術はもう卒業しました」
「師匠に黙って卒業できるわけがないだろ! いいからアイシクルアローを見せろ!」
「だから嫌ですって。それよりどうしてです? 見せませんけど、理由を聞かせてください」
「結局見せてくれんのか!? 先程そこの大馬鹿にアイシクルアローを見せてやったら我のアイシクルアローよりトキのアイシクルアローの方が凄いって言うのじゃ! そんな馬鹿な事があるわけがないのじゃ!」
あぁなるほど……。そういうことか。
「月読さん、大馬鹿の言う事を真に受けてどうするんですか。俺のアイシクルアローが月読さんより凄いわけが無いですよ。魔術のイロハのイを知らない奴の言う事なんて忘れて団子を食べましょう」
「なっ、」
俺は口を開こうとするアイシスをキツく睨んだ。
「さぁ行きましょう。やっぱり団子は春屋ですよねぇ。餡子に胡麻に御手洗と一通り買ってきましたよ。変わり種で新作の豆打もあります」
「おぉ! 黄緑色の餡じゃないか! どんな味がするのか楽しみじゃ!」
取り敢えず誤魔化せたな。あとでアイシスにはキツく言っておかないと。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
東雲邸から櫻麻邸までは無言で歩いた。自分でも意外だったが、結構イライラしていたようだ。
俺は帰宅するなり、アイシスに説明を求める。
「まずは経緯を教えてもらおうか。そうじゃないと判断ができないからな」
少し不服そうなアイシス。可愛い顔だが、駄目なものは駄目だ。
「トキと別れてから月読さんに魔術を教わりに行ったの。でも教えてもらえなくて……。しょうがないから自己鍛錬を始めたの。朝にトキから見せてもらった魔術を思い出しながらアイシクルアローを放っていたわ。そしたら月読さんが私のアイシクルアローを見て大笑いを始めて……」
俺は無言のまま先を促す。
「私なりに我慢したのよ。それで月読さんはトキのお師匠さんだから、トキより凄いアイシクルアローを放てると思って見せてくれるように頼んだの。初めは断られたんだけど、持ち上げて、持ち上げて、持ち上げ捲ったら、一度だけと言って見せてくれたのよ」
容易に想像できる状態だな……。
「そうしたら今朝見たトキのアイシクルアローの方が断然凄かったのよ。それでトキの方が凄かったって呟いちゃったの」
俺は大きく溜め息をついた。
「だって月読さんにはずっと馬鹿にされているし、我慢していた物が溢れちゃって……」
「アイシス、今朝の話は覚えているかい? そして覚えているだけじゃ意味がない。月読さんに俺のアイシクルアローの情報を流しちゃ駄目だろ」
「そんな事言っても、トキのアイシクルアローの方が月読さんより凄いと思わなくて……」
「今回だけは許す。もう今後は細心の注意をしてくれよ。例えば今のアイシスのアイシクルアローなら他人に見せても問題は無い。不知夜国の剣士には脅威にならないからさ。しかし今後アイシスのアイシクルアローが変わったのなら見せては駄目なんだ。対策を取られる可能性が出てしまう」
「油断させておけって事ね」
「そうだ。相手に与える情報が間違っていれば、それはそれで使いようがある。そして切り札はどれだけあっても困らない」
「もしかしてだけど、トキが私にアイシクルアローを見せてくれたのは私が思うよりもトキに取っては特別な事だったの?」
「何を言っているんだ? 当たり前だろ? アイシスだから見せたんだ。だから大盤振る舞いって言っただろ」
「そっか……。私だから見せたんだ……」
なんかニマニマし始めたアイシス。
理解したのかな?
「もう剣魔の儀は始まっていると思って気を引き締めてくれよ」
「わかってるわよ」
何故か声が弾んでいるアイシスに一抹の不安を感じずにはいられなかった……。
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