11話 Full drive,Full drive.
神域の中、俺は現在進行形で道満と対峙している。
「あんたに色々と言いたい事はあるが、とりあえずぶっ飛ばしてから言わせてもらうぜ!!!多重憑依変生、長門!!!」
既に惑楽葉と同化した状態から、さらに長門も受け入れる。
正直、器としての俺自身の肉体が耐えられるかわからないリスキーな手だが、最悪の場合は俺の『妖眼』の力で肉体の崩壊への耐性を後付けして強引に器を強化すればいいだけだ。
「勝てると思うな…………小僧!!!憑依変生、八咫烏!!!」
八咫烏と同化した道満の背に黒翼が生えて、ちょうど鴉天狗のような姿になる。
八咫烏か…………天照大神の眷属にして、歴代の陰陽寮総帥に受け継がれてきた最強クラスの式神だと聞いた事がある。
「超重力砲!!!」
まずは挨拶代わりに一撃——。
「光ある所、影あり…………」
道満は自身の影を実体化させて防御壁として、俺の一撃を取り込む。
その後、防御壁から直接超重力砲を撃ち返してきた。
なんだあの能力チートかよ!?
反射どころか、吸収してそのまま撃ち返して来やがった!!!
流石にこれは歪曲結界では防げないので慌てて避ける。
だが、あれでなんとなくわかった。八咫烏の権能は『影』。
まだ隠してる能力があるだろうが、今判明している限りでも影を媒介とした攻防一体の力だと思われる。
「避けたか…………ならば、これはどうかな?」
道満は自身の影を媒介に、実体化させて影絵のような人型の分身体を生み出す。影であり同時に実体を持つ分身体の影からさらに分身が生まれて、その繰り返し。
あっという間に視界を埋め尽くす程の影法師の群れが出来上がる。
最終的に、道満の分身体が神域結界の空以外全てを埋め尽くした。
「ここからは無双ゲーって訳か、面白え…………!!!」
目の前の光景に気圧されながらも、精一杯の強がりで不敵に笑いながら道満を睨む。
「いや、もう終わりだ。貴様は既にチェスや将棋で言うところの詰みに嵌ったのだ」
道満のその言葉で、俺はようやく異変に気付く。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛ェ痛過ぎる身体が砕け散りそうだ………………!!!!!!!
壊れる壊レル毀れる毀レルコワレル、死ぬ……………………!?
「冥途の土産に一つ、教えてやろう。百鬼夜行において人類の最大の敵となった闇色の邪狼は、『不平等の天秤』という権能を有していた」
「その力は、『常時敵と自身の戦力差を比較して、自身が劣っている場合のみ霊力と存在規模の規格を、相手を上回るまで引き上げる』という物だ。そんな事も知らずに闇色の邪狼と同化した時点で貴様は詰みだったのだ!!!」
嘲笑う道満の声も既に遠のいてきた。
今更憑依変生を解いたところで、あの物量差で一斉に攻撃されたらどうしようもない。
これで、終わりか…………よくあるつまらないバッドエンド。
もしも好きな連載漫画がこんな風に唐突な打ち切りエンドになったら、俺は間違いなく駄作のレッテルを貼るだろう。
だけどさ、俺は精一杯やったよ、やったんだよ、必死に!!!
その結果がこれだ。
もう俺は充分に頑張ったよ、落ちこぼれの割によくやった方だよ、むしろここまでやれた事じたい奇跡だよ。
身体はバラバラになりそうなくらい痛ェし、どうやら既に詰みらしいし、諦めても……いいよな?
ふと、薄れかけた意識の中でミオリの泣き顔が浮かんだ。
…………そうだ。まだ何も終わってない。
無くせないモノもない、無力なままの俺では終われない……!!!
この程度の痛みなど、ミオリが味わった孤独と虚無の時間に比べてばどうという事はない。
視界が赤く染まる。受け入れるべきは、今この肉体を苛む痛みと惑楽葉の霊格及び存在そのもの。それらを許容し、壊れかけた器そのものを繋ぎ修復す——。
俺自身の精神力の高まりと共に赤く染まりゆく視界の中、道満をしっかりと見据え、睨む。
まだだ、まだ諦めない………………!!!!本当の覚悟はここからだ——。
「まだ…………終われねェェェェェェェェェ!!!!」
地を這い、立ち上がる。
『そうだ。それでこそ我が従僕!!!』
頭の中に、不敵に笑う惑楽葉の声が響いた。
『影を生み出すには必ず光がいる、おそらく奴の能力の欠点もそこにある!!!』
そうか!?ありがとよ、惑楽葉。
よくよく考えて見れば、この神域結界には鳥居と石灯籠と太陽くらいしかない。
単なる演出として見ればそれまでだが、あの太陽が八咫烏の権能を最大限に引き出す為の偽物で、この結界そのものが最初から八咫烏の為に用意された狩り場だとしたら…………???
「惑楽葉、少しの時間だけ光を遮る。合図と同時に俺の身体から出て、あの太陽をぶっ壊せるか?」
『ハハハハハハ!!!貴様は何を言っている?当然、できるとも!!!』
「しぶとい奴だが……、詰みだと言ったはずだ」
道満の合図と共に、影法師の分身達が俺に纏わりつき、覆い尽くすようにのしかかってくる。
「ぐっ…………」
「空間を歪曲させて防御しようとも、全方位から纏わりつき、のしかかる質量には耐えられまい…………そのまま圧死するが良い!!!!」
「まだ終わりじゃねェェェェェェ!!!!瘴気最大散布、呪怨領域…………展開!!!」
瘴気の黒雲を拡げ、偽物の太陽を完全に遮る。
神域結界は暗闇の中に閉ざされ、それと同時に道満の分身が全て消え去った。
ついでに擬似太陽の位置も長門の能力による探知で捕捉済み。
「今だ!!!行けェェェェェェ惑楽葉ァァァァァァ!!!!」
俺の身体から惑楽葉が離れ、大狼の姿で偽物の太陽を喰らう——。
「馬鹿な…………!?」
「多重憑依変生!!!もう一仕事だ、惑楽葉!!!」
結界を解除して逃れようとする道満だが、もう遅い!!!!
超重力砲の出力を拳に集め、ただ殴りつけるだけ。今編み出した、俺の必殺技…………その名も——、
「泰帝壱戟!!!!!」
カッコつけてるけど結局はただのパンチだ。しかし、その一撃の余波で神域結界は完全に破壊された。
このまま俺の必殺技として極めていけば、たいていの敵を一撃で倒せるようになるだろう……たぶんおそらくきっと。
ふと見ると、道満は完全に伸びていた。まぁ、すぐにミオリを連れて逃げればいいだけだから、殺す必要もないか。
さて、道満も倒したしそろそろミオリと合流しよう——。
▷▷▷
晴華side
最上階の貴賓室前、ここに御織女之神がいるはずだ。
案の定、扉には結界が張ってあるが大した問題ではない。
内側にいる者が出られないだけで、外側からならば普通に解く事ができる、陰陽師の業界ではよくあるタイプの結界だ。よし、解けた。
「御織女之神、助けにきました」
「キミは……礼明の妹さんだね?という事は……」
「はい、お兄様からこの場を任されました。一緒に行きましょう」
『そうはいかん…………』
部屋の隅に置いてあった、美しい装飾だが古びた鏡が唐突に輝き出す。
鏡の妖怪、もしや…………雲外鏡!?
部屋中のありとあらゆる鏡面から手が伸びてきて、私達は部屋の中央に追いやられた。
「御織女之神、私から離れないでください。一気に駆け抜けます」
「わかった。信じてるよ」
「多重憑依変生……野火、煙々羅!!!」
御織女之神を背負い、煙々羅の力を借りて部屋中に煙を散布した後に、脚に火を纏わせる。
『逃がすと思うか?』
「逃げる?逆です。『あんたは俺が討つんだ…………今日、ここで!!!』っていうあれですね!!!」
雲外鏡の本体である古びた鏡まで全力ダッシュ。ついでに、走りに合わせて脚から火を噴射する事でさらに加速する。
『血迷ったか!!!!ならば一思いに…………、ッ!?』
先程まで部屋中の鏡面から出ていた手が消え失せる。
『馬鹿な……これは……煤!?』
計画通り…………!!!(ゲス顔)
鏡面が煤けて曇れば雲外鏡の能力も無効化されるはずだと予測していましたが、上手くいきましたね。
最初からその為に煙を散布していたのです。
「次にお前は、『これも計算の内か!!』と言う……!!!」
『これも計算の内か!!…………ハッ!?』
「当然、最初から最後まで計算ずくです!!!」
ダッシュの加速を乗せながら跳び蹴りを放ち、そのまま雲外鏡の本体を蹴り砕く。
雲外鏡、再起不能!!!
あらかじめ決めておいた合流地点に向かう為に、御織女之神と共に部屋を出る。ミッションコンプリート——。
▷▷▷
合流地点には、またしても惑楽葉さんと同化して祝福化したお兄様…………速写連写掃写高写乱写。
「だから、そういうのはもういいから…………」
お兄様は呆れているが、それでも私は止まらない。『人の夢は!!!終わらねェ!!!!』ってやつです。
「礼明ッ…………!!!!」
御織女之神がお兄様に駆け寄り抱きつく。
「へァッ!?」
お兄様は伝説の超野菜人みたいなリアクションしているが、これはシャッターチャンス!!!
『貴様!?旦那様は私の物だァァァァァァ!!!!てかずるい!!!私も〜〜〜〜!!!』
先程までお兄様と同化していたと思われる長門さんも出てきて、どさくさに紛れてお兄様に抱きつく。
Oh. It,s ロマンティクス——。
その日1日で、スマホのクラウドストレージが大幅に増えた事は、まぁ言うまでもないでしょう。
晴華side 終
設定及び用語解説
不平等の天秤
闇色の邪狼こと、惑楽葉の第2の権能。
常時敵と自身の戦力差を比較して、自身が劣っている場合のみ存在規模と霊力の規格を、敵を上回るまで事実上無制限に引き上げる。
神域結界『天道八咫烏影牢』
道満が天照大神から賜った、八咫烏の権能を最大限に引き出す為の固有結界。
結界そのものが神域と呼んで差し支えない程の霊力に満ちており、空間強度も極めて高く破壊は困難。
さらに、空間内に存在する擬似太陽の光によって生じた影を八咫烏の権能で操る事でただでさえ強い八咫烏の戦闘能力を極限まで引き出す。
超重力砲
闇色の邪狼こと、惑楽葉の汎用攻撃技。
莫大な霊力を擬似重力により収束した後に、螺旋運動を加えて放つ。
次元の壁に隠れようとも、結界などの空間系防御術式で防ごうともそれらを一切の容赦なく貫通する凄まじい威力を誇る。




