16話 闇夜のアーバン·パルクール
闇夜の中、推定時速120キロで市街地をパルクールする老婆…………を追いかける黒い大狼と、その狼の背に乗る若者達。
というか俺達の事だが、120キロババアを追いかけている今この瞬間が既に新しい都市伝説になりそうな気がしてならない。
改めて思ったが120キロババアやべーよマジで。
なんだあの動き…………速度据え置きであらゆる障害物をパルクール的挙動で乗り越えてやがる…………
もうなんちゅーか、無駄に洗練された、無駄の無い、無駄にアクロバティックな立体機動だよ。
何を言ってるかわからねーと思うが俺も何が起こってるのかわからなかった。
惑楽葉のおかげでなんとかついていけてるが、惑楽葉も惑楽葉で擬似重力を制御して、時々壁を垂直に走ってるのでもはや意味がわからない。
おいお前ら!!!物理法則はどうなってんだ物理法則は!?
「ヒャッハーーーーーーーーーーーー!!!!!!楽しいなァ我が好敵手よ!!!!」
あかん…………惑楽葉さん既に頭世紀末になってらっしゃる…………
「ヒョッヒョッヒョッ…………なかなかやるな、だが…………ここからが本番じゃ!!!!」
ん?なんか120キロババアが急に立ち止まって…………???
「どっせい!!!!!」
「ッ!?」
恐ろしく速い回し蹴り、俺でなきゃ見逃しちゃうね…………って、言うとる場合か!!!!
案の定、惑楽葉が回避の為に急制動かけた勢いで俺達は放り出され、すっ飛んでいく。
その瞬間、俺達は重力を飛び越えた。
しかしどう足掻いてもしょせんは人間、地球の重力に魂どころか肉体まで縛られた存在にすぎない。
母なる地球は重力を振り切って空に飛び出した無謀なる反逆者、つまり俺達をすぐさま叩き落としにかかる。
要するに、拒否権の存在しない自由落下が始まったって事だ。
「うォォォォォォォォォォォワォァァァァァァァァァァ!?」
死ぬ!?これ間違いなく疑いなく確実に死ぬ!?絶体絶命というよりむしろ絶対絶命だよ!!!
そもそも俺、経絡も今は無いし、惑楽葉と長門以外の式神いないし、当然どちらも飛行能力なんてねェーーーーーーから!!!!
このままでは、
『まことに遺憾ではありますが、主人公の転落死という不幸な事故により『ミオリメ放浪記』は本日にて打ち切りとさせていただきます。ポメラニアンドロイド初号機くん先生の次回作にご期待くださいm(_ _)m』
なんてバッドエンドにィィィィィィィィィィィィィ!?
「うォォォォォォォォ!?そんな打ち切りエンド嫌だァァァァァァァァァァァ!!!!落ちる堕ちる墜ちるゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」
「ゑ!?恋に…………ですか!?旦那様〜♡地獄の果てまでお供します〜〜〜〜〜♡」
とりあえずやかましい長門!!!
そうじゃなくてもっと切実に!!!物理的に!!!落下してるだろーーーーーーが!!!
「憑依変生!!!!野火、煙々羅!!!」
へ???
「お兄様!!!!しっかりしてください!!!!」
晴華、お前飛べたんかい…………
そりゃあそうか、普通(←陰陽界百夜基準)の陰陽師なら、式神の力を借りれば飛べるのはそんなに珍しい話でもないからな。
晴華は、野火の力による炎をジェット噴射のように扱い空を舞っていた。
そして同時に、みっともなく取り乱して意味不明な事を絶叫した挙句、妹に助けられて自分自身のヘタレっぷりを身に染みて思い知らされた男の姿がそこにはあった——。
…………というか、俺だった。だからどうした。反省した。いや、割とマジでガチめに……
「ホッホッホッ……ザ○ボンさん、このまま惑楽葉を追いかけますよ…………」
誰がザ○ボンじゃい。いや、まぁド○リアよりはマシだけども…………
くそぅ…………晴華め、調子に乗りやがって…………こいつ、さっきの俺の醜態を1週間くらいはネタにするつもりだきっと。
▷▷▷
とまぁ、なんとか物語の打ち切りの危機と命の危機を同時に脱した俺達は伏見稲荷大社の千本鳥居前に辿り着いた。
「我が従僕…………面目ない…………」
惑楽葉はかつてない程反省している様子だが、
「別に惑楽葉が悪い訳じゃねーよ、気にすんな」
まぁ、あれは不可抗力だからな。
ただし120キロババア、テメーは駄目だ。いきなり攻撃してくるなんて何考えてやがる——。
「ヒョッヒョッヒョッ…………誰も妨害無しなどと一言も言っておらぬぞ?」
120キロババアは俺達の恨みがましい視線に気付いていながら、悪びれる事もなく軽く笑い飛ばすのだった。
「では、儂も案内人としての役割を果たすとしよう。安心せい、今度は騙し討ちも不意討ちも無しじゃ…………」
120キロババアに導かれ、再び惑楽葉の背に乗り千本鳥居を加速しながら一気に走り抜ける。
時速120キロくらいまで加速すると、突如鳥居が眩い光に包まれて俺達をどこかへと転移させた——。
登場キャラクター解説
妖怪120キロババア
妖怪の隠れ里の案内人を務める現代妖怪。
その特徴は、『時速120キロ相当の速力と、それを実現する圧倒的フィジカルスペック』である。




