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櫻麻トキ  作者: 葉暮銀


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櫻麻家剣術奥義書

 帰宅後、俺はアイシスに断って自室に篭った。

 改めて自分の心と向き合う為に。


 カーテンを閉め、部屋を暗くする。ベッドに仰向けに寝て天井を見ながら思考を開始した。


 剣神大社では記憶が勝手に浮かんできたが、今は自ら思い出したくない記憶を浮かび上げる。


 俺は10歳の時に剣士登録をしなかった決断をした時を思い返した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 櫻麻トキで剣士登録をしなかった俺を母上は許さなかった。毎日のように俺に怒鳴り声を上げるようになる。

 俺は全くの無反応でそれを流した。


 俺は母上に構っている余裕がなかった。

 本能的に負けを認めた泰山を排除しないと()として終わりと感じていた。


 不遇な環境、身寄りは母上のみ、腫れ物扱い。これは全て有明泰山が元凶だ。

 そして最愛の母上さえ泰山に取られてしまっている。


 必ずこの手で泰山を殺す。当時の剣術番付一位、剣聖の称号を持つ有明泰山。父を殺す事のみに邁進すると誓った。


 それを考えると俺が剣士登録をしなかったのも好都合だった。剣士登録もしてない奴に剣士番付一位の剣聖が負けるとなると恥以外の何物でもない。


 10歳までは剣術は近くの道場で教わり、魔術は(ゆえ)あって東雲家の月読さんに教わっていた。

 ただ10歳になってからは一人で鍛錬をするようになった。

 剣術道場でこのまま、剣術を習ったとしても泰山に勝てるとは思えない。たとえ魔術で泰山に勝ったとしても、それは逃げに感じたからだ。


 来る日も来る日も黙々と一人で剣術の鍛錬を続けた。

 泰山の剣術は何度も見ている。それを想像して頭の中で戦うが一度も勝てない。当たり前の話だが。

 まるで暗闇の中を我武者羅に走っているだけに感じる。これを続けて本当に泰山に勝てるのか? 弱気を飲み込み、不安から目を逸らし、ただ刀を振るった。

 しかしそんな一人での鍛錬を始めて半年ほど経った時に一筋の光明が差す。

 剣神大社の宮司(ぐうじ)から面会の要請があったのだ。


 俺は宮司に10歳を過ぎたのに剣士登録をしていない事を叱責されると思った。

 しかし剣神大社で俺を待っていたのは叱責ではなく櫻麻家の歴史の結晶だった。


 櫻麻家は罪人を取り締まる家のため、不知夜国の民を仮想敵に設定している。言い換えれば櫻麻家は他の家の剣術を凌駕する事を目指している。

 敵に自分の手の内を晒すのは愚か者の行為だ。その為、櫻麻家の剣術は門外不出である。


 【血雪の夜】で櫻麻家とそれに連なる家の者は母上を残して全て殺された。母上は剣術の才能に恵まれておらず、櫻麻家の剣術は初歩的な事しか理解してなかった。

 母上は剣術番付で三級剣士にもなれなかった。剣士としては味噌っカスだ。

 その為、櫻麻家の剣術は途絶えたと思われていた。俺もそれを疑っていなかった。


 剣神大社の宮司が俺の目の前に出してきたのは、十冊ほどの古ぼけた書物。

 初めはそれが何かわからなかったが、一番上に乗っている書物の表紙の文字を見て固まった。


【櫻麻家剣術奥義書・壱】


 俺は我が目を疑った。なんでこんな書物が剣神大社にある!? 櫻麻家の剣術は門外不出のはず……。そしてこれは本物なのだろうか?


 宮司は俺の疑念を時間をかけて丁寧に晴らしてくれた。

 櫻麻家は罪人を取り締まる家のため、どうしても他家から恨みを買いやすい。【血雪の夜】のような不測の事態に備え、櫻麻家剣術の奥義を書物として残し、政治的に不可侵な剣神大社に預けていた。

 もし櫻麻家の血筋が途絶えたのなら、預けた櫻麻家剣術奥義書は剣神大社の判断で好きに扱う。しかし櫻麻家の血筋が残っているのならば、奥義書をその者に渡す約定を櫻麻家と剣神大社は交わしていた。


 俺が剣士登録をしたら渡すつもりでいた宮司だったが、いつまで経っても俺が来ない。終いには俺が剣士登録をしないと言っていると耳にする。

 慌てて俺を呼び寄せたそうだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺はそれから奥義書を読み込んだ。書物だけで櫻麻家剣術を復活させるのには難儀した。一つの技が三か月かけても再現不能な事は(ざら)にあった。

 それでもこの書物が剣聖である父に勝つ唯一の希望と信じ込んだ。


 櫻麻家剣術の復活を志してから三年が経ったころに変化が訪れる。

 想像した泰山に(ごく)()れにだが勝てるようになった。

 奥義書の理解もある一定を過ぎた頃に加速度的に進んだ。壁を破った感じがした。

 四年が過ぎる頃には仮想の泰山に二割ほど勝てるようになり、櫻麻家剣術の復活も形になってきた。

 五年が過ぎた時には仮想泰山戦の勝率が六割ほどになった。あとは技を磨いていくだけだ。


 16歳になる頃、そろそろ有明泰山に血闘を申し込む事を考え始めた。

 血闘とは剣術番付を決める一対一の戦いである。通常は剣術番付の順位が低い者が上位の者に血闘を申し込む。しかし泰山は番付一位の剣聖。多数の有象無象から血闘を申し込まれても全てを受け付けられない。

 その為、番付が20位違う下位の者が血闘を申し込む場合、それなりの対価が必要になる。

 50位以上離れると全てを対価として差し出す必要がある。全てとは全財産と命である。負けた場合は人生の終焉だ。

 50位以上離れて剣聖に血闘を申し込むのは自殺願望がある者だろう。ましてやそれが剣士登録もしていない若造だったら笑われるだろう。

 しかしその若造が剣聖に勝ったならば……。


 そんな事を考えていたある日、凶報が不知夜国を駆け巡った。


 有明泰山が毒殺されたと……。

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