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櫻麻トキ  作者: 葉暮銀


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宵闇邸にて

 今日はアイシスとは別行動だ。

 アイシスは東雲家の月読さんに魔術を教わりたいと希望した。

 俺も一人で済ませたい用事があったため、アイシスを東雲邸で預かってもらえれば渡りに船だった。


 東雲邸に出向き、当主の雪月さんにアイシスをお願いする。(こころよ)く承諾してくれた雪月さんには感謝しかない。


 どれ、少し遅くなってしまったが挨拶にいくか。

 気が進まないが俺は宵闇邸に足を向けた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「よく来た! トキ! 待っておったぞ!」


 俺の顔を見るなり、肩を強く叩く宵闇家当主の宵闇厳三。

 さすがに苦笑いになってしまった。


 客間に通され、お茶を出した使用人が退出したところで改めて挨拶をする。


「先日は櫻麻家の再興の口添えをしていただきありがとうございました」


「そんな事は当たり前だ。静殿の最期の頼みだからな……。櫻麻家が再興してこれで静殿も黄泉の国で安心しておられるだろう」


 左上に視線を動かし、遠い目をする厳三さん。

 厳三さんにも櫻麻家再興に想うところがあるのだろうな。


「それでいつ奴等を誅殺する? 銀次だけはこの手で叩き斬らんと気が済まん!」


 テーブルを右拳で叩く厳三さん。

 お茶が溢れてしまったよ。


「できれば関係の無い民の血が流れない方法が良いのだが……。ただしトキが納得できないのならその限りではないがな」


 そう言いながら厳三さんは書類の束をテーブルに出してくる。

 テーブルに広げられた書類を手に取り、軽く目を通す。


【有明家・曙家の両家を排除後の不知夜国の統治の在り方】

【各六大家の戦力比と想定される勝敗】

【革命後のソレイユ帝国の動向予測】等々


 まだまだあるよ……。ヤル気満々だなぁ。

 こんな書類が見つかったら国家転覆罪で死刑だぞ。

 しかしこんな(しがらみ)御免(ごめん)(こうむ)りたい。


「その件で厳三さんが勘違いされると思いまして今日は来させていただきました」


「どういう意味だ?」


 ギロリと睨まれ、股間の玉がシュンとなる。さすが現在の剣士番付壱位(一位)の剣聖だけはあるな。歴戦練磨の剣士の威圧感を感じる。

 ちなみに厳三さんは不知夜国の国軍の元帥でもある。


「先日、有明邸の大広間で言ったとおりですね。櫻麻家を再興させたのは、あくまでアイシス・ソレイユの命を守るためです。それだけが理由なんです」


「あんなのは戯言だろう? あれは櫻麻家の再興を認めさせるための方便じゃないのか? あんな話は温室育ちのお坊ちゃんしか信じてないぞ? 皆んな櫻麻家の再興には裏があると思っておる。銀次のところの曙家は既に臨戦態勢だぞ」


 温室育ちのお坊ちゃんって海斗の事か。手厳しいな。一応、六大家の筆頭当主なのに。

 でも今回はその温室育ちのお坊ちゃんが正解なんだよ。


「方便ではありません。言葉の意味そのままです。有明家や曙家を排除するための大義名分にされても困ります。やるならこちらに関係無くやってください」


「それでは何で櫻麻家に伝わる漆黒の羽織を羽織った。それに丈儀の着物と袴。おまけに髪を全て後ろに撫で上げていたではないか。本当に若き頃の丈儀に瓜二つだったぞ。あれはどうみても丈儀に成り代わり復讐するという意思表示だろ? 他家にしてみればトキからの宣戦布告だ」


「考え過ぎですよ。あれは祖父の威光を借りたかっただけです。アイシス・ソレイユに危害を加えようとしたら(ただ)じゃ済まないぞって意味ですよ」


「それが本当に本心なのか? 丈儀の無念、静殿の無念、【陥穽(かんせい)の夜】で散った者の無念、それを晴らさないのか?」


「悪いですけど、【陥穽(かんせい)の夜】でも【血雪の夜】でも俺にはどうでも良い事です。俺が生まれる前の因縁を持ち出されても迷惑なんですよ」


「ふざけるな! 丈儀がどのような想いで生きてきたのか! そしてどのような想いで死んでいったのか! それを理解せずして櫻麻家の漆黒の羽織を羽織ったのか! 許さんぞ! 表へ出ろ! 叩き斬ってくれるわ!」


 激昂する厳三さんを横目に俺はテーブルに乗っている書類をひとつ手にした。


「これは面白そうな内容ですね。【不知夜国の統治方法の考察】ですか。ソレイユ帝国の脅威に対抗する為には、今の六大家の合議制では迅速に対応できない。国難にあたっては独任制にするべきである。正にそうですね」


「何が言いたい。辞世の言葉くらいは聞いてやる」


 激昂していたが、一瞬のうちに冷静さを取り戻している。さすが軍の元帥だけはあるな。


「厳三さん、もう終わりにしませんか? 櫻麻家、宵闇家、曙家、有明家の因縁は断ち切りましょう。裏でコソコソやるからいつまでも陰湿になるんですよ。公衆の面前で盛大に決着をつけましょう。ちょうど今年の秋にソレイユ帝国で剣魔の儀があるじゃないですか。不知夜国の剣士ならば剣で語りましょう。勝った家が筆頭当主では無く、そのまま不知火国を率いていけば良いでしょう」


「本気なのか? トキは剣士登録もしてないではないか。初めから勝つ気がないのか?」


「どのように思ってもらっても構いません。ただ上が死んで自動的に剣聖になった剣士には負ける気がしませんけどね」


 俺の言葉に目を丸くする厳三。そして破顔大笑(はがんたいしょう)する。


「面白い! 面白いぞ、トキ! 良くぞ()かしたら! お主はやっぱり丈儀の血を色濃く継いでおるわ! その言葉が大言壮語(たいげんそうご)で無いことを祈るぞ! 愉快、愉快だ! よし、明日の六大家の幹部会にて合議制から独任制に変更する事を提案しよう。また因縁の決着は剣魔の儀でつけるとな。確かに剣士の里である不知夜国の者なら断れない提案だ」


「よろしくお願いいたします。それではこの辺で失礼させていただきます」


「あぁ、面白い話をしてくれて、こちらこそお礼を言う。トキ、これより宵闇家は櫻麻家の敵だ。それでは剣魔の儀で会おうぞ。途中で負けるでないぞ」


 俺は頭を一つ下げて宵闇家を後にした。

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