櫻麻トキの力量
シャー!
昨日と同じように静寂を破る音と共に闇を消し去る光りを感じる。
「トキ! 朝だよ! 起きる時間よ! 鍛錬するわよ!」
俺は野生動物を狩る猟師のように息を殺して時期を窺う。
ここだっ!
俺は掛け布団を跳ね除け、寝ている俺に全体重をかけて飛び乗ろうとしているアイシスの身体を捕まえて体を入れ替える。
「毎日俺がやられるとは思うなよ?」
吃驚した顔のアイシスが見える。そしてその顔がみるみる赤くなっていく。
あ、顔が近い……。
体を入れ替えたせいで、アイシスの上に俺が身体を預けている体勢になっていた。両手でアイシスの肩を組み伏せ、おまけに朝で元気になっている股間がアイシスの太腿に当たっている。そして鼻腔に甘いアイシスの香りを感じる。
まるで俺がアイシスを襲っているようだ。
慌てて身体を起こし離れたが、微妙な空気は如何ともし難かった。
それにしても女性って華奢で柔らかいんだな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「何か私勘違いしてたかなって思ったんだど……」
動きやすい服装に着替えて裏庭に出たところでアイシスが話し出した。
「勘違いって?」
「もしかしてだけど、トキって強い? 櫻麻家剣術を復活させているんでしょ? それに魔術も……。私は昨日東雲邸に行った時にトキは月読さんの遊び相手だって思っていたの。でもトキは10歳まで月読さんに魔術を教わっていたって昨晩言ってたから……」
「どうかな、強いか弱いかは結局は相対的なものだからね」
「そんな概念的な話をしているんじゃないわよ! 知りたいのはトキはどのくらい魔術ができるの? それにもし剣士番付に挑戦したらトキはどのくらいまで行く自信があるの?」
「アイシス、悪いけど自分の力量を他人に知られるのは自殺行為だ。それが味方であってもだよ。命を懸けた真剣勝負の場では僅かな隙が致命傷に変わる時がある」
ぷーっと頬を膨らますアイシス。
なんだこの可愛い生き物は……。
「トキの言いたい事は理解できるけど、私とトキは仲間よ! 背中を預ける仲間の力量を把握しとくのは当たり前でしょ! そうしないと良い連携ができないわ!」
なるほど、一理ある。いやこれが真理か?
歴代の櫻麻当主は単独行動を好んできた。その為、櫻麻家の剣術は一対一や一対多に特化している。だからこそ自分の力量や技術が相手に知られていない方が有利に働く。
そして味方にも自分の力量を知らせないのは、味方が裏切る場合を想定している。
しかし多対多の場合は違うか。仲間の力量を知らなければ確かに最適な行動ができないな。
つまりは俺がアイシスを信頼できるかどうかか……。
しかし信頼しても無駄な場合もある。
例えばアイシスが敵の勢力に捕まり、拷問されて俺の剣術や技術を話す可能性もある。この時、アイシスが何も知らなければ話す内容が無い。しかし知っていると話す可能性が生じてしまう。
さてどうするか……。
女性の期待になんでも応えたいのが漢の性。
しかし自分の主義に反する事をするのは、信念を曲げる事になる。
俺の脳内で漢の性と信念が天秤にかけられた。
天秤は呆気なく傾いた。
そりゃそうだ。漢の性に勝る物などあるはずが無い。
「わかったよ。魔術に関しては東雲月読の一番弟子として恥ずかしく無いくらいの力量はある」
俺の言葉に息が詰まるアイシス。
「そして剣術の方だが、自信など必要でない」
「どういう意味よ? 私が聞いたのはトキが剣士番付に挑戦したらどのくらいまで行く自信があるのかって事よ」
俺は足元にある落ち葉を指差した。
「アイシスはそこの落ち葉を拾える自信があるか?」
「何を馬鹿な事を言っているの? こんなの自信なんて関係なく拾えるわよ」
そう言って簡単に落ち葉を拾うアイシス。
「そういう事だよ。俺に取っては剣士番付一位の称号である剣聖になるのは、アイシスが落ち葉を拾うようなもんだ。自信なんてまったく必要がない」
絶句するアイシス。
そして疑いの眼を俺に向ける。
「随分と大きく出たわね。魔術はフレイヤ師匠の師匠である東雲月読さんの一番弟子に恥じない実力、剣術は剣士番付の一位にあっさりなる実力って……。さすがにそれは信じられないわ。そんなのまるでソレイユ帝国初代皇帝じゃない。トキは自分が伝説の剣魔帝に匹敵する実力があるって言うの?」
ソレイユ帝国初代皇帝は圧倒的な武力で建国した伝説の人物で、剣術、魔術ともに並ぶものがいない程優れていて剣魔帝と呼ばれていた人物だ。
「別に信じてもらえなくても良いよ。俺はただアイシスに聞かれたから答えただけだ。それに不知夜男児は口ではなく行動で示すのが矜持なんだよ。こんな話は本当はしたくないんだよね」
いまいち納得がいかない顔のアイシスだったが諦めたようだ。
続きを読みたい方、面白かった方は下の星評価とブックマークをお願いいたします。星をいただけると励みになります。





