4話 冒険者になった才女ー旅立ち、はじめの一歩ー
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「故国の才女は存在自体がチートでした」4話になります。
お付き合いのほどよろしくお願いいたします。
冒険者として踏み出した私の第一歩は、今まさに旅立とうとしている冒険物語の主人公のような、颯爽として希望に満ち溢れた姿とは程遠いものだった。
その姿がどんなものかというと、それは一度だけ連れて行ってもらった皇都の遊技場で見た、魔法で作られた迷路の出口を探す人の姿にそっくりだった。
迷路はすべてが透明な魔法の壁で作られていて、迷路の中に入った人は皆、見えない壁を両手で触って確かめながらどこかに必ずある出口を探してそろりそろりと歩いていたのだった。
しかも、その様子は外から丸見えになっているものだから、それを見ていた周りの人たちはよほどその姿が面白おかしかったのか、まるで大道芸の道化師を見ているかのように皆笑っていたのである。
それでも、たとえそれがどんなに滑稽な姿であったとしても、今の私にとっては大きな意味の込められた一歩であることに違いないのだ。
私は両腕を広げて一歩、また一歩と注意深く前方と足元を確かめながら、地面を踏みしめて前に進む。
緊張して力が入りすぎていたのか、何もないにもかかわらず足元がぎこちなくなってしまい何度か転びそうになりながら。
(どこまでも真っ黒ね。この場所は一体何でできているのかしら?私以外の何もかもが、まったくに光に照らされていないみたい、こうも真っ黒だと目がおかしくなりそうだわ。)
実際にはどこからか発せられた光が当たっているのだろうけど、どういうわけか当たっているはずの光は全く見えず、視線の先は違和感があるほどノッペリとした黒い面にしか見えない。
歩き始めて間もないにもかかわらず、私の距離感はすでにおかしくなっていた。
加えて、間違いなく歩いている感覚はあるのにもかかわらず、景色に動きがないので自分が本当に前に向かって進んでいるのか不安になってくる。
(これは、本当に前に進んでいるのかしら?それに目の前に壁、ましてや先の地面がなくなってたりしないわよね?)
しかも、一歩一歩にとても気を遣ってしまうのだ。
なぜならば距離感が掴めないものだから、目の前には常に大きな壁があるようにも見えるし、地面だってどうなっているのか見ただけではわからないのだ。
地面は平らなのかとか、穴は開いてないかとか一歩踏み出す前にいろいろと考えてしまい必要以上に神経すり減らした。
私はしばらくの間そんな不安と戦いながら真っ黒で先の見えない空間を休むことなく歩き続けることになった。
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そうしてもう、どのくらい歩いただろうか、感覚的にはかなり歩いたと思うけれど、景色は相変わらず真っ黒なままで変化はない。
しかし、人間は慣れる生き物だ。
歩き出してからしばらくは違和感しか感じていなかった距離感の掴めないこの風景だったが、ここに来るまでに、いいかげん慣れてしまった。
足元にいたっては心配していた穴などまったくない滑らかな地面が延々と続いていて、皇国でも特にしっかりと整備されている皇都の貴族街よりもずっときれないほどだった。
この上なく変化のない場所に最初は感じていた不安も随分前にどこかに行ってしまい、しっかりと突き出していた腕も今では下に降りている。
そうしたものだから、私の頭の中は別の事、この場所に対する不安ではなく不満でいっぱいになっていた。
それはあまりに変化のなさすぎるこの場所への精神的な苦痛であり、要するに歩いていてとても退屈でしかたがないのだ。
上に雲、下に草花でも生えていれば少しは楽しめたかもしれないが、ここまで来る途中でそんなものは一切なかった、一面の黒一色だけだ。
私の頭はかなり前から『猛烈な退屈サイン』を出し続けていた。
そろそろ立ち止まって休息をとるべきだ。
そもそも明確なゴール地点があるわけでもなく、期限が設けられているわけでもない。そしておそらくまだまだ、この風景の変化もないところをただ延々と歩き続けなければならないことは明白だ。急ぐ必要などない。
しかし、私は、まだ歩ける、もう少し大丈夫、やっぱりあそこまで行ったらと、そんなことを何度も繰り返し、立ち止まることなくまだまだ歩き続けることになったのだった。
先ほどから歩くたび、脚に鈍い痛みが出始めているにもかかわらず。
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(シュルメルツ・ハィレン)
柔らかな光とほんのりとした暖かみが掌から酷く痛む患部に伝わると、歩いてもいないのに太い針で突き刺されているような、ジクジクとした痛みがスーッと和らいでいくのを感じる。
私は下級回復魔法をまだ少し腫れている脚にかけ終えると、動かしても問題がないことを確認してから、一休みすることにした。
結局、体力の限界と脚の痛みが我慢できなくなるまで歩き続けた私は、その場に崩れるように座り込み、長い黒髪を下敷きにしないように注意しながら、腕を枕にして仰向けに倒れると目蓋を閉じ、鼻で大きく息を吸った。
(目を開いていても、目を閉じていても見え方は変わらないわね・・・。)
そうして地べたに寝転がっていると聞こえてくるのは、『淑女として地面に寝転がるなど、はしたない』だとか、そんな誰かの叱責の声だ。
けれど、そんな幻聴はこの際どうでもいい。
もう、全身がへとへとなのだ。
(あ~、疲れた。何か甘いものと飲み物が欲しいわね。)
色とりどりのお菓子、特に今は舌の上でとろける甘くて艶やかなイチゴのジャムとコクのあるバターがふんだんに使われたさくさくのスコーン、そして香り高い温かな紅茶が欲しいところだ。
と、考えてしまうが当然ここにはスコーンを焼いてくれる専属料理人も居なければ、紅茶を煎れていくれる侍女も居ない。
かなりの道のりを歩いた身体は水分や糖分を要求していたが、これから先は我慢しなくてはならない。
「はぁ。」
私は目をつぶったまま、ため息をついた。
(余計なこと考えるんじゃなかったわ、食べられないって分かっていると、余計に欲しくなるのよね。)
今までは何も言わなくても、毎日決まった時間になれば、甘いお菓子や飲み物が勝手に用意されて目の前に運ばれてきていたが、これからはそんな事はない。
これからは自分で働きそれで得たお金で手に入れ、食べるためのを準備を自分でしなければならないのだ。
公爵令嬢のままであったならばそんな不自由なことを考える必要はまったくなかっただろう。
(アフタヌーンティーはしばらく我慢するしかないわね。)
でも、この不自由さも好きなことをしても許される自由(当然、常識の範疇において)を手に入れた代償と考えれば、それほど悪くない気分だった。
「ん、んく、んくっ、・・・ふう。」
身体を起こして流水魔法で喉を潤した私は、繊細な刺繍の施されたハンカチで口元を軽く押さえてから、もう少し体を休めるため先ほどと同じように仰向けになって今度はぼんやりと青くない空を見つめる。
私はこんなに長い時間を自分の脚で歩いたのは初めてだった。
多くの貴族は保安上の理由から、距離に関係なく外出する時の移動には全て馬車を使うのが普通だ。だから私も長い距離を自分の脚で歩くことなんてことは生まれてから今まで一度もない生活を送ってきた。
普段からそんな生活を送っていたから、いくら整備された道よりも綺麗だとはいっても、距離を歩きなれていない貴族令嬢がこんなに長時間歩き続けることができるわけがなく、私はここまで来るまでに何度も脚に回復魔法をかけていた。
とはいえ、多くの貴族が皆、常日頃、おいしいものばかりを沢山食べ、馬車ばかり乗って自分の脚で歩かない挙句、運動不足気味で不健康かというとそんなことはない(そういった貴族も中に居るが)
なぜならば、私達貴族は自国の有事の際には国民を守るため、いち早く兵を率いて先頭に立ち、迫りくる災厄や敵に立ち向かっていかねばならないからだ。
それは特に社会的に地位の高い、皇族や公爵家など上位貴族になればなるほど、自分達よりも下位の貴族たちのさらに先頭に立ち、彼らをまとめ上げなければならない責任があった。
そういったことから貴族には、普段のたしなみとして、魔法戦闘術と剣術の教練を家庭教師を雇い、独自のカリキュラムに沿って教育を行っている家も多いのだ。
それは令嬢でも例外はない、私たちは不健康になっている暇などないのである。
私は公爵令嬢としてそれらに加えて、素手、ナイフによる近接戦闘術や行軍訓練(という名のサバイバル術)など、身体能力を養うためのカリキュラムが数多く組み込まれていたので休む暇なく常日頃から身体は動かされていた。
そして、その講師達に言わせると、私の基礎身体能力は同年代の令嬢達よりもかなり恵まれている方のようで、特に瞬発力や反射神経がすばらしいとのことだった。
それを聞いた私は講師に褒め称えられ悪い気はしないものの、同年代の令嬢と比較したこともなく、そもそも比較の基準がわからなかったから、「左様でございますか、お褒め頂きありがとうございます。」と当たり障りのない返事を返すくらいにしか思っていなかったが。
(さて、十分休んだことだし、そろそろ行こうかしら。)
疲れはまだ残っていたけれど、先ほどより動けるようになった私はサッと身体を起こし、またどこまでも続いている道なき道を歩き出したのだった。
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「・・・っ、・・・」
私はその後も何度か休憩をはさみながら、さらに前に進み続けていた。
うるさかった退屈サインは鳴りを潜め、身体はただひたすら前に進むことだけを、本当にあるかも定かではない出口のことだけを考えて脚を動かしている。
しかし、頭の中は、もう、ここから抜け出すなんて、無理なんじゃないだろうか。やっぱり、私はここで一生一人ぼっちで生きていかなければいけないのではないか。
何度も、何度もそんなこと考えては否定することを繰り返していた。
そうして、ついには時間の感覚もあいまいになってきた頃のこと。
突然、それは起こった。
「あぐっ?!」
唐突にドンッと強い衝撃が頭部を襲った。
急に訪れたその衝撃は、真っ黒なはずの視界をちかちかとさせ、身体はその力で後ろに突き飛ばされた。
自分の身に何が起こったのか理解できていない私の身体は、まるで時間の流れが遅くなったようにゆっくりと傾いていく。
(倒れる!)
どうにか倒れまいと脚を踏ん張ろうと脚を動かす、けれど、疲れた身体が言うことをくれるはずもなく。
次の瞬間、背中への衝撃とともに私の身体は地面にたたきつけられた。
私はあまりの痛みでおでこを押さえて、声にならない声を上げる。
「っ〜〜〜?!」
(う~、頭が、割れそう、だわ・・・)
私は、頭を何かにぶつけてその場に倒れてしまったのだ。
(・・・!! いい加減にしてよ?!一体、何なのよ!!)
そして、それまでなんとか保たれていた私の精神は、理不尽な痛みがきっかけとなり臨界点を迎えた。
私の堪忍袋はついに破裂し噴出、一気に頭に血が上る。
「・・・グスッ・・・、スン、スン、こんなのあんまりよ、あんまりだわ・・・グスッ、」
が、その上った血は怒りとは全く違う形で溢れ出した。
これまで我慢してきた様々な思いが透明な液体となって目尻からとめどなく溢れてくる。
まるで今まで溜まりに溜まった不満を、不安を洗い流すかのように。
流れ出る涙は伝い落ち、散らばる自慢の黒髪を、その下の地面を静かに濡らしていった。
分かっている、分かっている。
これは諦めかけている自分への苛立ち、それを否定したくても思い通りにならない自分の弱い心、それらの不満を解消させる方法を知らないが故、向ける先のない八つ当たりでしかないことくらい分かっている。
怒りが自分自身の心の弱さによるものであることくらい。
私の中で、知らない私が、地べたに這いつくばって泣いている私を見下し、嘲笑う「弱いわね」と。
「・・・グスッ、そんなこと、分かってる、わよ。」
手の甲で乱暴に目元を擦る。
そして、油断していたのはまぎれもない事実。ここまで歩いてきてあまりにも何も無いものだから、この先も何も無いだろうと勝手に思い込んでいた。
でも、それが間違いだったとたった今思い知らされた。
油断大敵。西方の国の言葉が頭をかすめた。
「スンスン・・・」
(ちゃんと前を見ていたのに痛い思いするなんて、とっても最悪な上に最低な気分だけど。もっと慎重に行動しないと、ここは知っている場所ではないもの、気を引き締め直さなくては。)
泣いたことで少し気分が楽になった私はゆっくりと身体を起こした。
起き上がると今しがた打ち付けたところがその位置を主張するように、じんじんとした痛みを放つ。
目元を拭い、念のためハンカチを額に当てて確認してみたが、幸い腫れもなく血も出ていないようだったので、私は胸をなでおろした。
(痛みはあるけれど、腫れてもいないし、とりあえず治療しなくても大丈夫かしら?でも、しばらくしたら、おでこにタンコブとかできてこないわよね・・・・。)
(う、・・・シュルメルツ・ハィレン。)
やはり考え直した私は、何度目かの下級回復魔法で痛みが引いたところで、ぶつけた額をさすりながら立ち上がると、もぅ!とムッとした仕草でぶつかった辺りを軽く叩いておく。
すると、そこは今までまでと変わらず、何もない真っ黒な空間がどこまでも広がっているように見えるのだが、手は空を切ることはなく、先ほど私に痛い思いをさせたであろう何かの確かな手ごたえが伝わってくる。
「ん~?これは、なにかしら?」
目を凝らしてみるが何一つ分からなかったので、今度は目の前の何かを手のひらでそっと触って確認してみることにした。
そうすると、そこには私の背丈よりも大きく、胸囲よりもさらに太い少し歪な円柱状をしたものが、地面からまっすぐと空に向かってニョッキっとそびえ立っているではないか。
しかし、形や大きさはわかったがそれだけではこれが何なのかは判断できないので、さらに入念に調べてみることにする。
それの表面は全体的にザラザラとした触り心地で所々にチクチクとした小さなささくれが立っている。
そのささくれは薄く表面に張り付いているものの一部のようで、柔らかく爪で引っ掻けばすぐにはがれてしまいそうな感じだ。
試しにそのうちの一カ所を爪で軽く引っ掻いてみれば、引っ掻いた表面がわずかにめくれ上がったような感触が伝わってきたので、めくれ上がったその一つを摘み上げてゆっくりと慎重に引っ張ってみると、ベリ、ベリっと小さな音とともに、表面に張り付いていたものが簡単に剥がれてしまった。
剥がしたものもやっぱり真っ黒で厚みはほとんどなく、まるで黒い紙のような見た目である。
それを手のひらに載せて表や裏を観察したり、香りを嗅いだりして調べてみると、見た目は表も裏も真っ黒で今までこんなものは見たことがないのだが、ほのかに以前に嗅いだことのある香りがした。
調べた結果、私が導き出したこの円柱の正体は。
「この手触り、そしてこの香り。これは・・・樹皮かしら??・・・と言う事は、これは樹木なの?」
私は目の前に立っているであろう、樹木と思われるものを見上げてみる。
(イグニッション)
さらに確証を得るために剥がしたものを着火魔法で火をつけてみると、白灰色の煙を出しながらじわじわと燃え、小さくなりやがてはパラパラの炭になった。
(燃やした感じからも間違いないわね、これは樹木だわ。それにしても、まさかとは思っていたけれど樹木まで真っ黒だとはね、おかげで周りと同化していて全然気づかなかったわ。)
私は手のひらの炭をパッパッと払い落すと、この珍しい樹木についてさらに調べてみることに決めた。
そうしてもっと樹皮を剥がしてみたり、コンコンと叩いてみたり、耳を当てて中の音を聞いてみたり、ひとしきり調べた後、「なるほどね」と満足した私は、次に樹木の向こう側のに広がる真っ黒なだけの、何もないようにしか見えない空間に調査対象を移した。
(ふむ、これじゃ、ここから先はただ単にまっすぐは進めないわね。)
これが樹木であるならば、ここにだけポツンと立っているとは考えにくい、他にも自生している可能性が高いだろう。
となれば、ここから先にこのような樹木がどのくらいの範囲で自生しているのか確認しておく必要がある。
これ以上痛い思いはしたくない私は、広域探信魔法で周囲の様子を探ってみることにした。
すると、すぐに探索方向の立体図が浮かび上がった。
広域探信魔法は探信魔法の上位魔法で魔力放出の方法を工夫することで探信魔法よりも素早くより広範囲を立体的に捉えることができる魔法だ。
(やっぱりね、ここから先には同じようなものがたくさん分布しているわ。)
どうやらここは森の入口らしくこの樹木より向こう側には深い森が広がっているようで、私は立体図を確認しながらここから先の進む方向について思案する。
(森を避けて迂回するか、森の中を進むか。)
広がっている森は、広域探信魔法で探索が可能な範囲より広大で実際にどのくらい広がっているのか、この位置からではわからない。
探信魔法が使えるので入ったが最後、迷って抜け出せなくなるような事はないけれど、森に潜む危険はそれだけではない。
私は今まで魔物はおろか自分以外の生物には出くわしていなかったが、この森にそれらが居ないとも限らない。
そして、これほど広大な森ならば、凶暴な大型の動物や今まで見たこともないような強力な魔物が生息しているかもしれない。
しかも、それらは樹木と同じで視覚では捉えられないことも考えられるのだ。
私の理性は全力でこの森を迂回するように訴えていた。
(この森、何かある・・・)
しかし、私の直感は違った。
(今まで何もなかったのに、ここに来て、急に深い森が広がっているなんて、これはもしや何かあるのではないかしら?)
確かにここで無理に危険を冒してまでこの森の中を進む必要はないかもしれない。
しかし、迂回して行くよりあえて森の中を進んだほうが出口が見つかる確率が高そうだと、私の直感が訴えかけてくるのだ。
そしてもし、ここから出るための出口がこの森の中にあるのならば、例え危険な行為であるとわかっていても、この森の中を進む価値は十分にあると、考えている。
そう考えるその根拠は冒険物語に他ならない、大抵の場合、何か重要なアイテムやイベントは大抵の場合、洞窟や深い森のようなダンジョンと呼ばれる場所で起こっているのがお約束だからだ。
まあ、私は現実に生きているので物語と違って都合よく道案内が現れるなんとことはないだろうし、探すのに相当骨が折れるのは間違いないのだけれど。
それはそれとして、この森に潜む生物についても、確かに見ることはできないが、探信魔法を使えば、おおよその位置を安全な場所から確認できる。
私は考えを巡らせつつ、先ほどから広域探信魔法を放ち続け、森の中に大型の動くものがないか、慎重に確認を行なっていた。
そして何度も魔法を使って森を入念に調べてみたが、森の中に大型の生き物のようなものが動いている様子は確認できなかった。
「ふふっ♪」
(動くものは確認できないし、迂回ではなく直感を信じて森を進みましょう。直感だなんて何だか私、熟練の冒険者っぽくないかしら?)
私はワクワクと湧き立つ感情を隠す事なく、早速、森に分け入る準備に取りかかる事にした。
(ちょうど頃合いだし、ここで休憩してから森に入ってみましょう。あ〜、疲れた。しっとりと舌の上で溶ける甘いマドレーヌが食べ・・・。何いってるの?ダメよ、これ以上考えるのはやめなさい。)
私はついつい余計なことを口走りそうになる思考を自分で諫めると、ぶつかった樹木の根元に腰を下ろして、手脚をぐーッと四方に伸ばしてから、樹木を背にして身体を預け、疲れた身体を休めることにした。
ここまで適度に休憩は取っていたが、それでも身体には確実に疲れが溜まっていた。
「く、くふわぁ~、」
(ねたらだめょ・・・)
もう何度目かになるあくびをかみ殺し、そのたびに目尻をハンカチで拭う。
身体を休めるために樹木の根元に座ってからまたほとんど時間もたっていないというのに、溜まった疲れのせいで徐々に目蓋が重くなってきていた。
気づけば目は勝手に閉じ、頭は勝手に下を向いてしまう。
カクッと頭が下を向くたびに意識を浮上させた私は、その都度寝てしまわないように頭を振ったり、身体を動かしたりしていたが、それもやがて眠気には勝てず身体を動かすのが億劫になってきた。
そして、もう手や脚すらも動かすことができなくなってしまった私は、いつの間にか深い眠りに落ちていったのだった。
「あまい、まどれーぬ・・・たべたい。」
背後に広がる漆黒の森の中で、茂みが揺れるその時までー。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
全体の話数もだいたい決まっているのですが、投稿前に修正していると文章が量が多くなってしまいます。
そうなると一話で収まる内容が、二話、三話となってしまい、なかなか話が進まなくなってしまいます。
今後ともよろしくお願いいたします。
下級回復魔法:Schmerzen heilen
着火魔法:Ignition
広域探信魔法:Magnar arrangement