1話 神様、拾いました
ハーメルンでの二次創作もまだ完結してないのに、何やる事増やしてるんですかねェこのポメは…………
と言う訳で、シリアスとギャグをごちゃ混ぜにした和風伝奇モノ風味の新作、連載開始です。
はるか昔、戦いで傷を負った一匹の妖狐がこの地で息絶えた。
その妖狐は、死の間際に一つ予言を残す。
『我死して幾星霜の後、大いなる波乱と新たなる時代の幕開けを齎す黎明の使者が現れる』と。
※神露町の民話より抜粋。
プロローグ 高天原からの脱走者
逃げなければ。
ドコへ?
高天原じゃないどこかへ、ボクを追う神々の手の届かないところへ。
さもなければ、また閉じ込められるだけだ。
あの、一筋の光すらもない岩戸の中に。
さもなければ、またいつまでもいつまでも、いつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもいつまでも自分自身の認識さえも曖昧になるくらいの時間を岩戸の中で過ごす事になる。
ナンノタメ?
わからない。正直ボクは、自分が何者で何故閉じ込められていたのかもわからない。
だけど、もう暗闇の中に閉じ込められるのは嫌だ。
だから、もう二度と高天原には戻りたくない。
決して捕まる訳にはいかない。神々にも陰陽師にも——。
プロローグ 終
▷▷▷
読者の皆様ハローおはようございますもしくはこんにちはこんばんは。俺は安倍礼明。陰陽師の名門安倍家——、の落ちこぼれです。
どうやら才能は全て妹の方に持っていかれたみたいで、つい数カ月前に破門されました。
そんな俺がある朝目覚めると、隣には一糸纏わぬ絶世の美女――、
「フオォォォォォォォァ!?」
どこぞの超野菜人王子のような悲鳴を上げて飛び起きる。
なんか思わず変な声が出てしまったが、大丈夫だ、問題ない。
いや、全然問題ない状況じゃあないだろうこれは……
下手したら、というか下手しなくても——、
「せきにんとってやくめでしょ」
という展開になって最悪の場合は、
「おおゆうしゃよ、しんでしまうとはなさけない」
って展開に…………
ふざきんな!!111 俺は悪くねぇ!!!!
なんか思考回路が人生オワタ\(^o^)/な方向になってきたが、ひとまず冷静に状況を確認するとなんの事はない。
隣にいた美女は俺の式神である付喪神の七宮長門だった。
「おはようございます旦那さま✨」
「長門お前ェ……この際、毎回布団に潜り込んでいる事はスルーするが、何故全裸になる必要性がある!!!!」
「昨日の夜の事、覚えてないんですか?」
長門が頬を染めながら尋ねた。
昨日の夜?昨日の夜は——、
「何もないわ!!普通に仕事帰りで疲れ果てて布団にダイブだよ!!!なんでもいいから1秒でも早く服を着ろ。この作品がノクターンノベルズに移動になる前にな」
というか、この長門に手を出すのは流石に洒落にならん。
世間体とか外聞とか以前になんというか、長門相手に既成事実を作った時点で拉致監禁エンドで二度と真っ当な社会生活に戻れない気がする。
「チッ、バレたか…………(ボソッ)」
やっぱりか、危なかった。俺はまだ悲しみの向こう側に行く予定はないぞ。
まぁ、今後もそんな予定はないけど。
「フハハハハ!!!清々しい朝だ。我が従僕、今日も絶対悪たる我の威光を世に知らしめるのだ!!!」
「おはよう惑楽葉、今日もまた町のパトロールか?熱心だな」
「パトロールなどではない!!!矮小な人間どもに絶対悪たる我の威光を知らしめるのだ。勘違いするでない」
俺の背後から唐突に現れた、この黒髪に赤眼の可憐な狼耳少女のような式神(←だが男だ。)は惑楽葉。
1000年くらい前に起こったとされる人間と妖怪の歴史上最大の争い『百鬼夜行』にて退治された祟り神の一柱『闇色の邪狼』…………の分霊らしい。
自称『絶対悪』だが、お人好しぶりが全く隠せていないんだよなぁ。
こう見えてこいつ、毎日街の美化活動やら防犯パトロールとかしているから全く説得力がない。
俺達と生活する中で惑楽葉がしでかした悪い事なんて晩飯の唐揚げをつまみ食いしたとか、過去に一度だけ夜中にポテチ一袋とアイスとコーラ平らげたぐらいの物だ。
本人曰く、『人間の物差しで我を測るでない。絶対悪たる我の行いはことごとく悪である!!!』との事。はいはい絶対悪絶対悪(笑)
それはさておき、数カ月前に陰陽師として破門くらった俺こと安倍礼明は、波紋戦士ならぬ破門戦士となった。
そして今は霊能力を使用した便利屋として細々と生活している。
今のところ、仕事といえば迷子の猫探しとか水道のトラブル解決とか家事代行くらいだが。
まぁ、それだけ色々やっても毎食毎食モヤシ感謝祭とか、場合によっては米のみとか普通にあるけど——。
ともかくこれが、貧しく騒がしくも楽しい今の俺の日常。
▷▷▷
朝はいつも通り、惑楽葉に付き合って町内の防犯パトロールがてら便利屋のチラシ配り。
惑楽葉の町内での評判のおかげで便利屋の仕事依頼も少しずつだが増えてきている。
「今日は廃神社の掃除だ!!!この古びた神社を小綺麗にして、絶対悪たる我の神殿とするのだ。うむ、無断で土地ごと占拠とは実に悪!!!」
ああ、子供の秘密基地的なアレな。
いつも通り惑楽葉に振り回されながら、かといって今日は他に仕事もないので付き合ってやる事にした。
「わかったよ。頑張って綺麗にしようぜ」
やれやれ、こりゃあ夕方まではかかりそうだ——。
▷▷▷
掃除も一段落して、惑楽葉はコンビニに『ボリボリ君(←当たり付きのアイスキャンデー。低価格帯で子供の財布にも優しい)』を買いに行った。
それからしばらくして、予報外れの夕立が降り出す。
「…………マジでどうしようか?」
惑楽葉は普段から出歩く事が多いから折り畳み傘持たせてあるし大丈夫だ。
しかし問題は俺の方だ。アパートにいる長門に連絡して傘を持ってきてもらうか?
長門にはあんまり借りを作りたくないんだよな……
下手に借りを増やすと変な要求をされそうで怖い。
具体的には婚約とか結婚とか『彼女にして』とか、はたまたもっと直球に大人の関係……ゲフンゲフン。
これはガチで一世一代の決断かもしれん——。
「くそぅ、傘さえ…………傘さえあれば…………」
「それは大変だね。ボクの傘を使うといいよ」
ふと、後ろから鈴の鳴るような声がした。振り向くと、巫女服のような衣装で中性的な容姿の少女が立っている。
全体的にショートカット気味の髪型で、後ろ髪の部分は1本の長い三つ編み。その編み目の部分には、鈴の付いた髪飾りが見えた。
「キミ、陰陽師だろう?だったらキミとボクはここで会わなかった事にしよう」
惑楽葉と僅かに似ているが、異質な気配。
祟り神の分霊である惑楽葉とは違い、どこまでも澄み切った清浄な気配、間違いない。こいつは、神だ。
「あんた、この神社の神か?」
あまりの緊張感に背筋が凍りつきそうなのをこらえながら俺は尋ねた。
「いや?違うけど」
違うんかい!?じゃあ不法滞在してるだけかよ!?
「ボクは御織女之神、それ以外の記憶はないし、神力もほとんどなくなってる」
「だけど、キミ達陰陽師と高天原の神々はしつこくボクを捕まえようとする…………いったいボクが何をしたっていうんだ…………」
御織女之神は、心底疲れ果てた様子で吐き出すように呟いた。
こいつの言っている事は、おそらく事実だろう。だが全く理解できない。
高天原の神々と陰陽師がこいつを捕まえようとしている?そんな話、俺は初耳だ。
あぁ、俺が落ちこぼれだからか。なんか納得した。
「あいにく俺は既に破門くらってんだよ。別にお前を捕まえたりはしないから安心しな。それと、傘ありがとな」
俺はここで何も見なかった、それでいい。それで全て丸く治ま——、
「御織女之神、見つけましたよ」
「!?」
——らなかった!?
声のした方に振り向くと、そこには二人組の陰陽師。
これはどうしたものか。
白状すると、御織女之神を素直に差し出せば謝礼を貰える可能性もある。そんな風に俺は思った。
なんとも薄情だが俺には関係ない話だからな。
いや、実際そういう事を少し考えたのは事実だ。しかし、
「嫌…………あの暗闇の中に戻るのは…………嫌…………!!!」
目の前で震えているこいつを見た時にそんな考えは吹き飛んだ。それこそ木っ端微塵にな。
こいつが今までどのように過ごしてきて何を経験したのかは、俺には想像もつかない。だが、この怯え方は普通じゃない。
別に俺はヒーローでもなんでもないが、助けを求めている相手を平然と見捨てられるほど外道でもない。
陰陽師としては落ちこぼれでも、助けを求めている相手を迷わず助ける事ができる俺でありたい!!!
「逃げろ。ここは俺が時間を稼ぐ」
俺は二人組の陰陽師の前に立ち塞がる。
「邪魔をするな、これは神託なのだ!!!我らの邪魔をするのは高天原におわす神々への反逆であるぞ!!!」
「反逆上等。あいにく俺は、神々に選ばれなかったはぐれ者だからな……まともに戦えば勝てはしないが、せいぜい嫌がらせをさせてもらうぜ!!!」
全く、さっきまで馬鹿な事考えてた俺自身を殴りたい。
正直なところ、俺自身が自分の内なる熱血ぶりに気付いて驚いているくらいだ。
だが、こういう展開になった以上は今更後には引けないよな…………
俺は、御織女之神をかばいながら懐から特製の煙玉を取り出して地面に叩きつけた。瞬間的に煙幕が辺り一帯を包み込む。
「そんな小細工ごときで…………!!!」
陰陽師どもはすぐさま霊術の詠唱を始めた。よし、予想通り。この煙玉の調合が完璧ならば——、
「術が………使えぬ!?まさか、瘴気か!!!」
ご明察。陰陽師はたいてい、神々から霊能力を授かる事で霊力並びに霊術を使えるようになる。つまり神に由来する力って訳だ。
そして、神々は瘴気などの穢れに弱い。なので、この煙玉には煙幕を作り出すのに必要な成分以外にも祟り神の瘴気を調合している。
俺はとある事情で少しばかり瘴気に耐性があるけど、こいつら陰陽師にとってはまさしくメタ戦法だ。
当然、真っ当な神である御織女之神もぐったりしている。
あ、ヤベ…………いや、それについてはマジで巻き込んですまん。
とりあえず一緒に、逃〜げるんだよォ〜〜〜〜。
俺は御織女之神を担いでダッシュで戦略的撤退を敢行、生存フラグを奪取するべく疾駆。
雨の中、酷く逃げ惑う濡れネズミの姿がそこにはあった——。
というか……俺だった。
逃げ道の途中、なんとか惑楽葉と合流する。
「なんと!?我が従僕が誘拐に手を染めるとは…………これはまさしく、悪!!!」
スミマセンとりあえず黙ってもろてええか?
「誘拐じゃない!!!人……じゃねぇ!?神助けだ!!!」
「ま、待て……ゴホ……ゴホ……」
こいつら、瘴気をモロに吸い込んで弱ってるはずなのに追いついて来やがった……タフだなぁ……
「惑楽葉、敵だ。煙玉散布済み。あとはわかるな?」
「よくわからぬがわかった。絶対悪たる我に任せるが良い!!!!」
惑楽葉の祟り神としての権能は『呪詛喰らい』——、あらゆる呪いや穢れを取り込み力に変える。
そして惑楽葉は呪詛攻撃を得意としており、辺り一帯に呪いを散布した後にそれらを任意で取り込み、副作用の自己強化と自己回復で戦闘を有利に進めるスタイルを得意とする。
本来ならばスロースタータータイプだが、今回は俺が瘴気を散布済み。
辺りに散布した瘴気もきっちり除去しつつ、既に俺達の勝利確定ルートだ。
「フハハハハ!!!3カ月の間、頭痛腹痛発熱で苦しむ呪いをくれてやったぞ!!!あえて敵を生かさず殺さず苦しめる我はやはり、絶対悪!!!」
Oh……………ご愁傷さま。惑楽葉の奴、殺さないように手加減したみたいだけども、これ普通に生き恥では??
とりあえず行動不能になった陰陽師二人組をスルーして、俺達は一度アパートに戻った。
 




