10話 寂しくなんてなかったよ、ちゃんと寂しくなれたから
ミオリside
外が随分と騒がしい。同士討ちでもしているのかと思ったら、『闇色の邪狼が復活した』というような事を言ってる声が聞こえたり——、
「あの者どもが陰陽寮に襲撃をかけてきたようですな………評価を改めましょう。あやつらはなかなかに骨のある者どもだ。だが、それもここで終わる…………」
「!?」
部屋の扉の外側にいた監視役の道満は、そう言って礼明達の迎撃に向かった。
まさか、礼明達が本当に助けにくるなんて…………
だけどどのみち、ボクは結界のせいでこの部屋からは出られない。
今のボクには礼明達の無事を祈るしかできない——。
「全く、ボクがどんな覚悟でお別れしたかも知らないで…………絶対、無事に助けに来ないと許さないから……」
ボクは小さく呟き、礼明達を信じて待つ事にした。
ミオリside 終
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「「光矢導符!!!」」
陰陽寮側の兵士達が放った退魔の光矢、しかしその集中攻撃は惑楽葉には一切届いていない。
惑楽葉の新しい能力がなんとなく掴めてきた。
質量が生じる程の高濃度の瘴気、その副産物である擬似重力を制御する事により空間を歪曲させて防御に転用する。
おそらくこれが惑楽葉の新しい能力。(グ○ンゾンかよ)
今思えば、復活した闇色の邪狼と相対した時の重圧はそれだったのか。
とにかくこのパワーアップは嬉しい誤算だ。だが、俺達の目的はミオリの奪還。それを見失ってはいない。
不要な殺生は避けつつ、見敵必倒。
「呪圧愚!!!」
出力を可能な限り抑えた、長門の呪詛攻撃。それでも敵の制圧には充分だ。
俺達は、拍子抜けするくらい圧倒的な力で戦線を正面突破してミオリのもとに向かう。
おそらく今、ミオリの心は孤独の暗闇の中にいるのだろう。
だが、終わらない暗闇の中であっても、希望と言う星を思い浮かべたなら、それを見つける事ができたのならすぐ銀河の中だ。
誰だって、希望がなくては生きられない。
だからこそ、俺達がミオリにとっての希望となるんだ。
高天原の神々にどのような思惑があろうとも、陰陽寮が神々の傀儡に過ぎないとしても、ミオリに永劫の孤独を与えて良い理由にはならない。
腹の底から怒りが湧いてくる——。
ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!!!!
なんだか頭の中がごちゃごちゃしてて、感情が抑えられなくなってきた。
簡潔にまとめるとつまり————、
「宣戦布告だコノヤロー!!!!!」
惑楽葉が纏う擬似重力を収束、放射する事による超重力砲。これは挨拶代わりだ!!!
城郭を結界ごとブチ抜き、正面突破。
「憑依変生、惑楽葉!!!」
屋内だと、小回りが利かない今の惑楽葉の姿(大狼)では不利。
なのでここから先は憑依変生の状態で進む事にした。
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道満side
まさか、晴明の末裔どもがまた我が前に立ち塞がるとは……
思えば、あの忌々しい晴明もそうだった。
どこまでも身勝手で、独善的な奴。安倍家の血筋というのは、どいつもこいつもそんな輩ばかりだ。
我がどれだけ努力を重ね陰陽道を研鑽しようとも、その努力でさえ一足飛びに追い越して進んでいく。
人を超え、寿命の定めにすら打ち克ち、神に準ずる存在となった今でも奴に追い付けた気はしない。
だが晴明は百鬼夜行の後に、天照大神の遺志に背き御織女之神を救おうとした事により処刑された。
手を下したのは、我自身だ——。
しかし奴は死の間際に、我に対して『陰陽寮を頼む』と言い残したのだ。
故に我には、神の傀儡に甘んじてでも陰陽寮を守る責務がある。
それを邪魔するというのなら、我の心に焼き付いた忌々しい奴の記憶もろとも、何度でも殺してやろうぞ——。
道満side 終
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最上階の貴賓室を目指して進む。その途中、突如視界が歪んだかと思ったら俺達は奇妙な空間にいた。
広大な空間に、無数の鳥居と石灯籠と沈まない太陽だけが存在する異様な世界。
「ふむ、もはや神域と言っても差し支えない程の結界……おそらく、道満様ですね。間違いなく閉じ込められました」
晴華が冷静に現状を分析する。
結界、か…………だが、結界と言えど空間系の術ならば惑楽葉の擬似重力で破る事ができるはず。
脱出だけならばおそらく可能だが、道満はここで倒さなければ、また何かしらの妨害があるだろう。
「晴華、俺が結界に穴を空ける。ミオリは任せた」
憑依変生の効果で得た惑楽葉の力で、擬似重力を制御、収束して放射する!!!!
「超重力砲!!!」
狙い通り、結界空間に大穴が空く。
「お兄様、ご武運を」
晴華が結界空間から脱出した後に、結界空間が再度閉じた。
「さて、そろそろ出てこいよ。どのみちお前は倒さなきゃならねーと思ってたんだ」
「大胆不敵なのか、ただの馬鹿なのか…………良かろう、その安い挑発に乗ってやる」
陰陽寮総帥、芦屋道満——。
百鬼夜行から現代まで生き永らえている唯一の陰陽師。いや、もはや人間かどうかすらわからない。
正真正銘の化け物、あるいは現人神相手に喧嘩売るとか実際正気の沙汰ではないが、そんな事はどうでもいい——。
俺はお前らが…………気に食わない!!!!!




