頭を掠める邪な考え
「それより昨日話してくれた魔術を躱す独特の歩法の弱点を教えてよ。自慢のアイシクルアローをトキに躱されたのが本当に悔しくて悔しくて、あまり眠れなかったんだから」
「あれ? 魔術は月読さんに教わるんじゃないの? 俺はそのつもりだったんだけど……」
「月読さんにも教わる予定だけど、トキも教えてくれれば良いじゃない。トキは月読さんの一番弟子なんでしょ。フレイヤ師匠も月読さんの弟子。そして私はフレイヤ師匠の弟子。同門なんだから面倒みなさいよ」
胸を張って命令口調のアイシス。
つい強調された小振りな胸に目がいってしまう。
アイシスへの恋心を自覚してからは、アイシスを完全に女性として見てしまっている。
「なぜに教わる方が上からなんだよ……。でも良いの? 俺の魔術鍛錬はちょっと特殊なんだけど……」
「何よ、出し惜しみして。特殊って事は特別って事でしょ。別に問題はないわ」
まぁこちらもちょっと恥ずかしいが役得と思おうか。
「俺は魔術の基本を月読さんに教わったけど、10歳からは独自に鍛錬をしてたんだ。櫻麻家剣術奥義書の中に魔術奥義書が一冊あってね。そこには魔術の鍛錬方法が載っていたんだ。本当は門外不出なんだけど、剣術でなく魔術だからアイシスに教えても良いかな。最初に言っておくけど、決して俺に不純な気持ちは無いからな」
そしてキョトンした顔をしたアイシスに俺は言い放った。
「まずは裸になってくれ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【静謐なる氷、悠久の身を矢にして貫け、アイシクルアロー!】
氷の矢が高速で俺に向けて飛来する。
アイシスは咄嗟に魔術を放つ時はアイシクルアローなんだな。使い慣れた得意の魔法だろう。
俺は氷の矢をあっさりと躱す。
【火の変化、千変万化たる身を礫にして穿て、ファイアボール!】
なるほど、火の魔術もお手の物か。
俺は火の球を難なく躱す。
【火の変化、千変万化たる身を槍にして貫け、ファイアランス!】
火の上級魔術ときたもんだ。やるねぇ。
俺は火の槍を苦も無く躱す。
アイシスの顔が無表情だ。これは相当怒っている?
「この魔術だけは人には使いたくなかったけどしょうがないわね。まだ未完成だけど関係ないわ。トキ、精々死なないように努力しなさい!」
【疾走する颯、無慈悲に斬り裂く刃となれ、ストームブレード!】
おぉ! 風属性の発展系の颯属性のストームブレード! こりゃ珍しい魔術だ。
不可視の風の刃が俺を襲う。
しかし俺は鼻歌混じりで風の刃を躱す。
「そ、そんな……。なんで見えない風の刃を躱せるのよ……」
ストームブレードは自信があった魔術だったんだろうな。
確かに不可視の風の刃は普通は避けにくい。
「そんなに怒るなよ。別に巫山戯て言ったわけじゃないんだ」
眼尻に涙を溜めてキッと俺を睨むアイシス。
「何が巫山戯てないよ! 魔術の鍛錬でどうして裸になる必要性があるのよ! 貴方の性的嗜好を満たすのが目的でしょ!」
あらら……。やっぱり役得なんて頭を掠めたのが失敗だったか。
上手くいけばアイシスの裸を鑑賞できると邪な考えを持っちゃいけなかったな。
信頼を作るのには時間がかかるが、幻滅されるのは一瞬だ。幻滅されてから信頼を作ろうとしても、余計に時間がかかるよな……。
それでも好きな女の子の裸が見れる可能性があるのならばそれに賭けるのは漢の性だ。例えそれが極僅かの可能性であったとしても。
しかし幻滅されたままでは駄目だ。致命傷になる。傷は浅くしとかないとな。危機管理は大切だ。失点は直ぐに返すに限る。
俺は徐に服を脱ぎ上半身裸になった。
「な、何してるのよ! トキは露出狂なの!?」
「人を変態扱いしないでくれよ。魔術の鍛錬方法の説明だよ。本当は全裸でやった方が効率が良いんだけど、これでもアイシスに気遣っているんだ」
俺は芝生の上で坐禅を組み瞑想を開始する。
息をゆっくりと吸い、ゆっくりと吐く。その呼吸の拍子に丹田にある魔力と連動させる。
同調したところでその魔力を周囲に伸ばしていく。広く、広く、薄く、薄く。
覚醒していた意識がゆっくりと沈んでいく……。
鳥の囀りが聞こえる。そして肌を晒している箇所に春風を感じる。春の早朝の冷んやりとした空気。その中に朝日の温かさが混じっている。
一年ぶりの魔術の鍛錬だが、世界は綺麗なんだな……。
気が付くと俺は涙を溢していた。
続きを読みたい方、面白かった方は下の星評価とブックマークをお願いいたします。星をいただけると励みになります。





