3話 商店街の中の戦争〜福引きという名の仁義なき戦い〜
「ついにこの時が来たか…………」
俺は手に持った神露町商店街の福引き券を数えながら呟く。
「おお、この辺りの峠に屯する、暴走族崩れの走り屋連中を討伐するのだな!?あやつら、毎日毎日タバコとかのゴミをポイ捨てして自然を汚しおって……絶対悪たる我が、あの半端者どもに真の悪を見せつけてくれるわ!!!」
「一人で行け。誰がいつそんな話をした?福引きだよ福引き」
惑楽葉のなんとも世紀末で物騒な発言をスルーしつつ、この日の為に集めた福引き券を手元で扇状に広げながら、商店街の福引きのチラシを全員に見せた。
1等 北海道グルメ旅行ツアー招待券
2等 超豪華松阪牛すき焼きセット
3等 『QuOhカード(←ギフトカードや商品券の代表格とも言えるカード)』2万円分と商店街で使える商品券3万円分
4等 神露町名物 銘菓『九尾饅頭』一箱
その他副賞に洗剤詰め合わせとか色々。
「ふむ、北海道グルメ旅行は別にいらないけど、2等のすき焼きセットと3等辺りは狙い目ですね。旦那様、ご指示を。何人か呪って運気を奪いましょう」
「馬鹿野郎!!!」
ヘヤァーーーーーー!!!モウヤメルンダ!!!
その辺にあったチラシを素早く棒状に丸めて、ツッコミがてら長門の頭に一撃。
ふと、惑楽葉の方を見ると、呆然とした様子で押し黙っていた。
「我が従僕…………、一緒に来ないのか…………!?」
惑楽葉は酷く驚いた様子で絞り出すようにそう呟いた。
その様子すらもなんとも可愛い(←だが男だ。)が、美少女度が天元突破してる(←だが男だ。)が、今は暴走族退治よりも福引きの方が大事だ。
「そういう訳だ。すまんな」
「…………アホーーーーーー!!!こうなったら我一人でも暴走族を成敗してやるーーーーーーー!!!!」
惑楽葉は機嫌を損ねて一人でアパートを飛び出していった。
先程まで黙っていたミオリが冷たい視線を向けてくる。
「今のは、惑楽葉に対して冷たすぎるんじゃないかな?」
「う………………おっしゃる通りです…………」
反論の余地もない。
惑楽葉が帰って来たらしっかり謝ろう。そして可能ならばすき焼きセットで出迎えてやりたい。
「よし、すぐに出発だ。惑楽葉の為にもすき焼きセット、それが無理なら3等当てるぞ!!!」
「結局、やる事は変わらないんだね……」
ミオリは苦笑しながらも長門と共に俺について来た。
そうして、三人で商店街へと赴く。
▷▷▷
福引き会場には既に行列ができていて、地元の主婦やご老人が集まっていた。特に主婦の方々は明らかに目がギラギラしていて圧が凄い。
我先に群がり、行列出来上がり。
主婦の皆様方も、既に獲物を狙う猛獣のような目だ。
その中で俺は自分の番が回ってくるのをじっと待ち続ける。
今の時点までで当たりはまだ出ていない。少しずつ列は進んで、やがて俺達の番になった。
「礼明、どうしても当てたい?」
ミオリが俺にそう尋ねる。
「当然」
「わかった。なら、ボクに任せて。1等は次の人に譲るね?」
ミオリはそう言って、何かに祈るような素振りを見せた。
待て、ミオリは今、何と言った?『1等は次の人に譲る』と言ったのか?
俺が集めた福引き券は3回分。ミオリが抽選器のハンドルを回すと——、
1回目 2等
2回目 3等
3回目 ハズレ
辺りがざわめく。なにせ、たった3回のチャンスで2等と3等を連続で当てたのだから。
神がかり的な幸運、いや、神の作為としか言いようがない程の偶然を装った必然。そのように俺は感じた。
俺達は景品を受け取った後に、福引き会場を去る。
その後ろで、次の人が1等を当てて喜ぶ声が聞こえた。
「ミオリ、お前……あの時どんな細工したんだ?」
帰り道、俺は彼女にそう尋ねてみた。
「ボクの権能だよ。元はどういう力なのかはわからないけど、ちょっとした幸運を引き寄せる程度の事ならいくらでもできるんだ」
「惑楽葉が帰って来たら、ちゃんと謝りなよ?」
ミオリは景品の入った袋を俺に押し付けて、笑顔でそう言った——。
▷▷▷
惑楽葉side
夜、峠に屯する暴走族の連中が最も活発になる時間。
我は本来の姿である黒く巨大な狼に変化し、峠を駆け抜け暴走族どもの車を後ろから猛追する——。
〜暴走族視点〜
「ヒャッハーーーーー!!!今夜も疾走るぜェ!!!俺達は誰にも止められねェーーーー!!!」
いつも通り、最高の気分で愛車をブン回す。すると、後ろから何かが迫ってくるのがバックミラー越しに見えた。
「アニキ!?後ろから、でっけえ犬……いや、アレは狼だ!!!」
助手席の舎弟の叫びに思わず背筋が凍りつく。バカな…………
バカでけえ狼が、あろうことかこの車にピッタリ張り付いて追ってくるなんて…………
一緒に走ってた他のダチもみんなパニック状態だ。
「く……、来るなら来い!!!直線でブッチギる!!!」
この世の物とは思えない光景にビビりながらも、俺は後ろから猛追してくる狼を振り切るべくさらにスピードを上げる。
しかし、距離は開くどころか逆に縮まっているように感じる。いや、気のせいじゃあない。
そんなバカな…………!?時速120キロは出てるんだぞ!?
「うわァーーーーー!?アニキ、今度は変なババアがこの車に並走してやがるゥーーーーー!!!」
「「うわァァァァァァァァァァァーーーーーー!!!!」」
俺はビビってブレーキを踏んだ。そこから先の事は全く覚えていない。そして、気がついた時には朝になっていた。
俺達は、二度とこの峠に近付かない事を心に誓った。
〜暴走族視点 終〜
暴走族の車が急ブレーキをかけて減速する。乗っている輩どもは既に気絶しているらしい。
これだけ脅かしてやれば二度とこの峠には来ないだろう。もうこやつらには興味はない。
今の我の興味は既に、先程まで暴走族の車と並走していた老婆に移っている。
我が従僕から聞いた事がある。
妖怪120キロババア…………現代の都市伝説で語られる妖怪であり、ことスピードに関しては他の追随を許さないと言われている。
120キロババアがこちらを見て、ニヤリと笑った。
「ヒョッヒョッヒョッ…………ついてこられるか?」
その瞬間、我の頭の中で何かがキレた。
「ついてこられるか…………だと?貴様が我について来るが良い!!!!!」
もはや言葉など不要。我はただ、駆け抜けるだけの事——。
惑楽葉side 終
▷▷▷
「惑楽葉の奴、遅いな……」
長門と一緒にすき焼きの準備をしながら時計を見る。
まさか惑楽葉の奴、暴走族の連中に何かされて——、
「フハハハハ!!!我が従僕、ただいま帰ったぞ!!!!」
——なかった!?無事だったわ…………まぁ当然か。
そして、惑楽葉は何故か知らないばーさん連れて来た。
「我が友にも晩飯を振る舞いたいのだが構わんな?」
「…………誰その人…………?」
「ヒョッヒョッヒョッ…………儂は、妖怪120キロババアと呼ばれておる者じゃ」
なんで暴走族退治に行ったら妖怪120キロババアと友達になって帰ってくるんだよ?
もはや訳がわからない。
「別にいいんじゃないかな?ご飯はみんなで食べた方が美味しいから」
ミオリがそう言うのなら、仕方ないか——。それはひとまず置いといて、
「惑楽葉、昼間は冷たくして悪かった」
俺は頭を下げながら、惑楽葉に謝る。
「???」
惑楽葉の奴、全く覚えていなかった!?
そして、惑楽葉の興味はもうすき焼きの方に移ったようだ。
まぁいいか。元はと言えば惑楽葉の為にすき焼きを用意しようと思ってたんだから。
その日食べた深夜のすき焼きは、惑楽葉的に言うなら『最高に悪』な味がした。
妖怪120キロババアvs惑楽葉の限界突破☆最速対決…………
勝手に戦え!!!




