月神の御子
駄々を捏ねる月読さんを引き剥がし東雲邸を後にする。
現在は剣神大社に向かっているが、アイシスはずっと俯いて歩いていた。
まぁ精神的な動揺はあるよな。魔術はアイシスに取って最も重要な精神的な拠り所だろう。その土台が揺れ動いているのだから。立ち直るまで最低でも数日かかるかもな。
無理矢理立ち直らせても無理が生じる。心が疲弊するからな。アイシスが自ら立ち直るまでそっとしておくか。
「なぜ……」
うん? 何か言ったか?
「なぜトキは私の魔術を躱せたの? まるですり抜けたように感じたわ」
マジか! コイツ! もう立ち直っている!? 自信があった拠り所の魔術。その自信を木端微塵にされたのに、もうその原因を考えている。
アイシスの眼は闇い眼をしていた。しかしやはり眼の底に力強い光が見える。
これがアイシス。だからこそ俺はアイシスの行く末をこの眼で見たい。
俺は心が浮き立つのを感じながらアイシスに返答した。
「ちょっとだけ話したよね。不知夜国は魔術後進国ではないと。歴史があって剣術に特化したって」
頷くアイシス。
「櫻麻家は法の番人、又は断罪の刃と称されている家なんだ。戦闘民族である不知夜国の中でも特に戦闘に特化した家だった。そうならないと罪人を取り締まれないからね。そして櫻麻家は独特の歩法を編み出したんだ」
「独特の歩法?」
「魔術には一定の拍子がある。ソレイユ帝国風にいえばリズムかな。その拍子の裏を取るだけで魔術は簡単に躱せるのさ。ただし、ある程度の才能は必要だけどね」
「簡単って、そんな……」
「まぁその歩法のおかげで櫻麻家に魔術は通用しなくなったんだ。それで他の家は櫻麻家に対抗する為に剣術に特化したのさ。魔術でダメなら剣術しかないってな」
「その独特の歩法は櫻麻家の人しか使えないの? それなら問題無いわ。櫻麻家はトキしかいないのだから」
「残念ながら、この歩法が編み出されて相当な時間が経っているよ。他の家の者も情報は収集するからね。先程の芸当は剣士番付の100位以内の剣豪以上だったら誰でもできるかな」
「それじゃ、私には不知夜国の剣士には勝てないって事?」
「普通ならそう考えるよね。だから櫻麻家以外の家は剣術に特化したんだから。しかしこの歩法を編み出した櫻麻家は違う。この歩法の弱点も理解しているよ。それを理解できればアイシスの魔術も不知夜国の剣士に通用する」
俺の言葉を受けて、アイシスの眼の奥の光は強さを増した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「東雲月読って人の事を教えてよ。本当にあの幼児がフレイヤ師匠の師匠なの?」
「本当さ。それに幼児ではないよ。東雲家当主の雪月さんの祖母の妹、つまりは大叔母にあたる。歳は100歳を優に超えているはず」
「そんな馬鹿な話は信じられないわ。どう見ても六歳児くらいでしょ」
「不知夜国では極稀に老いが極端に遅く、何年も生きる人が生まれるんだ。月神の御子って呼ばれてね。月神の御子は総じて魔力が高いんだ」
「月神の御子って本当に実在していたの!? あれは御伽噺でしょ!」
「月神の御子は魔力が高いから外国の勢力に狙われやすいんだ。月神の御子が一人いれば戦争の時に戦況を大きく変える事ができるからね。不知夜国では月神の御子が生まれたら東雲家で保護される。まぁ月神の御子の殆どは東雲家の家の者だけどね。月神の御子は特に東雲家から生まれやすいんだ。そして東雲家は星見と諜報を司る家だ」
「星見って占いよね。そんな物を国が管理しているの?」
「東雲家の星見は巷の胡散臭い占いとは全くの別物だよ。不知夜国の行く末を握っているといっても過言じゃないな。そして星見には莫大な魔力が必要なんだ」
「月神の御子に星見をしてもらうのね。そしてその月神の御子が月読さん」
「その通りだね。そして月読さんは魔術師としても超一流だ。圧倒的な魔力と長い経験があるから当たり前だけどね」
「なるほど、フレイヤ師匠が師事するだけはあるってことね」
急に黙り込むアイシス。そして唐突に大声を上げる。
「私決めた! 月読さんにも魔術を教えてもらうわ!」
うーん。たぶん無理だよな……。月読さんは基本的に面倒臭がる人だ。フレイヤですら月読さんには魔術は教わってないもんなぁ。
でも折角のヤル気を削ぐ必要もないよな。
「どうだろうな。まぁ駄目元で頼んでみたら」
「明日、東雲邸に行ってお願いしてみるわ!」
凄いヤル気になっているアイシスに一抹の不安を感じてしまった。
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