19話 見えてるけどわかりづらい地雷(←レガブロック)
九重十六夜side
「『我死して幾星霜の後、大いなる波乱と新たなる時代の幕開けを齎す黎明の使者が現れる』、か…………」
私は、隠れ里を覆う亜空間に投影された、偽りの星空を見上げながら、誰に向けてでもなくそう呟いた。
「礼明…………もしや貴様が、黎明の使者なのか…………???」
なんて、そんな出来すぎた話がある筈がない——、そう考えるのが普通だ。
しかし、礼明が御織女之神を救う為に動きだしてから、現実が少しずつだが確実に、例の予言に引き寄せられているように感じる。
リタ達からの報告内容も、それを如実に裏付けていた。
黒月様が死の間際に放ったあの予言。これが正確には何を意味するのかは、まだ不明だ。
だが、予言が現実になる日は、黎明の使者とやらが現れる日は、もう目前なのかもしれない。
その時が来るまでに、礼明を充分に鍛えておく必要がある。
なぜなら、その黎明の使者とやらが仮に現れたとして、私達の味方とは限らないのだから——。
九重十六夜side 終
▷▷▷
あの修行の翌日——、
「そォらそらそらそらッ!!!逃げ回るだけか礼明ッ!!!」
「クソッ!!!近付けねぇ!!!イテッ!?」
師匠の持つ『浸透』の能力で作られた不可視の飛び道具——、といっても、訓練用の球体(たぶんスーパーボール並みの強度と大きさだと思う)が、俺の額を直撃する。
しかもコレ、たちが悪い事に材料はその辺の空気だから、師匠は半永久的に弾幕ゲー押し付けてくるんだこれが。
うむ、実にクソゲーだ。
そもそも何故、こういう状況になっているかというと——、
(以下回想)
「師匠、修行付けてくれてありがとうございました!!!」
よし、経絡も取り戻したし、必殺技も完成したし、そろそろ里を出て——、
「どこへ行くんだァ??」
「フオォォォォォォォォォォァ!?」
——しかし、回り込まれてしまった!?
「技が一つ完成したぐらいで、修行が終わったとでも思っていたのか?」
えェ…………??(戸惑い)
(回想終了)
みたいな流れになったからだ。
そんなこんなで、まだ里で足止め食らっております。まぁ、わかるけど……師匠の言う事もわかるけど……!!!
にしても師匠、情け容赦ない弾幕だなマジで…………
もうかれこれ30分くらい、全身くまなく見えない飛び道具(スーパーボール的な何か)に打ち据えられている。
というか、師匠は憑依変生する暇すら与えてくれない。
そして当然だが、近付けないから必殺技の『真·泰帝壱戟』も意味をなさない。
立ち止まるのも前に進むのも後退りのようなジリ貧の状況、ここは一度逃げに徹して——、
——と、思ったところで俺の足が何かを踏み抜いた。
「うぐァァァァァァァァァァ!?痛ェェェェェェェェェ!?」
痛みに耐えながら足元を見ると、そこにはプラスチック製の小さなトイブロックが1ピース——。
この時点で一部の勘の良い人は気付いただろう、踏むと痛いアレである。
————レガブロックだ。
「馬鹿弟子がッ!!!!後ろにも目をつけるんだ!!!」
師匠、あんたが犯人だったのか——、なんともたちが悪いトラップを…………
ちょっとイラッとしたから、今からガチで本気出すわ——。
「多重憑依変生!!!!長門、惑楽葉!!!!」
とりあえず初手に呪怨領域からの呪層揺らぎ探知でレーダーは確定で…………、真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす!!!!
「呪怨領域、展開!!!!」
見える……俺にも弾幕が見えるぞ——。
あ!?クソ!!!引き撃ちすんな師匠!!!うぜぇ!!!
『旦那様〜♡ここは私にお任せください!!!呪圧愚!!!』
そうか、その手があったか!!!出力を抑えた長門の呪圧愚なら、重圧で師匠の動きを止められる——!!!!
「ぬぅ!?」
「もらったぁぁぁぁぁぁ!!!!泰帝壱戟、デコピンバージョン!!!」
「甘い!!!」
やっぱり透過か…………そして、再び距離を離して引き撃ちしようって魂胆だろうが——、
『旦那様!?後ろから来ます!!!!」
「!?」
「無駄ァ!!!!」
師匠は荒々しい叫びと共に最速の拳打を繰り出した。
1撃、2撃、3撃、いや、まだ終わらない!?
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!」
クソッ!!!今度は距離を詰められ過ぎて、技を繰り出せねぇ——!?
「フハハハどうしたどうした馬鹿弟子よッ!!!防戦一方かァ??」
悔しいが、師匠の言う通りだ。泰帝壱戟は霊力圧縮の溜め動作がある大技、このように距離を詰められては使えない——。
『我が従僕、我の力を使え。長門はもう一度、重圧を!!!』
『策があるんですね惑楽葉?わかりました、呪圧愚!!!』
「甘いと言っている!!!!」
師匠は重圧から逃れるべく、再び地面を透過しようとする。しかし——、
「この瞬間を待っていたんだーーーー!!!」
ついさっき、惑楽葉から教わったばかりの新技だ!!!
食らえ——。
「狼王の鉄槌!!!!」
右手に疑似重力を纏わせ振り下ろしながら、疑似重力のパワーと共に地面に叩きつける——。(なんとなく、『お手』を思い浮かべたのは惑楽葉には内緒な)
「チィィ!!!!やるな!!!」
師匠は、俺の新技をギリギリで回避したが、無理な体勢で避けたからか、その場でたたらを踏む。
その時、誰も予想していなかった事故が起こった——。
師匠が、バランス崩した拍子に、全体重かけて踏み抜いたんだ。うん、レガブロックを。
「ぐァァァァァァァァ!?痛い痛い痛いィィ!?」
地面を転げ周りながら悶絶する師匠。こうして、師匠相手の初の模擬戦は、非常に不本意な形で俺達の勝利となった。
用語解説
狼王の鉄槌
惑楽葉の力を借りて編み出した、礼明の新しい攻撃技。
疑似重力を腕に纏わせ、振り下ろす動作と共に地面に叩きつけながら敵を押し潰す。
通称、『グラビティお手』
ちなみに、惑楽葉からすれば通常攻撃みたいなもの。




