23話 第二次百鬼夜行編〜作戦決行〜
月白side
作戦決行の前夜、私のもとに一人の来客が訪れた。
「月白様、今回の作戦に関して、一つだけお願いしたい事があります。私を第二次百鬼夜行の前線部隊に……いや——、道満様の足止めに私も協力させてください……!!!」
私の目の前で、経凛々の少女である言葉唯が必死に頭を下げている。
——無理もない。かつての道満の式神でありながらも、一方的に道満に捨てられた彼女にとって、これは永きにわたる未練を晴らすまたとない機会。
思えば、唯と出会ったのは平安の世の事だった。主を失いあてもなく彷徨っていた唯を保護し、夜十の乱や百鬼夜行を乗り越えながらも今日まで仲間として共に生きてきた。
そして今、唯は再び道満の前に立つ事を決意した。
その真意はわからないが、あえて私から何か言うならば——、
「まず最初に言っておきますが、私は復讐を肯定しません。貴方の真意はさておき、今でも道満に未練があるのなら——、不満の一つや二つぶつけてくればよろしいでしょう。己の心に従いなさい、唯」
「……!?はい!!!」
唯は決意を秘めた表情で再度一礼して、その場から立ち去る。そして部屋には私しか居なくなった。
月白side 終
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翌朝、作戦決行の直前になって月白さんは晴華のサポートに新しい式神を連れてきた。
「はじめまして、言葉唯です!!!」
目の前の少女はそう名乗って、能力開示も兼ねた簡単な自己紹介を始めた。
ざっくりまとめると、
·名前は言葉唯。種族は経凛々。
·能力は言霊遊戯。口に出した言葉遊びの内容を現実化する言霊系能力。
·普段は人間社会に紛れて芸人やってる。
——との事。
明らかに最後の情報だけ要らない気がするが、それはさておき——、
「晴華を任せた」
今はとにかく戦力が欲しい。月白さんからの紹介ならある程度は信用できるし、本人からの志願ならば断る理由も無い。
「お任せください!!!」
言葉唯は俺の頼みに快く応じ、その後こちらに一礼して晴華達のもとへと走っていった。
さて、俺達もそろそろ行こうか。高天原へ——。
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晴華side
さて、ここからは私のターン!!!ドロー!!!
第二次百鬼夜行実行部隊は静かに、かつ速やかに伏見城にある陰陽寮本丸を包囲。
陰陽寮所属の警備隊と睨み合いとなり、互いに緊張が高まる中、ついに月白さんが争いの口火を切った。
「我々天生の会は、陰陽寮に宣戦を布告します!!」
「よし来た!!!見ざる言わざる聞かざる!!!」
月白さんの宣戦布告の直後、拡声器を手にした唯さんが言霊遊戯の能力を使用した。
陰陽寮の警備隊の大多数が、視覚と聴覚、発声を封じられてパニックに陥るが、その状況とは裏腹に声を封じられている為に現場は静寂に支配されている。
「ごめんなさい。少し休んでいてください」
そう小さく呟く月白さん。彼女の権能により、視界に映る敵は全て為す術なく地に倒れ伏した。
事前に聞いていた、『体力の略奪』の権能による効果だ。
非殺傷での制圧に特化した月白さんの権能、その力は抗う事すら許さず陰陽寮の兵力を次々と無力化していく。
ここまでの流れは計画通り、私の役目は道満を月白さんから遠ざける事と、陰陽寮の制圧完了まで近付けない事だ。
おそらく、これだけ派手に動けば道満も既に気付いたはず……
「ここはもう大丈夫でしょう、行きましょう唯さん。私達の役割を果たす為に」
「はい。猿が去る!!!」
唯さんは既に制圧した敵にかけた能力を打ち消し、妖怪の姿に変化して私を背に乗せ飛び立った——。
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空から陰陽寮本丸を捜索して、道満を探し出す。奴は天守閣から戦場を俯瞰して、次の一手を考えている。
「月白め……一体どういうつもりだ???」
「貴方がそれを知る必要はありません道満様。——いや、道満……ここから先は一方通行だ!!!」
「多重憑依変生、野火、煙々羅!!!」
私は唯さんの背中から飛び降りた勢いのまま、道満に噴炎を伴う飛び蹴りを敢行する。道満を、伏見城の壁にシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!超、エキサイティン!!!
——という悪ふざけはさておき、蹴り飛ばされた側である道満は壁にめり込みながらもほぼノーダメージといった様子でまだピンピンしていた。
「全く……我は不死だから良いものの、城の修理費用にいくらかかると思っておるのだ……」
「見たところ我が狙いのようだが——、良かろう、場所を変えるぞ。神域結界、天道八咫烏影牢」
瞬く間に、以前見た神域結界——、無数の鳥居と石灯籠と沈まない太陽だけが存在する異界が顕現した。
「憑依変生、八咫烏……」
「多重憑依変生、唯!!」
正直、神域結界まで使われた今の状況で私が勝てるかはわからない。だが、力の限り抗うまでの事——!!!
その時、道満の影が質量を得たかように実体化して分身体が生み出された。分身体はさらなる分身を生み出し、あっという間に圧倒的物量差となる。
——なるほど、八咫烏の『影』の権能……話には聞いた事はありますが、想像以上に厄介ですね。ならば、私も久々に本気を出すとしましょう。
正直、あれを使う事は二度とないと思っていましたが——。
「口寄、神刀『碇丸』」
かつての私の過ちの象徴、碇丸——。私自身が封じた、尽きる事なき怒りを、今再び振るう時!!!
——かつての私は、全てに怒りを抱いていた。
不甲斐ないお兄様に。自分達にできない事を私に押し付け、期待と言う名の呪縛を課す両親に。はたまた、私を縛る安倍家の血筋に。
そんな私だから、碇丸の力に魅入られたのはある意味必然だったのかもしれない。
——しかし、思いのままに怒りを解放し、暴力装置へと変わっていく私を救ってくれたのは他でもないお兄様だった。
私が常に見下していたお兄様こそが、怒りに呑まれていた私を人間として踏み留まらせてくれた。
そのお兄様の力になれるのならば、私は今一度、怒りに身を委ねよう。
『神依抜刀…………』
怒りの感情が、血液のように全身を循環しているような懐かしい感覚……言うなれば精神的にも霊力の面でもアクセルベタ踏みのような状態だ。
——道満、ブチ殺す!!!!
晴華side 終
用語解説
神刀『碇丸』
怒りの感情を糧とする妖刀の類。名前の由来は、船の碇を断ち斬った逸話から。
使用者の怒りの感情に呼応して退魔の力を与える性質を持つ。しかし、怒りの感情が強すぎると使用者自身も力に呑まれて暴力装置へと変貌する。
その力を危険視した安倍晴明により封印されていた。




