26話 第二次百鬼夜行編〜武神素戔嗚〜
瘴気の闇に閉ざされた高天原を、長門の探知能力によって得たマッピング情報をもとに迷わず進む。
ミオリと思われる反応はまだまだ先、そして当然、月詠の反応もミオリの近くにある。
間違いなく罠だが、どのみち月詠は倒すつもりだったから何の問題もない。
よし、このまま一気に——、
『そうはい神埼……ってなァ!!!』
「ッ!?」
——瘴気の暗闇の中から、ほぼ不意討ちで振りかざされた刃を呪怨領域の探知で把握して、脊髄反射で霊力を纏わせた左手を構えて首を守る。
——あーーーーぶねぇ…………昔、とある事情から晴華とガチバトルした時に斬撃への耐性を身につけてなければ死んでいたし、ガードが間に合わなくても力技で首を叩き落とされるところだった……下手したらゆっくり礼明になるところだったぞどうしてくれる。
恐ろしく速く重い一撃、しかも瞬間移動や気配遮断とかの小細工無しで、シンプルに速いだけの、意識外からの強襲。
それをたった一歩の踏み込みで、呪怨領域の影響で霊力が制限されている状況下で、純粋にフィジカルのみで不意討ちしてきやがった。
今のではっきりわかった、コイツは権能とか能力以前に、戦士としての格が違いすぎる——。
「礼明!?無事か?」
『おお!?今のを防いだか!!それでこそ我の敵としてふさわしい!!我が名は素戔嗚!!それで、どちらが先に我と戦うのだ?』
先程まで俺の後ろに控えていた師匠が、慌てて駆け寄ってくる。その一方で、つい先程、堂々と不意討ちかましてきた目の前の神は何やら上機嫌のようだ。
——で、何言ってんだ?コイツ……
『我にはわかる!!どちらも相当な実力者と見た!!2人まとめて排除するのは簡単だが、それではつまらん!!よって、どちらか一方だけ先に進ませてやろう。兄貴からの命令は侵入者の殲滅だが、1人殺した後で残った方も追いかけて殺せば結果は同じだ!!』
——先程と同じ言葉の繰り返しにはなるが、あえてもう一度言おう。何言ってんだ?コイツ……
いや、ほんとマジのリアルガチに。
「良かろう、ならばこの私が相手だッ!!!」
——師匠も何言ってんの!?
「何考えてんだ馬鹿師匠!!ここは普通、2人で協力して——、」
「見くびるな馬鹿弟子!!!この九重十六夜、最初から負けるつもりも殺されてやるつもりもないわッ!!!貴様の目的は何だッ!!!月詠様を打倒して御織女之神を救う事ではないのかッ!!!」
師匠の言葉に、頭をガツンと殴られたかのように目が覚める。——いや、このままウダウダ悩んでたら本当に殴られてもおかしくないけども——。
今、俺がやるべき事はここであれこれ思い悩む事ではなく、少しでも先に進む事だ。
「師匠、死ぬなよ……」
「誰にものを言っている?十年早いぞ馬鹿弟子。それと……あの約束、忘れるでないぞ?」
『お兄様、それは死亡フラグという物です』と、俺の頭の中でイマジナリー晴華が警告してきたような気がするけどあえて全力スルーで、俺は師匠をその場に残して先に進んだ。
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九重十六夜side
『では……始めようではないか!!』
素戔嗚はそう言い放つやいなや、手にした剣を一振り。
——それだけで辺り一帯の瘴気が斬り払われた。
なるほど……素戔嗚がその気になれば我らなどいつでも殺せたという事か。……全く、気に食わんッ!!!
ではこちらからも挨拶代わりに、その傲慢を——、切除するッ!!!
「空蟲殺砲ッ!!!」
【浸透】の妖眼の力で空気を媒介に、不可視の昆虫型使い魔を生み出して射出し、【透過】の権能と組み合わせる事で、あらゆる防御を透過する弾丸として撃ち放つ。礼明相手には使わなかったとっておきだッ!!!
——いや、だって昆虫型の使い魔がうじゃうじゃ出てくるとか、世間一般的な感想として気持ち悪くないか?まぁ、私は昆虫好きだが。カブトムシとかクワガタとかカッコいいし——。
高速かつ貫通力に優れるカナブン弾と、やや弾速で劣るが殺傷力の高いカブトムシ、クワガタ弾を織り交ぜて弾幕を張る。
『なるほど、昆虫型の使い魔による弾幕か。——だが、見えていればどうという事もない』
今、こやつはなんと言ったのだ?『見えていればどうという事はない』と言ったのか??
その後、素戔嗚は自身の言葉通りに、まるで見えているかのように私の弾幕を剣の腹で受け、弾いた。
迫りくる不可視の弾幕の軌道に合わせて、その都度構えを変えながら確実に剣の腹で受けている。まるで、奴の全身が丸ごと一つの刀剣になったかのようだ。
私の狙いが甘かったかというと決してそんな事はなく、最初から確実に仕留めるつもりで速度の異なる弾幕を織り交ぜつつ、まずは剣を持つ腕、次に脚を狙い機動力を削ぎ、最後に【透過】の権能で奴の体内に使い魔を直接侵入させて経絡もろとも霊核を食い破る算段だったのだが——、
結果は見ての通り、全て捌かれ防がれて素戔嗚は無傷ときたものだ。
そもそも奴には最初からこちらの弾道が見えていたようだし、本来ならば我が空蟲殺砲は防御されても着弾した瞬間に透過して、そのまま体内に侵入する二段構えの筈……
『どうやら貴様のチカラ、我の権能とは相性が悪いらしいな?さぁ、どうする?まさかこれで終わりとは言わぬよな?』
「当然ッ……!!!」
ならばここからは、奴がこちらの間合いに入った時に勝負を決める。
一撃、たった一撃だけでも食らわせる事ができれば充分だ。私はその一撃で臓腑を壊し、経絡を破り、その霊核すら打ち砕こう。
「空蟲殺砲ッ!!!」
直撃らなくても牽制になればそれで良い。私は奴を真っ直ぐ見据えて、再び不可視の弾幕を放つ。
『真っ向勝負か!!面白い!!!』
狙い通り、素戔嗚は私が放った弾幕を捌きながら、愚直にも前進してくる。だが——、誰も最初から真っ向勝負とは言っていない。
『ぬぅ……!?』
自然界の昆虫を観察して編み出した、我が空蟲殺砲の弾幕のバリエーションはまだまだある。具体的には、奴の足元には既に蟻型の使い魔を無数に放ってある。
素戔嗚は一瞬迷った後に蟻を踏み潰しながら前進する事にしたようだが、その隙が命取りだッ!!!私は既に地面を透過して奴の背後を取っている。
「狐染拳打ッ!!!」
我が必殺の一撃、この技を放つ瞬間、私は勝利を確信したが——、
『なるほど、今の一撃、そこに至るまでの策は良い。少し驚かされたが、それだけだ』
——敗北したのは私の方だった。素戔嗚の剣が私の腹部を貫き、鮮血が滴り落ちる。その様子を、私の意識はどこか他人事のように俯瞰していた。
——そうか、私は、負けたのか……
ならばもう、このまま楽になっても…………良い訳がないッ!!!私は確かに礼明と約束したのだッ!!!
——意識が覚醒するとともに、先程まで忘れていた痛みが急激に襲い来る。だが好都合、おかげで意識を手放さずにいられる。
そのまま素戔嗚の腕を掴み、剣が腹部を貫いた状態のまま固定する。
『馬鹿な……!!貴様まだそんな力がッ……!?』
「ここで見過ごせば、貴様は嬉々として礼明を殺しに行くであろうッ!!!たとえ仕留めきれずとも、相討ちくらいには持ち込ませてもらおう!!!奥義、空俐九龍ッ!!!」
龍を模した不可視の使い魔が、素戔嗚の体内に侵入し、経絡を内部から食い破る。だが、少し手加減して殺さない程度に留めておいた。とはいえ、戦士としてはほぼ再起不能に近い状態だが。
『ぐぅ……!!!今のは効いた……だが、何故手加減したのだ?貴様であれば我を殺す事くらい……』
「その経絡の傷、治せる……と言ったらどうする?」
『ッ……!?』
よしよし、これでこやつを交渉のテーブルに着かせる事はできた。
「こう見えても私は霊媒治療が本業でな。私を妖怪の隠れ里まで送り届けてくれればそれで良い。向こうにさえ着けば治療の当てはある。私の治療が済んだら、貴様の経絡も治してやろう」
『もし、断ったら?』
「それは残念だ。私以外にその経絡の傷を治せるとは思わんが、せいぜい頑張ってくれ」
『……わかった。二度と戦えなくなるよりはマシだ、その取り引きに乗ってやろう。そして、貴様の弟子にも手は出さぬ事を約束する』
——ああ、それを聞いて、安心した……
九重十六夜side 終
用語解説
【捕捉】
素戔嗚の権能。自身の視覚を媒介に、そこに存在する対象を捕捉する事により物理的概念的な干渉が可能になる。
空蟲殺砲
昆虫型の不可視の使い魔を弾丸として飛ばす、十六夜師匠の攻撃技。基本的にガード不可で、そもそも見えないので回避も困難。
空俐九龍
空蟲殺砲からの派生技。龍を模した不可視の使い魔を9匹同時に放つ。
設定解説
妖怪は人間とは異なり、肉体的な損傷よりも精神や経絡の傷に弱い傾向がある。(肉体的に致命傷負わせても、実際の死因は痛みによるショック死だったり)
つまり、十六夜師匠が無事だったのは礼明との約束(25話参照)があったからである。




